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こけおどしの天気解説

森田正光気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長
7月3日14時の気象衛星画像

今回の局地的豪雨に関して、「クラウドクラスター(Cloud cluster)」が原因との解説を聞きました。クラウドクラスターの説明は気象衛星センターの用語欄を参考にしていただくとして、簡単に言えば、積乱雲のかたまりが、次々にやってくることと理解すればいいと思います。

しかし、ここで私が取り上げたいのは、その字句のことではなく、最近のテレビの天気解説の用語の使い方についてです。

簡単に「積乱雲のかたまり」といえばいいのに、なぜ「クラスター」と、わざわざ英語に置き換えるのか?最近読んだ「日本人のための世界史入門(小谷野敦)」という本に、以下のようなことが書いてありました。

”小林秀雄は「アキレスと亀」を、わざわざフランス語読みで「アシルと亀の子」とした。わざわざ一般人に分かりにくいフランス語を使ったのは、小林のこけおどしである。また吉本隆明も「マタイ伝」を「マチウ書試論」とか、イエス・キリストを「ジェジュ」とフランス語で呼んだりして、こけおどしをしている”

これを読んで、”ああ、天気解説もそうだ”と、妙に腑に落ちました。

昔、詩人の谷川雁の本で(他者を批判するとき・・)「知識人には知識を持たない者の言葉で、知識を持たない者には知識人の言葉で・・・」というような文章を読んだことがあります。いま考えると、この谷川雁の言葉も、こけおどしの効用を言ったように思います。

テレビの天気解説に限らず、日常用語の中にも横文字がやたら氾濫し、私は「こけおどしの時代」だと考えています。

誤解なきように言いますが、私はこうした「こけおどし」の表現を批判するものではありません。むしろ、おおいに「こけおどし」をやればいいと思っているくらいです。

ただそのとき、発信者に知識の源泉が無いと、すぐに底の浅さを感じ取られて、やがては消えていくということになるのでしょう。

気象衛星の解 析用語というのは、アメリカから伝わった技術なので、日本語に置き換えられない用語もいくつかあります。以下のホームページを参考になさって下さい。

気象衛星センター

http://mscweb.kishou.go.jp/panfu/product/pattern/index.htm

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長

1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。天気と社会現象の関わりについて、見聞きしたこと、思うことを述べていきたい。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』(共立出版)という本を出版しました。

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