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ウマ娘の二次創作をめぐりSNSで馬主を交えた論争が勃発

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
「ウマ娘 プリティーダービー」に登場するニシノフラワー (C)Cygames

そもそも「ウマ娘」とは?

 4月下旬、ゲーム「ウマ娘」とゲームに登場する競走馬をモチーフにしたキャラクターについての二次創作をめぐり、Twitter上で馬のオーナーをまじえた論争があった。馬主と二次創作に関心を持つ人々、普段は直接接することのない両者が直接やりとりをするというのは、いかにもSNSならではの現象である。

 一般的な競馬ファンの方々はなんとなくしか知らないかもしれないので順を追って整理する。まず、「ウマ娘 プリティーダービー」(以下、ウマ娘と略)は株式会社Cygamesが制作しているアニメやゲームで、大変人気を集めている。リリースされた2月以降、スマホ版ゲームのダウンロードランキングでは常に上位にランクインしている。このウマ娘では、擬人化された馬の耳と尻尾を持つ女生徒がキャラクターとして登場し、彼女らが育ちレースに出走して競っている。ゲーム版ではプレイヤーがトレーナー(調教師)として彼女らを管理し、育て、出走させるというものだ。そして、この女生徒たちには実在していた競走馬の馬名が使われている。つまり、牝馬も牡馬も女生徒として擬人化されているのだ。

23日深夜から24日未明にかけて起きた"事件"

 そのウマ娘をめぐり、事件が起きた。

 まず、西山オーナーは所有馬であったニシノフラワー号、セイウンスカイ号らの馬名使用の権利をウマ娘の運営会社である株式会社Cygamesに許諾している。

 西山オーナーはかねてからTwitterなどのSNSを利用しており、ウマ娘でニシノフラワーやセイウンスカイのことを知ったファンからTwitterを通じて「馬の墓参りに行きたい」との投稿があったので、これにリプライ。Twitterを通じて同馬の墓参りの許可と方法を説明した。

 そして、この投稿は約3万のFavorite、1万を超えるリツイートを記録した(注:4月25日現在、Favoriteは1.8万、リツイートは1.8万に増加している)。この時点で、西山オーナーはその反響に「驚いている」としていた。

 問題はその後だ。23日深夜、西山オーナーのTwitterアカウントに対して、某アカウントからウマ娘の成人向け二次創作をめぐる投稿があったのだが、西山オーナーが「二次創作はかまわない」と返信したのをきっかけに"ウマ娘の成人向け二次創作を馬主が合意"と誤解した拡大解釈が勃発した。

 もちろん、西山オーナーが成人向け二次創作を認めるわけがなく、まず午前2時32分に【うちの馬の創作2次使用、エロ使用、固くお断りします。】と、拒否。

 続いて、午前7時12分に、

・調べたら、ウマ娘は全年齢対象なので、全年齢対象となる2次創作はどうぞ。(R指定になるようなものはダメ)

・作品や運営のことはわからず、これ以上は答えようがないので、運営会社から他にお願いやガイドラインがあれば、それに従ってほしい。

 と注意喚起を促すかたちで幕を閉じた。

 こういったウマ娘の二次創作でのトラブルは、今日に始まったことではない。2018年6月、Cygames社はファンに向けて二次創作での注意喚起を促している。

キャラクターならびにモチーフとなる競走馬のイメージを著しく損なう表現は行わないようご配慮いただけますと幸いです。

本作品には実在する競走馬をモチーフとしたキャラクターが登場しており、許諾をいただいて馬名をお借りしている馬主のみなさまを含め、たくさんの方の協力により実現している作品です。

モチーフとなる競走馬のファンの皆さまや、馬主さまおよび関係者の方々が不快に思われる表現、ならびに競走馬またはキャラクターのイメージを著しく損なう表現は行わないようご配慮くださいますようお願いいたします。

【出展 ウマ娘プロジェクトHPより】

https://umamusume.jp/news/detail.php?id=news-0106】

 競走馬は馬主にすれば愛する我が子のようなもの。手塩をかけて育て、投資し続けてきた愛馬が、二次創作とはいえ"成人の玩具"として弄ばれるのは面白いわけがない。

 そもそも、「ウマ娘」そのものが二次創作である。その「ウマ娘」に対する二次創作は馬主からみると三次創作である、ともいえる。そして、法律的な解釈によれば、この三次創作も"二次創作"の範囲として解釈される。

 それらについて、一次ソースの権利者である馬主が寛大な見解を示しているのだから、今後も運営会社の指導に従う範囲内での創作を楽しまれてはいかがか、と思う。

 このようなトラブルに巻き込まれたくない、という理由で馬名使用を許諾しない馬主がいても不思議ないし、仮に自分だったらそうするかもしれない、という気持ちにさえなる。そういう意味では、今回の西山オーナーの対応はとても優しいと筆者は感じている。

 なお、この騒動について西山オーナーが自らまとめたブログ記事があるので参考にしていだきたい。

https://ameblo.jp/nybokujo/entry-12670550148.html

西山オーナー「ウマ娘の影響力にただただ驚いている」

 このバズった日の夕方、西山オーナーに直接お話をうかがった。

 西山オーナーはかねてから娘さんから「ウマ娘でニシノフラワーやセイウンスカイが活躍しているよ」と聞いていたそうだ。

「数十年前に活躍した馬が、いまこうして思い出していただき、話題になっているのを嬉しく思います。ニシノフラワーやセイウンスカイの墓参りに行きたいと言って下さる方もいるので、西山牧場の事務所を通じてきてくださるのはかまわない、とTwitterでお知らせしています。」

 西山オーナーは優しい方だ。昨晩の騒動で深夜早朝まで対応した件については「わたしなりに楽しませてもらった」と大人の対応をみせていた。そして「これまでにないTwitterのアクセス数と、ここまでウマ娘が世間に対して影響力を持っているということに、ただただ驚いている」と話した。

 確かに。西山オーナーは子供の頃から約世紀、競馬の世界を見続けている方だ。約30年間、見続けている私でさえ、ここ最近の"ウマ娘ブーム"はこれまでとは違う切り口で競馬を知ろう、楽しもうとして下さる方がおられることにびっくりしているが、それは西山オーナーはもちろん、これまで競馬に携わってきた人々の多くが感じていることではないだろうか。

 ウマ娘のトレンドを調べたところ、ファン層は20代の男性が多いとのこと。これを機会に、リアルな競馬の盛り上がりはもちろんのこと、競走馬の文化的価値が向上することを切に願う。

 最後に西山オーナーに「ゲーム・ウマ娘をプレイしませんか?」と尋ねたところ、明言はなかったが「うちの娘がしてますから」とまんざらでもないお返事をいただいた。まだゲーム内でニシノフラワーとセイウンスカイはサポートカードやストーリー上でしか登場していないが、いつか育成ウマ娘に登場した際にはゲームに興じるオーナーの姿が見れるかもしれない。

「ウマ娘 プリティーダービー」に登場するニシノフラワー(左)とセイウンスカイ(右) (C)Cygames
「ウマ娘 プリティーダービー」に登場するニシノフラワー(左)とセイウンスカイ(右) (C)Cygames

ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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