敬老の日に考える 「シニア起業」に必要なこと
以前から「起業」を支援するセミナーやコンサルティングを客観的に見ていてつねづね違和感を覚えることがありました。悪くはないのだけれども大事なことを忘れていないだろうか。シックリこない苛立ちというか、焦燥というか、なんと言うのだろうか、いずれにしても重要なファクターがその支援の形に欠落していると思うことが多いのです。
おそらく、そのようなセミナーやコンサルティングセッションは、起業家を目指す人たちを相手に、「何」の事業をするのかというアイデア出しに終始しているからだろうと私は考えます。つまり「事業アイデア」のこと。事業のアイデアさえ、誰も思いつかないようなものであれば、もう起業家として成功したようなもの。だから世間に向けてアンテナを張り、頭を使え、斬新な発想で世間を驚かせろ的な起業支援が多いのでは、と。
そうなると、「スマホ向けタクシー配車のアプリ」を作るだの、「3Dプリンターを使った企業向けソリューション」を作るだの、「外国人向けペットビジネスを事業化する」だの、ありそうでナイような、ないようでアルような発想ばかりが練り上げられ、起業家支援のコンサルタントと一緒に、アレもダメだ、コレもダメだ、と髪の毛をむしりながら考え込んでしまうハメになるのです。そうこうしていると時間だけがイタズラに過ぎ、結局のところ「会社勤めが一番いい」といった消去法で起業を断念してしまうのです。私はこういう人をこれまでにたくさん見てきました。
特に、人生経験の少ない若者たちは、これまでの短い人生の中で見聞きしたものの範疇でアイデアを出そうとするから、よほど偶発的な事件でも起こらない限り、創造的で、人の心を鷲掴みにするようなアイデアを着想することは難しい。たとえば18歳や19歳の若者が、火葬場にあるロストル式火葬炉を、もう一工夫することによって、骨化するまでの時間を短縮することができる云々……といったアイデアを案出することができるか、というと、けっこう困難であろうと思うのです。
その点、50代や60代以降のシニア世代であれば、これまで務めてきた会社で培った技術、ノウハウを糧にして、大企業ではやりたくてもできなかった、ニッチで、ユーモラスで、新しい事業アイデアを創り出すことはできるかもしれません。少なからず、前出した「斬新な発想で世間を驚かせろ的な起業支援コンサルタント」のセミナーではいろいろなアイデアを披露し、活躍できそうな気がしています。
ただ、事業を安定して継続させていくためには、事業アイデアだけで引っ張ることはほぼ不可能です。プロダクトが魅惑的であれば、自然と顧客が寄ってくるかというと、そんなことはあり得ません。特にこの高度情報化時代、マーケティングの手法は極めて複雑化しています。リアルとバーチャルとの混合型プロモーション戦略を駆使しないと、体力のないベンチャー企業は1~2年で消散することになります。
起業するには「何」を事業とするのか? 現存する企業がやっていないような、斬新な「アイデア」がなければ起業は難しい、そもそも起業する意味がないではないか、という発想はほどほどにし、その事業を「どのよう」に想定顧客に知らしめ、「どのよう」に販売し、キャッシュにするのか。そしてそれを「どのよう」に維持するのか、という知識が不可欠です。つまり「マーケティング」全般の知識です。
総務省は20日、65歳以上の人口が3384万人に、80歳以上は初めて1000万人を超えたと発表しました。超高齢化社会は目の前です。
私は、シニア世代にはもっともっと起業してもらいたいと思っています。若手より、モチベーションという意味でも、新奇性豊かなアイデア力という意味でも、有利であると考えます。SNSの普及により、仲間も資金も集めやすい時代となりました。正しい「マーケティング」の知識を身につけ、第二の人生、青春を、「起業」に燃やすというのもよいではないかと、敬老の日に考えました。