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【世界遺産】ドイツ北部の最も古い港町ブレーメン1/3 文化遺産とクリスマスマーケット

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト
街のシンボル「ブレーメンの音楽隊」

コーヒーや綿花の輸入で栄えたドイツ北部の最も古い港町ブレーメン。自由ハンザ都市、そしてメルヘン街道の終点としても知られる多様な顔を持つ街です。(写真はすべて筆者撮影・トップ画像は市庁舎西側に佇むブレーメンの音楽隊銅像)

今回はブレーメンのランドマーク世界遺産市庁舎とローラント像を中心に、マルクト広場周辺の様子をお伝えします。次回は中世の街並みが美しいブレーメン旧市街、そしてブレーマーハーフェンと、3回にわたりお届けします。

世界遺産の市庁舎とローラント像

市庁舎(1405年~1410年建立) 後方は聖ペトリ大聖堂
市庁舎(1405年~1410年建立) 後方は聖ペトリ大聖堂

ブレーメン旧市街マルクト広場に面して建つ市庁舎とローラント像は2004年、世界文化遺産に登録されました。市庁舎が世界遺産に登録されたのは世界で唯一ここだけだといいます。 

国内16州の中でブレーメン州は、ブレーメンとブレーマーハーフェンの2都市で構成される独立州です。そしてブレーメンはブレーメン州の州都でもあります。

州政府の所在地である市庁舎は、政治的な決定を行う重要な場所であるだけではなく、上院のイベント、ガイドツワー、下院ホールでの展示会やマーケット、地下にあるラーツケラーなど、すべての来客に開放されています。

庁舎内は、コロナ禍の中でも厳格な規制の下、45分のガイドツワーが行われています。市庁舎と街の600年以上にわたる波乱万丈の歴史を是非自分の目で確かめてみたいものです。

入り口から階段を上がるとロビーに到着。閣議室や市長室などにつながっています。クジラの顎骨を使ったランプが印象的です。

クジラの顎骨ランプ
クジラの顎骨ランプ

バンケットホールでは上院の伝統的な新年のレセプションなど、特別なセレモニーが行われています。

バンケットホール
バンケットホール

なかでも1階(日本式2階)の旧市庁舎ホールは、圧巻。かつては議会や裁判所の祝賀会や会議場として使われました。長さ40m、高さ13mのこのホールには、美術品や珍品、天井から見事に吊り下げられた4隻の船の模型などが飾られており、港町として栄えた過去の象徴が見られます。

旧市庁舎ホール
旧市庁舎ホール

特に印象に残ったのは、このホールで開催されるブレーメンならではの特別イベント「シャッフェルマール(年次食事会)」です。

「この伝統の年次食事会は1545年以来、貿易、海運、産業、政治・文化分野で活躍するゲストを世界中から300人招き、交流を行うことを目的に行われている」と、ガイドのゲルト・ホレンバッハ氏が教えてくれました。

もともとこの食事会は毎春、氷の解けた後に出航前船長や船主、商人たちが最後の会合をする場でした。この崇高な伝統は、一方では人脈の確立と強化に役立ち、他方では退役船員とその親族を経済的に支援するという社会的な目的を持っているそうです。

宴会は5時間にわたり、6品のコース料理と12のスピーチが行われます。メニューは昔からの伝統を踏襲し、まずブレーメンの郷土料理チキンスープで始まり、リガのヒラメ料理で終わるのが慣習だとか(ラトビア共和国リガはブレーメンの姉妹都市)。

この宴会には男性だけが招待されていましたが、ここ数年、女性を排除することへの批判が高まっていました。メルケル前首相(2007年参加)など、一部の女性がゲストとして招待された後、2015年からは定期的に女性もこの祝賀宴会に参加できるようになりました。

マルクト広場側の黄金の小部屋・国賓や特別ゲストを迎え入れています
マルクト広場側の黄金の小部屋・国賓や特別ゲストを迎え入れています

ツワーの終わりにガイドのホレンバッハ氏は、「かつてキャプテンとして日本にも寄港したことがあります」と明かしました。退職してから英語を忘れないようにとガイドになり、独語と英語で案内をしているそうです。

市庁舎を後にしてマルクト広場に佇むローラント像へ向かいました。高さ10mほどのこの像は、ブレーメンの自由と市民権の象徴する存在として知られています。

石造りのローラント像 (1404年建立)
石造りのローラント像 (1404年建立)

ところでローラントは一体誰なのでしょうか。

彼についての文書はほとんどなく明確なことはわかっていませんが、アーヘンで活躍したシャルルマーニュ(カール大帝)の甥といわれています。 

強力な大帝のパラディン(特別な尊厳を与えられた貴族のことで、騎士でもある) として、カール4世の影響下にあった14世紀以降、ローラントの名は領主に対する街の自由の象徴となったそうです。そのため、ドイツの多くの都市では広場にローラント像を建立したそうです。

ブレーメンの音楽隊と街の貯金箱?

メルヘン街道の終点ブレーメンには、グリム童話の物語「ブレーメンの音楽隊」をモチーフにした銅像が市庁舎西側にあります。メルヘン街道はグリム童話の物語ゆかりの地を結ぶ観光街道で、始点はハーナウ、終点はブレーメンの全長約600kmに及ぶ行程です。

ロバの前足2本をしっかり握って願いを唱える観光客
ロバの前足2本をしっかり握って願いを唱える観光客

音楽隊一番下の力持ちロバの前足2本が光っています。ここに手を触れて目をつぶり、願いを心の中で唱えると、その願いが叶うとか。注意点は前足2本を同時に触れて願い事を伝えることです。

グリム童話ではロバ、イヌ、ネコ、ニワトリの4人組(?)音楽隊は、ブレーメンに到着することはありませんでしたが、街に因む動物として愛されており、散策中に彼らをモチーフにした品々が目に入ります。

音楽隊のモチーフがかわいいホットワインカップはお土産にも人気
音楽隊のモチーフがかわいいホットワインカップはお土産にも人気

この音楽隊に因んで、忘れずに見てほしいのが、同じくマルクト広場にある、「ブレーメンの穴」と呼ばれる街の貯金箱?(マンホール)です。

コインを投入する子供 
コインを投入する子供 

ちょっと変わったこのマンホールの蓋は2007年、市民会館の北側の角に設置されました。ブレーメンの貯金箱とか賽銭箱などといわれるマンホールの穴にコインを投入すると、まもなく音楽隊員の動物の鳴き声が聞こえてきます。耳を澄まして、どの動物の鳴き声か想像するのもここならではの楽しみです。

毎年最大15,000ユーロの寄付金が集まっているそうです。このお金は毎年11月末、福祉団体が運営するプロジェクトに寄付しています。

第三の世界遺産?ブレーマーラーツケラー

「ブレーメンの誇る3番目の世界遺産ブレーマーラーツケラーへようこそ!」

案内をしてくださったクラウディア・シュタッフェルドさん
案内をしてくださったクラウディア・シュタッフェルドさん

市庁舎地下のラーツケラーを訪問すると、クラウディア・シュタッフェルドさん(ラーツケラーワインマイスターアシスタント)が微笑みながら迎え入れてくれました。

確かにラーツケラーレストランとワインセラーは、世界遺産旧市庁舎建物の土台となる地下に位置するため第三の世界遺産といっても過言ではありません。

ワインセラーにて
ワインセラーにて

「1405年創業ブレーマーラーツケラーの特徴は、大きく分けて2つあります。ひとつはドイツのワイン産地13地区すべてのワインを取り扱っていること。二つ目は州立であることです」と、シュタッフェルドさんが教えてくれました。

そして現在も続いているドイツのワイン生産地との伝統的な密接な関係を強調することも目的としているそうです。1300種のドイツワインと15万本のワインがここに保管されています。

中世のブレーメンには、市議会用ワインセラーの前身となる市営ワインセラーがすでに存在していました。市議会は1330年以前から白ワインを提供する特権を持っていたので、白ワインを提供するための適切な部屋も必要でした。ブレーメンに 「市のワインセラー」があったことが初めて記録されたのは、1342年のことだったそう。

ライン川からバルト海へ、そしてヴェーザー川から北海への最も重要な貿易ルートが交わるこの場所で、ブレーメンの運命を決定づけたのは街の商人たちでした。 このような背景から、ブレーメンはドイツのワインメトロポリスになったとか。

ラーツケラーレストラン
ラーツケラーレストラン

レストランには巨大なワイン樽が並ぶ大ホールや、アーチ状の柱で囲まれた小部屋、エレガントな完全予約制個室などいろんな部屋があり、重厚な雰囲気があります。

レストランの奥には膨大なワインを貯蔵するセラーがあり、なかには現存するドイツ最古1653年のリューデスハイム産ワインなど貴重な宝物もあります。

リューデスハイム産のワイン樽
リューデスハイム産のワイン樽

読みにくいかもしれませんが樽には1653年と記されています。約370年も保管されているワインはどんな味なのでしょうか。室内は格別な雰囲気で、中世にタイムスリップしたような空気に包まれます。

マルクト広場とウェザープロミナーデのクリスマスマーケット

マルクト広場クリスマスマーケット
マルクト広場クリスマスマーケット

ブレーメンのクリスマスマーケットは11月22日から開始されました。当初、マーケット会場の入場規制はありませんでした。ブレーメンのコロナ感染者が他州に比べて圧倒的に少なかったからです。コロナワクチン2回接種者は、訪問当時ですでに78%に達していました(12月8日現在は80%。全国平均は69%)。

マルクト広場クリスマスマーケット
マルクト広場クリスマスマーケット

3Gチェックポイント
3Gチェックポイント

とはいえ、日に日に状況は変わっていき、マーケット会場に入るには3G(ワクチン接種者、感染からの快復者、抗原テスト陰性)を証明する規制が設けられました。そして現在は2G(ワクチン接種者と感染快復者)と厳格な規制が導入されました。もちろんマーケット内では飲食時を除いてマスク着用も義務です。

ですがバイエルン州やザクセン州をはじめ、次から次へとクリスマスマーケット中止が声明された中で、開催されているだけでもうれしいことです。クリスマスマーケットはいつでも気軽に行ける場所ではなくなったという事実を受け入れることは、ドイツ市民にとっても大きなショックでした。

ウェザープロミナーデのクリスマスマーケット
ウェザープロミナーデのクリスマスマーケット

さて、ブレーメンのクリスマスマーケットのハイライトはマルクト広場ですが、こことは趣きが全く違うウェザー川沿線プロミナーデのマーケットも見逃せません。中世をテーマにした一角や貿易港らしい香料のスタンドもあります。

海から50km以上も内陸に位置するブレーメンは、港町といってもピンとこないかもしれませんが、旧市街からわずか数分歩けば、そこはもう港。ウェザー川水辺に船舶が何隻もあり、一気に開放された気分になります。

次回は旧市街巡りをお伝えします。

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典共著(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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