ルートインBCリーグのトライアウト、関西会場からのリポート~監督が求める選手とは
■BCリーグ、3会場目の合同トライアウト
今年もルートインBCリーグは3カ所で合同トライアウトを開催した。11月3日の関東会場(@明治安田生命グリーンランド野球場)、同5日の長野会場(@長野オリンピックスタジアム)に続いて、同12日は関西会場として日本生命貝塚グラウンドで、いずれも日本プロスポーツ専門学校の特別協賛で行われた。
この日までに各地で行われた他リーグや他球団のトライアウトで合格した選手もいるのであろう、エントリーしながら参加しなかった選手も20人ほどおり、投手40人、捕手2人、内野手21人、外野手15人の合計78人で一次テストが始まった。
■厳しい審査
一次テストは50m走のタイムと60m送球のタイムを計測する。いずれも1人2度ずつだ。フライングして自ら止まってしまって出遅れる選手、ボールが大きく逸れてしまう選手など様々で、緊張感が伝わってくる。
ここでまず過半数の44人が不合格となった。この選手たちはピッチングもバッティングも守備も見てもらえない。しかし、計測したタイムがすべてというわけではない。8球団の関係者や首脳陣は、体の使い方やキレ、振る舞いなど、数字以外の身のこなしも“プロの目”で厳しく見ているのだ。
続いて二次テストだ。まずは捕手2人、内野手12人、外野手6人が守備を行い、ブルペンに移動して14人の投手陣がピッチング(1人あたり2分30秒、ラスト30秒はクイック)、そして野手陣のフリーバッティングという順次実施された。
ここまでで残ったのは投手5人、野手11人(捕手2、内野手8、外野手1)で、最終テストはカウント1-1からのシート打撃形式で対戦し、守備にも就いた。
■柳澤裕一監督(信濃グランセローズ)
視察した各球団の監督に話を聞いた。まず今季、北地区で優勝した信濃グランセローズの柳澤裕一監督だ。
柳澤監督のトライアウトを見る視点は「みんなもちろんやる気はあると思うけど、本当にガツガツしているというか、そういう部分はたいせつに見ている。技術だけではなく。上(NPB)を目指す選手を育成する場なのでね」という。どれだけ本気でNPBを目指しているのか、そのガッツがにじみ出てくる選手を欲しているのだ。
信濃は3年連続でNPBに輩出している。監督として、どのような方針で指導しているのだろうか。
「彼らは夢をもって来ているわけだから、僕らも生半可な気持ちで接していない。ただ、プロに行く前に一人の社会人、人間として必要なこと、たいせつなことをまず伝えている。たとえばあいさつ。これは当然のことで、そういうことや身の周りの片づけ、人との接し方、そういうところはこと細かく、うるさく伝えている」。
野球選手である前に、しっかりとした“いち社会人”に育てる。だから、信濃からNPBに行った選手は、礼儀もしっかりしているという。「毎年必ず『シーズン終わりました』っていう連絡をくれる。それはとても嬉しいことで、そういう選手がいるということは、現状の選手にもいい影響を与えてくれる」と、柳澤監督も相好を崩す。
東京ヤクルトスワローズに2020年の育成ドラフトで赤羽由紘選手が2位、松井聖選手が3位で入団し、翌21年に岩田幸宏選手が育成1位で指名されたときのことだ。スワローズの関係者に「信濃だから大丈夫」「信濃の選手だから安心している」と言われたという。それが何より嬉しかったと、柳澤監督は明かす。
「池山さん(隆寛二軍監督)からも直々に連絡をいただいて、『おまえのところなら大丈夫だな』と言ってくださった。赤羽と松井がしっかりやっているからという話で、本当に嬉しかった」。在籍中に厳しく説いてきたことが正しかったと、自身の教育方針にも手応えを深めた。
また、NPBに選手を送り出す一方、柳澤監督が就任してから3度、地区年間優勝し、今季はリーグ優勝にも輝いた。育成とともに勝利も達成しているが、「それは選手の力なので」と謙遜する。ただ、これだけはと選手に口酸っぱく説いていることがある。
「とにかく1球のたいせつさとか1球の怖さだとか、1つのアウトを取ることの難しさだとか、1つのプレーで流れが変わるということは常に言っている」。
これが試合中に集中力を切らさない要因で、それが結果として表れているようだ。今後も方針はブレずに指導していく。
■川村丈夫監督(神奈川フューチャードリームス)
南地区の神奈川フュ―チャードリームス・川村丈夫監督は、「基本はチームに足りていないポジジョンの選手を見にきているけど、その中でも一芸に秀でている選手がいればいいなと思っている」と語る。一芸にもさまざまある。
「やっぱり一番いいのは足。BCリーグからNPBに上がる子ってやっぱり足が速い、肩が強い、そういう選手のほうが門戸は広い。三拍子そろっているというような選手は、どうしても高校生や大学生、社会人でドラフトにかかることが多い。独立リーグからは隠れた逸材をという感じ」。
神奈川は創設3年だが、まだNPBに選手を送り出せていない。来年こそはという思いで、トライアウトでも磨けば光る原石に目を光らせている。チーム成績としては設立初年度にリーグ年間優勝したものの、ここ2年は低迷している。NPBへの輩出とともに、地元ファンは優勝も待ち望んでいる。
「その二軸でいきたいとは思っている。やっぱり勝負事なんで優勝を目指すところはもちろんだし、プラス、その勝っていく中でNPBに行く選手が出たらと思っている。でも結局、その2つは同じ方向を向いているということだと思う」。
NPBに行けるようないい選手が出てくるということは、チーム力が上がるということだ。そんな監督1年目を終えた川村監督だが、指導する上でたいせつにしていることがあるという。
「僕もNPBの経験があるので、NPBではこういう選手を欲しているよとか、そういうところのアドバイスはできる。でも、最終的には“人間”になる。やっぱりNPBで活躍している一流の選手は人間力が高い。素晴らしい野球人は、人としても素晴らしい」。
このことは、選手にしっかり伝えている。「林さん(裕幸ヘッドコーチ)という大ベテランもいらっしゃるので、その方ともいろいろ話しながらやっている。まぁでも、若い子が多いので、なかなかそのへんは苦労しているところでもある」と、人間教育に腐心している。
そういった中で、「選手のうまくいったときの顔っていうのは、本当にいい顔をしているので、そういう顔を見られるのは楽しい」と監督としての喜びを見出している。
「(自身が就任して)まだ優勝していないのでね。なんとか来年は…」。来季も“二軸”を追求していく。
■岩村明憲監督(福島レッドホープス)
北地区・福島レッドホープスの監督を務める岩村明憲氏は、球団オーナーでもある。穏やかな表情ながら、鋭い視線で受験者たちを見ていた。
「見ているのはもちろんプレースタイルもあるけど、野球技の中でいうと足の使い方。かといって、足の使い方だけではなかったりする。野球選手として、たとえばユニフォームの着こなしも含めて。そういうのも大事なことなので、そういうところも見ている」。
意外に思われるかもしれないが、ユニフォームの着こなしはたいせつだと、プロ野球界ではよく耳にする。
「あとは細やかな気遣いができるか。あそこに(散乱した)道具があるけど、あれも気づいて直したりできるか。技術だけではなく、そういったところも見る。だから打った抑えた、それだけではないということ。独立リーグからNPBのドラフトにかかる選手は、スカウトの方たちも間違いなくそういうところを見ている。“内申点”っていうのはすごく大事」。
この日もテストの合間に審判が台車を動かそうとしていたとき、とっさに駆け寄って手伝っていた選手がいたが、「そういう子だと評価が勝手に高くなる。この子、いいなって。こういうことって野球のプレーに通ずるところもあって、二手先、三手先を考えられるということだし、危機管理能力と一緒で、リスクヘッジができるということだから」と、岩村監督の目にも留まり、会話も交わしていた。
「数名ね、気になる選手がいた。そういう選手はぜひ、ウチに来てやってほしいなというのはある。ただね、こればっかりはほかにも7球団あるから(笑)。さらに7球団だけじゃなくて、ほかの独立リーグとの兼合いもあって…」。
現在、あちこちでトライアウトが開催されているため、競合相手はリーグ内の他球団だけでなく、他リーグでもある。縁と運の世界だ。
監督としては来季の優勝を固く誓っているが、それとともに重要な任務があるという。
「もちろん勝つのも大事だし、育成も大事。だけどスポンサーさんとお話をしていく中で、スポンサーさんも人材教育、人材育成という、そっちの“人として”という部分に興味を持たれている方が多い。あいさつなども含めてね。まぁこれは野球選手に限らない、社会人としてではあるけど。そういったこともグラウンドで野球を通じて教えるというか、みんなでやっていこうねということは伝えている」。
これもまた、指導者として本当に重要な責務である。
「もちろん勝つのは大事。野球チームだから。やっぱり勝たなきゃいけないところはあるんだけど、それだけでもない。自分の夢を追いかけるんであれば、プロのスカウトも内申点を見ているよっていうふうになれば、自ずとあいさつもするだろうし、気も遣い始めるだろうし」。
選手の“内申点”が上がるよう人材教育をしつつも、しっかり勝つチームにも育てていく。
話を聞いた3人の監督の話は、ほぼ共通していた。いかに人として、いち社会人として教育、成長させるか。これがもっとも重要な課題であるようだ。
■辻空投手兼ディレクター補佐(埼玉武蔵ヒートベアーズ)
さて、この日は「初めてトライアウトの視察に来た」という人物もいた。埼玉武蔵ヒートベアーズの辻空投手兼ディレクター補佐だ。初めてで、しかも球団の代表として一人で来ていた。
「いい緊張感の中でやっていて、すごくいい雰囲気だと思った」と目を輝かせ、「NPBに行けるチャンスのありそうな子や、一生懸命にやっている子を見ている」と熱心にメモをとりながら、真剣な表情で見ていた。
「左ピッチャーの子がよかった。もうちょっとスピードが速くなればおもしろいなと思った」と育成法までイメージしていたようで、チームにしっかりと“土産”ができたようだ。
埼玉武蔵で4年目を終え、後輩たちにも頼りにされている。選手にとって現役選手に教えてもらえるということは、コーチの指導とはまた違うものがある。ましてや独立リーガーにとって元NPB選手のアドバイスは貴重なのだ。
かつて在籍していた松岡洸希投手(19年、埼玉西武ライオンズⅮ3位)も、「空さんの存在が大きかった」と、当時よく話していた。お手本にし、さまざまなことを教わったという。
辻投手自身も「僕も先輩の話はスッと入ってきた。だから、プレーを実際に見せて教えることができるのは大きい」と言い、「とにかくコツコツ同じことを毎日毎日続けることを大事にと、口酸っぱく言っている。常にコツコツやるしかない、急にうまくなったりはしないよ、と」と、同じプレーヤーとして温かくも厳しい指導をする。
ただ、現在はリハビリ中だ。実は今年6月30日に右肘内側側副靭帯再建術(トミー・ジョン手術)を受けたのだ。通常、復帰に1年から1年半かかるとされている。
「来年の夏くらいには試合に復帰できると思う。ベストなピッチングが見せられるかはわからないけど…。今はリハビリがてら教えている」と言葉での指導はもちろんだが、そのリハビリの過程や汗を流す姿からも、多くのことが後輩たちに伝わっていることだろう。
自身の夢の実現だけでなく、後輩たちの育成のためにも「今後もプレーヤーとしても頑張りたい」と現役にこだわっていく。
辻投手と話していると、一人の受験生が近寄ってきた。どうやら不合格だったが、「ヒートベアーズに入りたい!」と直訴してきたのだ。辻投手も「そう言ってもらえるのは嬉しいこと」と笑顔を見せる。積極性ややる気を買い、球団に持ち帰って独自でテストができるのか検討するようだ。
独立リーグからNPBを目指すからには、これくらいの姿勢と根性は必要だろう。
11月17日にBCドラフト会議が開かれ、そこでそれぞれの運命が決まる。誰がどの球団に縁があるのか。発表を待ちたい。
(撮影はすべて筆者 *マスクを外しているのは撮影時のみ)