「戻りたくても、戻れない」 駐韓日本大使の帰任
駐韓日本大使と釜山総領事の帰任が宙に浮いたままだ。釜山総領事館の前に少女像が設置されたことへの抗議として日本政府が長嶺安政大使と森本康敬総領事を一時帰国させたのが1月9日。23日でちょうど2週間となる。
最近の例としては、ロシアのメドベージェフ大統領の北方領土(国後島)上陸(2010年11月)と李明博前大統領の竹島上陸(2012年8月)の時に反発して大使を一時帰国させたことがあったが、それぞれ4日後、12日後には復帰させているので記録更新となる。この分だと長期戦となりそうだ。
延期理由について外務省は北朝鮮のミサイル挑発に対応するためにもまた、少女像の撤去について話し合うためにも「早期に帰国させたほうが望ましい」との立場のようだが、官邸サイドが「韓国が解決に向けて誠意を示さないまま帰任させれば国民が納得しない」と難色を示していると伝えられている。
最終的には外遊先のベトナムから帰国した安倍総理が「韓国側の姿勢に変化がないのに日本が先に動く必要はない」と判断し、帰任を延ばしているようだ。至極当然のことだが、そもそも韓国側が「戻って来てほしい」と懇願してもないのに日本政府が「戻ろうかな、戻るのをよそうかな」と悩むこと自体が奇異な話だ。
今後の帰任の時期について菅義偉官房長官は「総合的に判断して検討することに変わりはない。諸般の状況を見て判断していく」と述べていたが、今後の「諸般の状況」は悪化することはあっても好転する可能性は低い。従って、判断できない状況がさらに続くことだろう。
日本政府とすれば、韓国政府が公権力を行使して像を撤去するとか、あるいはいつまでに撤去すると期限を切って約束するとか、特使を派遣して詫びでも入れれば前向きになれるが、韓国政府としては尹炳世外相が「日本政府が公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念している。外交公館前に施設物や造形物を設置することは国際関係の側面から望ましくない」とリップサービスを述べるのが関の山で、国民の6割以上が撤去に反対している状況ではどれも期待薄である。まして、国会で弾劾され、国民から不信任を突き付けられ、レイムダックに陥った朴槿恵政権にもはやその気もなければ、余力もない。
(参考資料:朴槿恵大統領のアキレス腱となった「慰安婦少女像」の撤去問題)
日本が取った釜山総領事館職員の釜山市関連行事への参加見合わせや日韓通貨交換(スワップ)協定に向けた協議の中断、さらには日韓ハイレベル経済協議の延期などの対抗措置も即効性があれば、少しは譲歩も期待できるのだが、現状では実害がないとして韓国側は意に介してないようだ。スワップ協定に関する協議については昨年韓国側から要望があったにもかかわらず「我々から再協議を求めるつもりはない」(韓国企画財政部の宋寅昌国際経済管理官)と開き直る始末だ。
肝心の釜山の少女像については一時撤去した釜山市東区の区長までが「今後はCCTV(防犯カメラ)を設置するなど少女像を守るためあらゆる措置を取る」と態度を豹変させてしまい、これではどうしようもない。少女像を設置した市民団体や支持する市議らが少女像を撤去できないようにするため「公共造形物」としての登録を申請しているが、受理されればますます難しくなる。日韓合意を交わした当事者である朴槿恵政権下で認めることはないにしても、仮に憲法裁判所で罷免され、大統領選挙で野党政権が誕生すれば、野党の次期大統領候補らはいずれも撤去に反対だけに受理される可能性が大だ。
さらに、韓国の独立運動記念日にあたる3月1日には釜山に続き、今度は特定市に定められている人口62万人の京畿道・安養市で少女像が建てられる。このままでは少女像は増えることはあっても、減ることはなさそうだ。
加えて、日韓のもう一つの懸案である領土問題が再燃したことも先行きを不透明にさせている。
(参考資料:日本と軍事機密情報を共有しても韓国が「独島(竹島)防御訓練」を強行する狙い)
この問題の事の発端は、日本の五輪委員会(JOC)が来年2月に韓国で開かれる平昌冬季五輪のホームページに掲載された「独島」と「東海」の表記が不適切として削除を国際オリンピック委員会(IOC)に求めたことに対して平昌五輪組織委員会が「独島は韓国の領土であるので日本の主張は一考の価値もなければ、対応する考えもない」と切り捨てたことにある。「五輪での政治宣伝を禁止したIOCの五輪憲章に違反する」として異議を申し立ている日本としては後に引けないだろう。
さらに来月の2月22日は「竹島の日」である。島根県では行事が行われる。春になれば、来年度に採用される歴史教科書の検定問題や外交白書や防衛白書が出てくる。当然、歴史認識や領土問題をめぐる対立は避けられない。そうなると、ますます落としどころが難しくなる。
この分だと、威勢よく帰国したものの千昌夫の歌詞の文句ではないが、「帰りたくても、帰れない」状況が続きそうだが、安倍総理にとって心強いのは国民の37.9%が今回の対応を支持しているだけでなく、42.1%が韓国に対してより強い態度を求めていることだ。
帰任が多少長引いたとしても、またより強硬に出たとしても国民が支持する限り、日本は「長期戦」に耐えられるが、この「日韓の綱引き」がどこまで続くのか、どういう決着を迎えるのか、興味津々だ。