プログラム画面デザインの保護とマイクロソフトの「バカげた"特許"」について
今年(2016年)の4月1日における知財関連法の改正としては職務発明関係(これは別途フォローします)と料金値下げ(商標登録料が25%引きになったのが大きいです)等がありますが、もうひとつ忘れてならないものにコンピューターやスマホ上で稼働するプログラムの画面表示のデザインが意匠法によって保護されることになった点があります(厳密では法改正ではなく特許庁の運用の改訂ですが)。
日本の意匠法ではコンピュータープログラムは物品ではないため、プログラムの画面表示デザインは直接的には保護されません。しかし、物品(たとえば、スマートフォン)にあらかじめ記録された画像(たとえば、昔のiPhoneのロック解除画面のスライダー)を、その物品の意匠として登録することはできました。そして、今回の運用変更でこの「あらかじめ」の要件がはずれて物品に記録された画像であれば、その物品の意匠として登録可能になります。要はプログラムの画面デザインが(コンピューターやスマホの意匠として)意匠登録可能になるわけです。画面全体だけでなく、特定の画面部品やアイコンも意匠登録対象になります。
今までは、苦労して作ったプログラムの画面デザインを他社にパクられても著作権法や不正競争防止法での対応は限定的だったので、意匠法による保護ができるようになったことはデザイナーにとって喜ばしいことです(なお、特許と同様に、公知のデザインは意匠登録できませんので、今まで使っていた画面デザインをこれから意匠登録することはできません(最初の公表から6ヶ月以内であれば猶与されますが))。
しかし、その反面、自分の画面デザインが他人の意匠権を侵害しないかのチェック(いわゆるクリアランス調査)が今まで以上に大変になります。特許権と同様に意匠権は知らずに類似してしまった場合でも侵害となりますので注意が必要です。
なお、前述のとおり、公知のデザインは意匠登録できませんので、大昔から使われていたデザインが今になって登録されることを心配する必要はありません。また、自分がずっと前から使っていたデザインに対して、他人が後から出願した意匠登録で権利行使することはできません(一方、商標の場合にはこのリスクがあります)。また、商標とは異なり、意匠登録出願は登録されるまでは公開されませんので、今年の秋以降にならないとどのようなプログラム画面デザインが意匠登録出願されているのかはわかりません(そして、公開された時には既に意匠権は発生しています)。
この機会に是非紹介しておきたいちょっと前の米国のニュースに「MS OfficeのデザインがEFFの「バカげた特許」に」があります。マイクロソフトがオフィススイートで使われるズームスライダーの画面デザインの意匠登録(本記事のタイトル画像参照)に基づいてコーレルを訴えた事件です。ところで、この元記事で言っているpatentとはdesign patentのことであって、日本で言う意匠に相当します。米国は(日本で言う)特許と(日本で言う)意匠を同じ法律で扱っており、どちらもpatentと呼んでいます。知財関連翻訳記事あるあるなんですが、本来は「意匠」と訳すべきだったでしょうね。アメリカでは当初よりプログラムの画面デザインを意匠登録可能でした。
マイクロソフトがこのような当たり前のデザインで権利行使したことに対してEFF(電子フロンティア財団)が皮肉っているわけですが、特許とは異なり、意匠はあくまでも外観デザインを保護するものですから、画面を丸パクリしない限り機能が同じであっても権利侵害にはなりません。コーレルはちょっと甘かったと言えると思います。
今後、同様の事件が日本でも起こる可能性がないとは言えません。リスク管理という観点から言えば、少なくとも他社の画面デザインやアイコンの丸パクリはやめておくべきでしょう。これは意匠権云々の話以前に道義的にすべきでないことではありますが。