逃げ遅れ(遅い対応)の後のパニックは最悪:韓国MEARS問題から学ぶ命を守る方法
■パニックより逃げ遅れが問題
災害や感染症の大規模発生時に、人々はパニックを恐れます。パニックを恐れて、情報を隠します。緊急の判断や対応が遅れます。しかし、災害心理学の研究によれば、人々は簡単にはパニッックを起こしません。人はパニックではなく、逃げ遅れによって亡くなることのほうが多いのです。
そして最悪なのが、逃げ遅れ(遅い対応)の後の、パニックです。
■診断・対応・情報の遅れ
韓国MERSの問題では、MERSと診断するのが遅れた問題があります。MERSに詳しい医師であれば、早期に診断できたのですが、MERSの診断できないまま、患者のドクターショッピングや大部屋での入院となり、感染が広がりました。
世界保健機関(WHO)も韓国のMERS対応の遅れを指摘しています(<韓国MERS>WHO、対応遅れ指摘 「4次感染」初確認:毎日新聞 6月13日)
またWHOは、「透明で迅速な情報公開が遅れたのが初期対応に失敗した原因の一つ」と指摘しています(WHO「韓国政府の情報公開の遅れでMERS防疫失敗」ハンギョレ新聞 6月15日)
韓国政府は、当初MERSが発生した病院名を発表しませんでした。国家伝染病災難(災害)レベル引き上げにも消極的です。パニックを恐れ、イメージダウンを恐れたのでしょう。
政府は収束へ向かうと発表するのですが、その数日後にWHOは「感染は地域社会に広がってはいないが、引き続き最大限の警戒が必要だ」「終息には時間が掛かる」と発表します。
国民も、ほんの少し前まで、感染症予防行動に消極的でした([韓国MERSとマスク問題:笑う、バカにする、叱る?:「知的ワクチン」で感染症と戦う方法 ]:Yahoo!ニュース個人)。
現在は、「日本の1万円マスク、MERSの影響で注文殺到」といった報道もあります。
■不信とパニック
このような状況で政府に対する不信感が高まります。「韓国、MERS患者が病院の鍵壊し逃げ出す」といった報道も出てきました。マスクが品薄との情報も流れます。
子どもの親たちも不安が高まり、最大2900校の学校が休校しました。
現在の韓国社会をMERSパニックなどと呼ぶのは間違っています。しかし、対応が遅れ、そのために今度は行き過ぎた行動が出たことは事実でしょう。
大慌てすれば、必要以上のマスクや感染予防グッズを買いあさります。すると、品切れの店が出ます。そうなれば、さらに切迫感が募り買占めが起き、本当に必要な人の手に渡らないことさえ発生します。
これは、どこにでも起きることです。東日本大震災と原発事故発生後、被災地では助け合いが行われていたのに、被災地から遠く離れた大都会でペットボトルの水の買占めが起きました(「防げ!水道水パニック:みんなで赤ちゃんを守ろう」心理学総合案内こころの散歩道)。
あわて出した人々による行動によって悪循環が生まれれば、様々な被害が発生します。本当のパニックも近づいてしまいます。
学校休校の措置も、非科学的であり、WHOは「学校はMERSの感染経路とは無関係」だとして、授業再開を勧告しました。何事においても絶対はありませんが、行き過ぎた対応は、新たな問題を発生させます。
学校閉鎖は、15日現在440に減っていますが、再開されても登校しない子どももいると報道されています。
しかし、自宅隔離であるはずの人が、夫婦でゴルフに行ったり、近所を歩いたり、さらに海外まで行く例も報告されています。混乱は続いています。行き過ぎた行動があり、一方であまりに不用心で指示を無視した行動も見られます。その報道で、さらに慌てる人も出てきます。
■逃げ遅れ後のパニックを防ぐために
逃げ遅れ後のパニックとして最も有名なのは、タイタニックでしょう。数時間後に船は沈むとわかった後も、船員の適切な避難誘導行動は遅れます。明るい豪華客船から、暗い海へ小さなボートで降りることを当初は拒んだ乗客もいました。
しかし、船が大きく傾き始めると、今度はパニックが発生しました。落ち着いて行動すれば助かったはずの多くの命が失われました。
タイタニックは、最大最新の「不沈艦」でした。その処女航海で沈むことなど、だれも予想していませんでした。昔の人は愚かだと笑うことはできません。過信による油断は、いつも起きています。
非常事態発生前からの十分な準備、訓練、備え、そして緊急時の速やかで正確な情報提供とリーダーシップの発揮。これが、私たちの命を守ります。