韓国男子バレーボール界のスーパースターとされるムン・ソンミン。

彼が一躍、脚光を浴びるキッカケとなったのは、2006年。京畿(キョンギ)大学2年生のときに韓国代表に選出され、同年12月にカタール・ドーハで行なわれたアジア大会に出場し、チームの金メダル獲得に大きく貢献した。

「ファンをもっとも幸せにする選手」

以降、その実力と甘いルックスも手伝って人気者に。コートの中だけではなく、雑誌のグラビアやテレビのバラエティ番組などからも声がかかるほどだ。以前、ニールセン・コリアが実施したアンケート調査で、「ファンたちをもっとも幸せにする選手」1位にも輝いたこともある。

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そんなムン・ソンミンが近年、実感するのが韓国のバレーボール人気だという。

韓国では2005年にプロリーグである“Vリーグ”が男子部、女子部の二つ同時にスタート。ムン・ソンミンはドイツ、トルコでの選手生活を経て、2010年から現代キャピタル・スカイウォーカースでプレーしているのだが、2010年代になってVリーグの観客動員数は右肩上がり。

スター選手も続々台頭。韓国Vリーグの状況は?

2010-2011年シーズンは37万7122人だったが、翌2011-2012年には42万7222人と増え、2014-2015年には52万4663人を記録。以降、毎年のように年間観客動員数50万人を突破しているのだ。

チーム数や試合数の違いがあるとはいえ、日本のVリーグ男子の2017-2018年の総観客数が15万8423人であったことを踏まえると、韓国Vリーグの活況の程度がわかるだろう。ムン・ソンミンも語る。

「Vリーグへの人気と関心が高まることは選手として喜ばしいこと。僕自身、韓国におけるバレー人気の高まりを実感します」

例えば選手年俸だ。Vリーグの平均年俸は男子部で1億4090万ウォン(約1400万円)。昨季よりも12・9%高くなった。

ムン・ソンミンの年俸も推定4億5000万ウォン(約4500万円)とされており、最高年俸になるとハン・ソンス(大韓航空)の6億5000万ウォン(約6500万円)になるというのだから、かなり良い環境だと言えるだろう。

ムン・ソンミンも、「環境や待遇が良くなり、スター性のある選手が次々と頭角を現していることが、Vリーグが盛り上がるっている要因のひとつ」と語る。

(参考記事:【画像】実力もルックスも傑出!! 韓国男子バレー界の“イケメン選手”TOP7一挙紹介)

バレー女神たちで盛り上がる女子

もっとも、韓国のVリーグは男子部・女子部の同日開催が基本で前述の観客数は男女合算だ。しかも、最近は男子部よりも女子部のほうが人気で急成長している。

例えば前出の平均年俸だ。女子の平均年俸は男子のそれよりも若干少ない9280万ウォン(約920万円)となっているが、前年比25・5%増となっている。

韓国人選手の最高年俸も3億ウォン(約3000万円)で、最近は韓国の選手だけではなく、Vリーグにやって来る外国人選手たちの顔ぶれも話題になるほどだ。

(参考記事:【画像】ミスコン受賞者も!! 韓国Vリーグ女子の“美しすぎる外国人選手”を集めてみた!!)

なぜ、韓国で女子バレー人気に火が付いたのか。ムン・ソンミンは語る。

「やはり国際舞台で着実に結果を残せていることが大きいでしょう。ロンドン五輪ベスト4、2014年アジア大会・金メダル、2016年リオデジャネイロ五輪ベスト8進出など、女子バレーは世界の強豪たちと対等に渡り合ってきた。その姿にファンや国民たちも勇気づけられ、女子バレーにも関心を注ぐようになったと思います」

加えて、「バレー女神」と呼ばれるコ・イェリムなど、実力とルックスを兼ね備えたスター選手たちが次々と誕生するようにもなった。こうした好循環が韓国に女子バレー人気をもたらしたとされているのだ。

過渡期にある男子。目指すはスピード・バレー

もどかしいのはそんな女子と比べると、男子のほうは国際舞台で苦戦が続いていることだろう。

近年はオリンピック出場どころか、オリンピック世界最終予選に駒を進めることもできず、今年のネーションズリーグでも1勝14敗の最下位に甘んじている状態だ。

そしてそうした状況に、男子バレー韓国代表のキャプテンを務めるムン・ソンミンも少なからず責任を痛感しているという。

「ただ、韓国男子バレーが停滞しているとは思いません。強いて言えば、韓国男子バレーは今、過渡期にある。変化の過程にあると言えると思います」

具体的にどういうことなのか。ムン・ソンミンは丁寧な口調で語り続けた。

「世界は今、スピード・バレーが全盛の時代です。各チームの戦術や戦法はスピード化に重点が置かれ、選手たちもよりスピーディーで正確なパフォーマンスが求められるような時代です。

ただ日本はそういった世界のトレンドの中で、日本だけのスタイルを作り上げているような印象もあります。柳田選手や石川選手など、良い選手がたくさん出てきていることも、それを可能にしているのでしょう。

(参考記事:「憧れの選手」「全部うまい」石川祐希と柳田将洋を韓国はどう見ているか)

対して韓国バレーは数年前までバレーは高さとパワーを重視したスタイルで、スピード化の波に若干乗り遅れてしまった感もありました。

ただ、韓国代表もスピード・バレーへの転換を目指し、模索を続けているのです。その模索の過程を通じて、韓国ならではのスタイルを構築したい。今はその模索を続けていくということで、過渡期というわけです」

アジア大会で金メダルが切実な理由

スピード化が進む世界潮流に乗り、韓国らしい独自のスタイルを構築しよう。現在の男子バレー韓国代表はそんな目標を掲げており、8月19日からインドネシアのジャカルタで行なわれるアジア大会もその模索の過程のひとつだと考えているという。

「ただ、アジア大会は結果が求められる大会でもあります。選手たちも金メダル獲得という目標に対いて切実感を持っています」

アジア大会で金メダルを獲得できれば、兵役免除という恩恵にも授かれる。それだけにチームのモチベーションも高い。今回のアジア大会メンバーに選ばれた多くの選手たちが、兵役を終えていない韓国Vリーグのスター選手たちばかりなので、なおさらだ。

2006年のドーハ・アジア大会で金メダルを獲得して兵役免除の恩恵に授かり、そのおかげでヨーロッパ進出もスムーズだったムン・ソンミンだけに、金メダルの意義も兵役免除の価値もよく知っている。

「12年前の僕が先輩たちのおかけで金メダルを首にすることができたように、今度は僕が後輩たちの役に立ちたい。単に先輩としてキャプテンとしての役割を果たすだけではなく、後輩たちと同じくらいの切実さを持ってアジア大会に臨みます」

韓国バレー界の貴公子、ムン・ソンミン。その甘いマスクの奥に隠した“責任感”と後輩想いの“やさしさ”が頼もしくもあった。男子バレー韓国代表のアジア大会にも熱視線を送りたい。