韓国の「不法判決」で日韓関係は修復不能となるか?
故人を含む元慰安婦12人が日本国(政府)を訴えた損害賠償訴訟で、ソウル中央地裁が8日、原告側の請求を認め、日本政府に対し原告1人につき1億ウォン(約950万円)の賠償支払いを命じたことで注目の判決は日本の敗訴となった。今月13日にも元慰安婦ら20人が計約30億ウォンの賠償を求めた同様の訴訟が予定されているが、おそらく同様の判決が下されるだろう。
ソウル中央地裁の判決には三つの点で問題がある。
一つは、国際民事訴訟では被告が国(政府)の場合、外国の裁判権から免除されるとする「主権免除」の原則を順守しなかったことだ。即ち、国際法に反したことだ。これが逆の立場ならば、おそらく韓国は猛反発するだろう。
次に、2015年12月の「日韓慰安婦合意」に基づき、日本政府がすでに慰安婦らに対して「心からのお詫びと反省」(安倍総理=当時)を表明し、10億円を拠出しているにもかかわらず、原告1人にあたり1億ウォンの賠償支払いを命じたことだ。金銭問題はすでに決着済なのである。
最後に、一連の日韓の合意に反していることだ。
元徴用工問題にせよ、慰安婦問題にせよ、その内容に不足な点があったとしても国民が選んだ時の政権が懸案解決と関係改善のため日本との間で様々な条約、協定、合意を交わしたのである。国と国の約束は条約にせよ、合意にせよ、行政に限らず、司法も立法も順守しなければならない。国家は三権から成り立っているからだ。
結局のところ、ソウル地裁の判決は「韓国政府が元慰安婦の賠償請求に関する日韓間の協定解釈の相違をめぐる争いを解決しないことは憲法違反」とする2011年8月の憲法裁判所の判決と、元徴用工問題で新日本製鉄(当時・新日鉄住金)に対し原告4人に1人あたり1億ウォン(約1000万円)の損害賠償を命じた2018年10月の大法院(最高裁)の判決に右ならえし、一歩も踏み出すことはなかった。
一度ならず、二度も国際法を無視され、それも企業ではなく、国が賠償支払いを命じられたとなると、まして、1965年の日韓基本条約に伴う措置法により権利は消滅したとして日本国への賠償義務を認めなかった2004年の日本の最高裁の判決とは真逆の結果となったことや日韓関係改善のために元徴用工問題の解決を求めている最中に新たなトラブルを突き付けられたことなどからして日本政府の反発は必至だ。韓国に対する反感、嫌韓感情はピークに達するだろう。
日本政府はこれまで国際法上の「主権免除」を盾に応訴せず、審理に出席しなかった。敗訴したことで控訴すれば、これまで無視してきた訴訟に参加すると言う矛盾した格好となる。従って、控訴はしないだろう。しかし、控訴しなければ、ソウル地裁の1審が確定し、日本企業同様に韓国国内の日本政府の資産が差し押さえられ、現金化される恐れがある。
日本政府としては、どちらにしても元徴用工問題同様に韓国政府を外交的に圧迫し、必要ならば経済的制裁を仄めかしながら韓国政府に解決を委ねるほかないが、韓国政府がこれまでと同様に司法の判断には介入しないとの立場を貫けば、日韓関係は更に悪化し、修復困難に陥るだろう。
結局のところ、元徴用工の問題も元慰安婦の問題も根本的には同類、同質な問題なので解決するには司法ではなく、行政、立法による一括政治決着以外ない。
しかし、対韓外交では安倍政権の強硬路線を継承していることや「コロナ」の問題で窮地に陥っている状況下にあって菅政権が韓国に妥協する可能性はゼロに近い。となると、文在寅政権が譲歩するほかないが、文大統領も支持率が急落しているだけに容易に日本に歩み寄ることはできそうにもない。
どうやらこの問題も元徴用工問題同様に長期化することになりそうだ。