コメディエンヌ、オードリーがここに!!「午前十時の映画祭」8月の目玉は「おしゃれ泥棒」
日本全国の映画ファンに向けて、厳選された名画を鮮明な映像と共に提供してきた「午前十時の映画祭」も、今年で数えて8回目。去る4月1日から来年3月23日までの1年間、全国56の劇場をAグループとBグループに分け、全28作品を交互に上映する「午前十時の映画祭8 デジタルで蘇る永遠の名作」の8月の目玉は、魅惑のオードリー・ヘプバーン特集ではないだろうか。
1960年代は女優オードリーの円熟期
今回上映されるのはオードリーのハリウッドデビュー作「ローマの休日」(53)、翌年の「麗しのサブリナ」(54)、「昼下りの情事」(57)、以上、彼女がグレゴリー・ペック、ハンフリー・ボガート、ゲイリー・クーパー等、年上の男優相手に清純なイメージを前面に押し出して演じたラブロマンスと、もう1本、オードリーが36歳で出演した同映画祭では初上映となる「おしゃれ泥棒」だ。オードリー・ヘプバーンと言えば1950年代が女優としてのピークだと思われがちだが、実は、映画通やプロの間で最も評価が高いのは、彼女が結婚生活の苦闘をリアルに演じた「いつも2人で」(67)だし、同年の「暗くなるまで待って」では数えて6回目でキャリア最後のオスカー候補にも名を連ねている。
つまり、ウィリアム・ワイラーやビリー・ワイルダー等、伝説のフィルムメーカーたちの下で長年培った演技力が、形として明確に表れたのは、むしろ1960年代だったのだ。「おしゃれ泥棒」はオードリーが全身全霊を投入し、結果的に消耗した「マイ・フェア・レディ」(64)の後、恩師ワイラーに3度身を託し、コメディエンヌとして、また、時代をリードするファッション・アイコンとして、新たなスタートを切った作品。これまでTVやDVDでしか観ることがなかったファンにとって、8月(~9月)の劇場上映は大画面で"新生オードリー"を楽しむには絶好のチャンスだ。
パリに住む美術品収集家のシャルル・ボネは、実は代々続く贋作画家。自宅に眠る偽物の1つがオークションで高値で競り落とされたことをカーラジオで聞いた娘のニコル(オードリー)は、何はともあれ帰宅を急ごうとする。ニコルはかねてからボネに贋作作りを止めるよう説得しているのだ。ジバンシーが当時のトレンドであるモッズをアレンジした、白いハットと白いフレームのサングラス、そしてスーツを纏ったオードリーが、真っ赤なミニカーで登場したその瞬間から、観客は何か面白いことが起きそうな予感で思わず浮き浮きするはず。そんな今はメッキリ少なくなったスターマジックに酔いしれる間もなく、物語は、やはり偽物のヴィーナス像を美術館側が科学鑑定にかけることも知らず、うっかり出品してしまったボネ親子が、いかにして偽物発覚を免れるかを軽いユーモアを交えながら一気に描いて行く。
深夜ボネ邸に侵入し、偽物の証拠を漁っていた美術鑑定のエキスパートであるデルモット(ピーター・オトゥール)を泥棒と勘違いしたニコルが、偽物がバレる前にヴィーナス強奪を持ちかける。勿論、デルモットは端から裏事情を承知していたが、それは隠したまま、父親のために危険を冒そうとするニコルの切実な思いと、何よりも彼女の魅力に免じてヴィーナス強奪計画を進めていく。
パリの老舗美容院&エステサロン、アレクサンドルがスタイリングした、もみあげをエッジィにカットしたショートヘアと、濃いめのアイラインが斬新なオードリーは、冒頭の白いスーツの他に、デルモットと計画を打ち合わせるためにホテル・リッツのサロンに現れる時の黒いシースルードレス(マスクの下で瞼のラメがきらきら)、やはり、モッズを意識したミリタリーコート、ヘリンボンのスーツと、次々ジバンシーのハイファッションに身を包んで登場。それに対し、「アラビアのロレンス」(62)で一躍脚光を浴びた直後の当時、34歳(オードリーより2つ年下!)のオトゥールは、透き通るようなブルーの瞳と、白い裏地が付いたウェルメイドなタキシード等でオードリーに対抗。往年のベテラン共演者とは違う若々しさを振りまいて、映画に軽快なユーモアとリズムをもたらしている。
ブーメランを使った強奪計画は、警備員の1人が勤務中、秘かに愛飲していたワインのミニボトルをネタにして、抱腹絶倒のクライマックスへと突き進む。問題の警備員を演じているのは、続く「いつも2人で」にもドライバー役でチョイ役出演している伝説のコメディアン、ムスターシュ。警備隊長役のジャック・マルティンは「シャレード」(63)でオードリーを追いつめる刑事を演じている。どちらも、1960年代のオードリー映画には欠かせないバイプレーヤーたちだ。
狭い倉庫内で体をくっつけ合ううちに、デルモットと愛を確かめ合ったニコルが、ラスト近く、懐かしそうに室内を見回してから外へ出て行く。たとえコミカルな泥棒映画でも、ヒロインの心理を本物として表現できるオードリーならではの世界観が、そこにある。そもそも、女優主導の泥棒映画というジャンルが影を潜めて久しいハリウッドの古き良き時代が、オードリー・ヘプバーンという希代のスター女優によって蘇るのが、「おしゃれ泥棒」。こんなノーテンキでアバウトな邦題(原題は"100万ドルを盗んで幸せに暮らす方法")も含めて、この夏は'60年代を思う存分満喫して欲しい!!
午前十時の映画祭8 デジタルで蘇る永遠の名作
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【ローマの休日】
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【麗しのサブリナ】
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【昼下りの情事】
(C) 1957 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. and Warner Bros., Inc. All
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