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アトピー性皮膚炎は一生続く?専門医が解説する経過と予後

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【アトピー性皮膚炎の長期経過:子供から大人まで】

アトピー性皮膚炎は、多くの方が経験する皮膚疾患です。かゆみや湿疹を主な症状とし、小児期に発症することが多いのが特徴です。しかし、その経過は人それぞれで、大人になっても症状が続く方もいれば、自然に軽快する方もいます。

今回は、アトピー性皮膚炎の長期経過について、最新の研究結果をもとに解説していきます。

まず、子供のアトピー性皮膚炎の経過についてです。以前は、多くの子供が成長とともに症状が改善すると考えられていました。しかし、最近の研究では、症状が持続するケースも少なくないことがわかってきました。

例えば、アメリカの大規模な追跡調査では、軽度から中等度のアトピー性皮膚炎の子供の80%以上が、10年後も症状が続いていたという結果が出ています。ただし、症状の程度や持続期間には個人差があり、一概に言えないのが現状です。

【症状が持続するリスク要因とは?】

では、どのような要因が症状の持続に関係しているのでしょうか。研究結果から、以下のような要因が挙げられています:

1. 発症年齢が早い

2. 症状が重い

3. アレルギー疾患の家族歴がある

4. 他のアレルギー疾患(喘息や花粉症など)を併発している

5. 特定の遺伝子変異がある(フィラグリン遺伝子など)

6. 都市部に居住している

これらの要因が重なると、症状が長期化する可能性が高くなります。特に、発症年齢が2歳以下の場合や、症状が重い場合は注意が必要です。

また、興味深いことに、人種や民族によっても経過に違いがあることがわかってきました。アメリカの研究では、アフリカ系アメリカ人や他の非白人の子供たちは、白人の子供たちに比べて症状が持続しやすい傾向にあることが報告されています。

日本人におけるアトピー性皮膚炎の長期経過については、まだ詳細な研究データが不足しています。しかし、欧米の研究結果を参考にしつつ、日本人特有の遺伝的・環境的要因を考慮した研究が今後必要だと考えています。

【大人のアトピー性皮膚炎:経過と管理の重要性】

では、大人のアトピー性皮膚炎はどうでしょうか。従来、アトピー性皮膚炎は「子供の病気」と考えられがちでしたが、実際には多くの方が成人期以降も症状に悩まされています。

アメリカの研究によると、中等度から重度のアトピー性皮膚炎を持つ成人の多くは、症状の強さや範囲が時間とともに変動することがわかりました。完全に症状が消失することは稀で、多くの方が症状の悪化と改善を繰り返しています。

特に注目すべきは、かゆみと痛みの経過の違いです。かゆみは多くの患者さんで持続または変動しやすいのに対し、痛みはより改善しやすい傾向にあります。このことから、かゆみと痛みは別々のメカニズムで生じている可能性が示唆されています。

アトピー性皮膚炎の長期管理において重要なのは、症状の変動を把握し、それに応じた治療を行うことです。例えば:

1. 軽度の持続型:基本的なスキンケアと、必要に応じた局所治療薬の使用

2. 季節性の中等度~重度型:短期的かつ強力な治療(ステロイド外用薬やJAK阻害薬など)

3. 頻繁に悪化を繰り返す型:長期的な免疫抑制薬や生物学的製剤の使用を検討

このように、個々の症状パターンに合わせた治療戦略を立てることが重要です。

アトピー性皮膚炎は、単なる皮膚の病気ではありません。長期的な経過を考えると、患者さんの生活の質に大きな影響を与える可能性があります。そのため、早期から適切な治療を受け、長期的な管理を行うことが大切です。

また、最近の研究では、アトピー性皮膚炎と他の健康問題との関連も指摘されています。例えば、心血管疾患のリスクが高まる可能性や、メンタルヘルスへの影響などが報告されています。このことからも、アトピー性皮膚炎を全身疾患として捉え、総合的な健康管理を行うことが重要だと言えるでしょう。

アトピー性皮膚炎の症状でお悩みの方は、一人で抱え込まずに、専門医に相談することをおすすめします。長期的な視点で適切な治療と管理を行うことで、症状をコントロールし、より快適な生活を送ることができます。

参考文献:

1. Chovatiya R, Silverberg JI. Evaluating the Longitudinal Course of Atopic Dermatitis: Implications for Clinical Practice. Am J Clin Dermatol. 2022 July ; 23(4): 459–468. doi:10.1007/s40257-022-00697-w.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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