ユナイテッドアローズ重松名誉会長が推す、創業280年の帯問屋の美意識と志
日本を代表するセレクトショップ「ユナイテッドアローズ」(UNITED ARROWS)の創業者である重松理名誉会長がプロデュースする専門店が「順理庵」だ。東京・銀座の本店隣で、創業280周年を迎える京都の帯問屋、誉田屋源兵衛(こんだやげんべい)と記念企画展「織姫月」を8日まで開催している。
実は重松氏は、1976年に創業した「ビームス」(BEAMS)を企画・立案し、立ち上げを担って常務まで務めた人物。その後、1989年にユナイテッドアローズを創業して一部上場企業に育てており、日本を代表する2大セレクトショップを生み出した、「ミスター・セレクトショップ」ともいえる。
現役時代から、世界中の良いものをセレクト編集して日本を中心に販売してきたが、次第に日本の職人技や伝統工芸品、それらにモダンなエッセンスを加えて伝統と革新を融合させた商材など、日本の逸品に魅せられ、後世に残すことを使命と感じるようになってきたという。そこで経営から退いた2016年、日本の伝統的な技法で織られた生地を日本の工場で縫製した衣料品や、全国から厳選した木工品などをそろえた趣味性の高い小さな専門店「順理庵」を銀座に開業。六本木ヒルズ内で改装オープンした「ユナイテッドアローズ」六本木店の一画にも店を構えている。
並行して、老舗帯問屋の誉田屋源兵衛と鹿児島・奄美に手織り物の製造・販売会社として檸檬草(れもんそう)を設立。民家や保育園跡地をリノベーションした工房を開設し、職人の活躍の場を提供するとともに、人材を育成し、通常や和装に使われる織物をジャケットやスラックス、ワンピースなどの洋装として「順理庵」や伊勢丹新宿店のポップアップストアで販売するような活動を続けてきた。
280年続く「誉田屋源兵衛」とその承継者・山口源兵衛氏の魅力について、重松氏は「伝統的な技術を使いながら、常に革新性を持たせながら、究極の美を持つ完成品作りを目指し続けていることだ。源兵衛さんはあまり日本にはいないタイプのプロデューサーであり、モノづくりや新しい技術の取り入れ方などの本気度がすさまじい。海外では美術品、アートと同じ評価をされていて、英国ロンドンの『ビクトリア&アルバート美術館』にもパーマネントコレクションとして収蔵されているほどだ」と話す。
今回の企画展は、「順理庵」隣の和装店舗が移転し、一時的に空きスペースが発生したため、急遽、7月5日から8日までの4日間限定で、京都の「誉田屋源兵衛」の収蔵品などを披露し販売することを決めたもの。わずか4日間のために、京都の本拠地に近い設えを再現しているのも、その美の世界をしっかりと感じ取ってもらいたいがための決断だ。「このすばらしいものを多くの人々に直接見て、知ってもらう機会を提供したかった。そこにかかわるモノづくりの背景を知るプロの方々から、製法やモチーフの意味などを聞くことで、そのすごさが分かってもらえたら」と重松氏。
一方の山口氏は自身のモノづくりについて、「オフクロから言われた、『美しさが照り輝くようなものを作れ』『女を損させるようなものを作るな』という言葉に従って最高のモノづくりを目指してきた。過去の織物にも素晴らしいものが多くあるし、技術も継承すべきだが、現代の技術や今だから勝てることをしないといけない。それが『伝統と革新』だ。ただし、革新の仕方が浅いと笑われる。それが本格的なものであれば、不易流行となる。いかに普遍性を持つかに挑戦したい」と語る。
今回、展示販売された “逸品帯・きもの”は、30万円台から1000万円超まで。フェルメールや東山魁夷が好んで使ったラピスラズリの青を染料にしたボタンを大胆にあしらった日光東照宮由来の柄帯や、実際にクジャクの羽を織り込んだ玉虫色の帯や、目玉模様の帯。3匹のキツネや菊、桜、菖蒲(しょうぶ)などのモチーフをのせた足利義経の赤鎧(よろい)、赤漆(うるし)の上に金糸を配したうずまき模様など、驚きの連続だ。
皇居内の紅葉山御養蚕所だけで飼育されていた純日本品種の古代繭「小石丸」のシリーズや、重松氏と協業する「檸檬草」、エイベックと協業する大麻布を使った「麻世妙」も紹介している。
「今、私たちが一番恐れているのは、日本で着物を着る人がいなくなることではなく、日本の精神性や文化が消えてしまうこと。文様に宿る意味なども含めて、着物を通じて残していきたい」という山口氏と重松氏の想いを、一人でも多く受け継いでいくことが期待される。