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「市町村長はワクチン優先接種対象者」という主張の真偽

dragonerWebライター(石動竜仁)
(写真:ロイター/アフロ)

 市町村長ら自治体幹部がキャンセル分を利用して自身にワクチン接種させた事が相次いで報道されています。

 茨城県城里町の上遠野(かとうの)修町長(42)が4月下旬、町内の高齢者に先駆け、新型コロナウイルスのワクチンを接種していたことが明らかになった。

42歳町長、高齢者に先駆けワクチン接種 「私も医療従事者」

兵庫・神河町でも、62歳の山名宗悟町長が、65歳以上の高齢者を対象にした集団接種の初日に、ワクチンを接種していたことがわかった。

新型コロナワクチン 兵庫でも62歳町長が初日に接種 会見で陳謝

 ネット上ではワクチン接種の公正性、効率性を巡って様々な意見が飛び交っていますが、効率性から問題無しと主張する人達の中で、ある主張が画像と共に拡散されています。市町村長ら特定の公務員は、ワクチンの優先接種対象者であるという主張です。

 主張と共にネットで拡散されている画像の一例をみてみましょう。

ネットで拡散されている「特定接種対象者」の画像
ネットで拡散されている「特定接種対象者」の画像

 上の画像は政府の「新型インフルエンザ等対策有識者会議 社会機能に関する分科会(第9回)」で配られた資料のスクリーンショットと見られ、これを根拠に市町村長は優先接種対象だと主張しているようです。

 さて、この「特定接種」という制度は、2013年に施行された新型インフルエンザ等対策特別措置法の中で定められたもので、「医療の提供又は国民生活・国民経済の安定に寄与する業務を行う事業者の従業員や、新型インフルエンザ等対策の実施に携わる公務員に対して行う予防接種」(厚労省資料(PDF)より)とされています。

 医療や行政、経済を維持するための制度であり、そのために優先的にワクチン接種を行う人々があらかじめ指定されているのです。対象者には市町村長ら自治体幹部も含まれており、2018年度では561万人が対象者として登録されています。

 ここまで見れば「市町村長も含まれるから接種も問題無いな」と思われるかもしれません。しかし、実際は違います。今回の新型コロナワクチン接種において、特定接種の枠組みは取られていません

 昨年の段階では、政府が特定接種を検討しているという報道もありました。

 新型コロナウイルス感染症のワクチンを接種する優先順位について、政府が夏にも大まかな方針をまとめる計画であることが9日、分かった。新設した新型コロナ対策分科会で議論する。医療従事者や重症化のリスクが高い人が優先される可能性がある。(中略)

 新型インフルエンザの流行に備えて政府は「特定接種」と「住民接種」という制度を設けている。特定接種は、社会機能の維持に必要な職種の人を優先する仕組みで、医療従事者や公務員、インフラ企業の従業員が対象。特定接種が進んだ後に、地域の住民に向けた「住民接種」が始まる。分科会では、新型コロナでこの仕組みをどう使っていくかも検討する。

共同通信「ワクチン優先順、夏に方針 職種や重症化リスクを考慮」2020年7月10日

 しかし、最終的には特定接種の枠組みは使われていません。今年2月9日に内閣官房・厚生労働省が定めた「新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの接種について」(PDF)では、次のように接種の方針を定めています。

4 接種の実施体制

(1)接種の実施体制については、特定接種の枠組みではなく、予防接種法の臨時接種の特例として、住民への接種を優先する考えに立ち、簡素かつ効率的な接種体制を構築する。

内閣官房、厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの接種について」

 上にあるように「特定接種の枠組みではなく」と宣言されており、今回の新型コロナワクチン接種では、特定接種の枠組みは利用されていないのです。

 優先接種対象者でないにも関わらず接種をうけた首長らは、いずれも特定接種の枠組みであると説明したとは報道されておらず、ネットで出回っている「市町村長は優先接種対象」だという主張は、都合の良い事実の切り取りか、接種の制度そのものを誤読していると思われます。

 また、接種をうけた首長の釈明を見ても、特定接種の概念は出てきません。兵庫県神河町の山名宗悟町長は「危機管理を担う立場から接種した」(朝日新聞記事より)という主張は特定接種の考えに近いのでまだ分かるのですが、茨城県城里町の上遠野修町長は「接種は(町の)保健センターで行われるため、その開設者である私も医療従事者」(毎日新聞記事より)とかなり無理のある主張をしています。

 先日、ドラッグストア大手スギホールディングス会長夫妻に愛知県西尾市が接種の便宜をはかった事が報じられましたが、便宜に至るまでの秘書と行政とのやりとりでは、会長夫妻が薬剤師でも現場に立っていないことから医療従事者とみなされていませんでした(東海テレビ記事)。上遠野町長の主張はこうした例からも通るのは難しいでしょう。

 真に効率を謳うなら、接種のキャンセルは確実に出るのだから、最初からキャンセル分の扱いをガイドラインなりを定めて公表すればよかっただけの話で、不公正への不満と無用の混乱を招いた首長らの行動は、効率の観点からも批判されてしかるべきものではないでしょうか。

Webライター(石動竜仁)

dragoner、あるいは石動竜仁と名乗る。新旧の防衛・軍事ネタを中心に、ネットやサブカルチャーといった分野でも記事を執筆中。最近は自然問題にも興味を持ち、見習い猟師中。

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