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リテールメディアがこれほど流行する理由

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
ファミリーマートなど小売店でデジタルサイネージなど、新たな媒体が増加している(写真:イメージマート)

・リテールメディアの勃興

現在、「リテールメディア」なる言葉が注目されています。この「リテールメディア」とは、小売業者のWebサイト、アプリ、店舗で総合的に展開する広告、あるいは広告戦略のことです。

リテールメディアは、ECの流行と消費者行動のデータ量が増加しているため、既存メディアに代わると存在とされています。小売業者が旧来メディアに宣伝広告を出すよりも、自社媒体に掲載したほうが消費者データを活用しターゲットを絞った広告を提供できるためです。旧来メディアへの出稿よりも効果的になる可能性があります。

たとえばファミリーマートでは店舗にデジタルサイネージで商品を宣伝しています。ファミリーマートには、何か商品を買おうとする人びとが訪問します。”買う気”になっていますし、消費者の好みを把握できれば、効率的な宣伝活動ができます。

米国では、Amazon、ウォルマート、ターゲットなど大手企業のリテールメディアが普及してきました。Amazonは、Amazon Advertisingプラットフォームで有名です。簡単にいえばAmazonに広告を掲載できるものです。売り手は、Amazonのサイトやアプリで自社商品を宣伝できるので、同じく”買う気”になっている何千万人もの潜在顧客にアピールできます。 ウォルマートとターゲットも独自のリテールメディアで追いかけています。

また、中国のアリババも似たシステムを有しています。中国中のブランドがアリババに殺到している状況です。あの国には、膨大な数の消費者がいるわけですから、アリババのリテールメディアを制する者が成功を収めるのは当然かもしれません。

・リテールメディアのユニークな発展

リテールメディアはユニークな発展を遂げました。たとえば米国の例では、小売店舗のデジタルサイネージを利用し、時間帯、天候、特定の顧客行動に基づいてターゲティング広告を表示しています。ウェブサイトでクッキーの利用が議論になるなか、消費者のリアルな行動をベースに広告を可変させるわけです。

たとえば日本でも、コンビニなどで、その日のニュースを解説するようなチャンネルがあったらどうでしょう。その番組を見るためにお客がやってくるかもしれません。誰か私にやらせてくれないでしょうか。

ところで、リテールメディアは、テクノロジーとデータ分析の進歩とともに進化し続けるでしょう。人工知能が消費者行動をより深く理解し、「何を欲しがっているか」を予測できるよります。さらに、より対象者を絞った効果的な広告が可能になるでしょう。

現時点では日本ではリテールメディアは黎明期です。しかし米国では数兆円規模(正確な統計は存在しません)と予想されます。リテールメディアは小売業にとって不可欠にっています。

・リテールメディアの、さらにユニークな発展の可能性

さらに将来、リテールメディアが新しい形のエンターテイメントメディアになるかもしれません。 新人歌手のミュージックビデオを流すコンビニエンスストアのデジタルサイネージがありえます。

コンビニに入ると、人気のアーティストの最新ミュージックビデオを見ることで、お客はにユニークな購買経験を味わうかもしれません。もちろんYouTubeでもミュージックビデオは見られますが、(想像もしなかったような、しかし好みの)アーティストが潜在的なファンと出会える新しいプラットフォームが登場するかもしれません。

現在、AmazonやFacebook(Meta)、Googleは広告プラットフォームをもち、そこから各サイトに広告を掲載できますが、同様に将来はミュージックビデオをアップロードすると審査後にコンビニで流れる……といった仕組みです。

さらに、ミュージックビデオを超えて広がる可能性があります。3分ほどの短編映画、ドキュメンタリー、他のコンテンツなど、小売店がミニシアターに変わる可能性さえ秘めています。さらにお客はより多くの時間を店舗で費やすため(ヤンキーのたまり場になる懸念を無視すれば)客単価も上昇する可能性があります。

・リテールメディアのテクノロジーとの融合

また米国ではインタラクティブなコンテンツも検討されています。たとえば、店舗内のデジタルサイネージを使用して、クイズやゲームはどうでしょうか。勝者は商品の割引券などを受け取る仕組みです。私も好きな芸能人から「ゲームをしましょう」とサイネージ上から声をかけられたら立ち止まってしまうかもしれません。さらに割引券とともに「買ってね」といわれたら買ってしまいます。

さらに拡張現実 (AR) や仮想現実 (VR)をリテールメディアが活用するアイディアもあります。たとえば、小売店に滞在するお客がARメガネを使うと、実店舗に重ねて新たなコンテンツやイベントを経験できるものです。たとえば商品を手に取ると、その商品にまつわるブランドストーリーが流れてきたら、これまでにない商品選定経験となりますね。

これから、小売店に入った瞬間に、そのお客の過去の購入履歴や(ウェブを含む)商品の閲覧履歴に基づいて、デジタルサイネージでオススメ商品を表示するようになるでしょう。気持ち悪くはあるものの、リテールメディアを使った新たな可能性といえます。

リテールメディアは旧来のメディアの代替となりうると話しました。形やテクノロジーを変えながらも、いまだに私たちは「広告の時代」に住んでいます。

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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