「営業ロボット」のニーズと可能性を考える
「営業ロボット」のニーズと可能性を考える
日本のロボット業界が今後、熱を帯びてくる可能性が高まっています。ロボット業界の市場予測は、2015年1.6兆円、2025年5.3兆円、2035年9.7兆円と言われており、特に「サービス分野」での普及が見込まれています。
私は営業コンサルタントですので、一般企業の営業として「ロボット」を採用したら、どのように営業活動の可能性が広がるのか? 今回は「営業ロボット」のニーズと可能性について考えてみます。
本コラムで扱う「営業」の意味は、何らかの製品・サービスをお客様に紹介し販売活動をする職種のこと。お店に来店したお客様に製品紹介する販売スタッフではなく、企業や個人宅に足を運び、営業活動するロボットを指します。
「営業ロボット」のメリット
まず、「営業ロボット」のメリットを考えます。営業が人間ではなく、ロボットだと、以下の2つのメリットがあると私は思います。
● やるべきことを最後まで諦めずにやり抜く
● 経営者や営業マネジャーが怒らなくても済む
まず、営業が人間ではなくロボットである最大の利点は、何と言っても「やるべきことを最後まで諦めずにやり抜く」です。間違いありません。私は現場に入って営業コンサルティングをする身です。言い訳ばかりして、やることもやらず、やり始めたとしても途中で諦めたり、やり切る習慣のない営業を数えきれないほど見てきました。実際に、当社にやってくる企業からのオファーのほとんどが、「当社の営業にやり切る習慣を身につけさせたい」です。ですから「営業ロボット」が相手なら、経営者や営業マネジャーは、
「何をやってるんだ! 結果を出せ! 結果を!」
「できない理由を言うな! もっと頭を使え!」
などと、怒鳴り散らすことはなくなります。
相手が「営業ロボット」なら、たとえ結果が出なくても「何をやってるんだ!」とは言えません。そもそも「営業ロボット」の思考パターン、行動を制御するプログラムは、営業マネジャーが考えたもの。経営者や営業マネジャーの「頭脳」を移植しています。お客様のところへ訪問する前に、事前準備も完遂していますし、訪問した後、お客様が発する言葉や、雰囲気、そして現場で得られる情報も加味したうえで、完璧に状況判断し、提案しています。
そもそも、生身の営業に「何をやってるんだ!」「結果を出せ!」と怒るのは、相手がやるべきことをやっていない、創意工夫が足りない、と経営者や上司が思い込んでいるからです。結果が出るまでもっと手を動かし、頭を使え、と言いたいのですが、「営業ロボット」には通用しません。
「お客様の工場に私が到着したのが午前9時43分です。まずは工場の外観をチェックし、工場の窓から見える照明の輝度や光度から分析し、この工場で採用されている照明器具のメーカー、型番、そして平均購入価格をデータ―ベースにアクセスして割り出しました。この工場になら、当社の照明器具を提案できると私は判断し、工場の責任者に会おうと事務所の受付を探しはじめました。それが午前10時7分です。運よく総務課長と話をすることができ、私の提案に納得されたものですから、工場の責任者に引き合わせてくれることとなりました。ところが工場長は、当社から事前に送られているはずの製品パンフレットが届いていない、忙しいのだから、そういう当たり前のことはやってもらなくちゃ困る。君はロボットなのだから、おそらく君の責任ではないだろう。君の会社の誰か、生身の人間がそういう大事なことを忘れてしまっているに違いない。と言われました。電車を乗り継ぎ、会社に戻ってきたのが午前11時29分です。営業企画部の担当に問い合わせたところ、その件は営業部長からの指示が来ていません、だから製品パンフレットなど送付していない、と言われました。営業部長、どうなっているのでしょうか?」
人間である営業マネジャーが、「営業ロボット」を責めようものなら、このように「返り討ち」に遭います。アクセスできる情報をもとに、完璧に状況判断できる「営業ロボット」が存在したら、経営者や営業マネジャーは、商品が売れない理由を、営業になすりつけることはできなくなります。
「営業ロボット」のデメリット
次に、「営業ロボット」のデメリットを考えてみます。(現実的な話ではないので、ロボットの製作、維持にかかるコストは割愛します)
● 営業戦略/戦術を考えられない経営者、管理者の下では役に立たない
● トップセールスが登場しない
まず第一に、どうすれば商品が売れるのか? どの会社の誰に、どのように提案すればよいのか? あらゆるパターンを考える「頭脳」が不可欠です。商品を作るだけ作って、「誰にどのタイミングでどうやって売るのか、そんなものは自分で考えろ!」という経営者に「営業ロボット」は役立ちません。商品のコンセプトだけ伝えるだけで、戦略までも考えてくれ、というのは乱暴すぎます。
そして次に、「営業ロボット」では天才的なトップセールスになれない、ということです。世の中には、理屈では表現できないような、人間の心を掴む天才がいるものです。表情や姿勢、巧みなトークによって、お客様の心を鷲掴みにし、あたかも洗脳するかのごとく相手を操る人間が、です。それを「営業ロボット」に求めても無理でしょう。
「営業ロボット」の可能性について
独立してお客様のところまで移動する「営業ロボット」は、現実化するまでにかなりの時間とコストがかかるでしょう。しかし、「葛藤することなく、やるべきことはキッチリやり、結果が出るまで創意工夫する」ことのできる「営業ロボット」は魅力的です。お客様のほうも、「営業ロボットが来たからには、100%完璧な提案をしてくるはず。適当に断っても簡単に引き下がらないだろう」と観念することでしょう。組織全体の成約率も大きくアップすることは間違いありません。営業に悩まされている経営者たちなら、喉から手が出るほど欲しいのが、この「営業ロボット」なのです。