今夏から甲子園のベンチ入り20人に! 監督の悩みは減少も、拡大する懸念とは?
選手のケガや故障防止に伴い、近年の高校野球改革は一気に進んでいる。その中で、長く要望されていたにもかかわらず実現しなかったのが「甲子園のベンチ入り20人」問題である。そしてついに今夏、ベンチ入り20人が叶うことになった。結構なことである。しかし、手放しでは喜べない懸念もはらんでいる。
地方大会から2人を削る監督の苦悩
地方大会ではベンチ入り20人が長く定着している。また、試合ごとに選手の入れ替えを認めている県もあり、すべては各都道府県高野連の裁量に委ねられている。しかし、甲子園のベンチ入り定員は18人。夏の過酷な戦いを勝ち抜き、夢の甲子園切符を手にしても、必ず2人を削らねばならなかった。監督、指導者の悩みは容易に想像できるし、何よりも外された選手の気持ち、落胆は察するに余りある。
甲子園では半世紀、14人だった!
ここで甲子園のベンチ入り定員の変遷を振り返ってみる。筆者のように半世紀以上、甲子園大会を見てきた者は、14人の印象が強い。実は大昔は定員が決まっていなかったようで、多くの選手を抱えるチームが圧倒的に有利だった。不公平感が強かったことから無制限は撤廃され、定員が14人に決まってから半世紀。1県1校となった昭和53(1978)年夏の60回大会から15人に増え、平成6(1994)年春から16人。平成15(2003)年夏から18人となった。この時点でベンチ入り20人を採用していた地方大会が大多数だったことから、「甲子園でも20人にしてほしい」という要望は聞こえていた。
3年前の交流試合で20人
18人になって今年でちょうど20年。この間、新型コロナで春夏の甲子園大会が中止となった3年前の夏の交流試合で20人のベンチ入りを認めたことはあったが、これはあくまで一時的な措置。夢の舞台を失った当時の3年生への配慮に過ぎず、翌春センバツからはまた18人に逆戻りしていた。筆者はこの交流試合が増員の契機になると思っていたが、甲子園大会では頑なに18人を守ってきた。理由はいくつか考えられる。
経費の問題は避けて通れず
まずは経費の問題だろう。これは主催者である日本高野連のホームページにも掲載されているが、出場チームには20人分(監督、責任教師含む)の旅費と宿泊手当が支給される。単純にこれが2人分、増えることになる。宿泊費は補助に過ぎないが、遠来のチームも多いわけだから、実費となる旅費はかなりの増額になるし、コロナで収入が激減した主催者の懐事情を考えると、同情の余地はある。また、定員18人を維持しつつも、部員を記録員やボールボーイとして参加させるなど、甲子園を体感してもらう配慮をしてきた経緯もあった。そしてもう一つ。甲子園のベンチ入り増員が格差を広げることにつながるとの懸念である。
選手層の厚いチームがより有利になる
それは少子化と密接にリンクする。子どもの数が減って、学校間格差は広がる一方で、昨今の甲子園出場校を見渡しても、いわゆる強豪私学ばかり。かつて甲子園を沸かせた公立の名門校でも甲子園は夢の舞台、手の届かないところにあるのが実状で、有力選手を潤沢に擁する特定のチームが甲子園出場を独占することへの批判は、主催者にとっても頭が痛い。試合ごとにベンチ入りメンバーを入れ替えられる地方大会もあると書いたが、これはできる限り強いチームを甲子園へ送り込みたいという各都道府県高野連の願いが垣間見えるので目をつぶるとしても、甲子園で勝ち抜くには、選手層の厚いチームが有利に決まっている。
プラス2で選択肢増え、主力の負担も軽減
極論すれば、新たな2人が戦力になるかだ。ベンチ入り選手については指導者の教育的配慮もあり、試合に出ずともチームに欠かせない選手は必ずいる。これを前提に、新たなプラス2を単純に戦力と考えるなら、選択肢が増えれば戦いやすくなるし、主力選手の負担軽減も見込める。ただでさえ強豪がしのぎを削る甲子園では格差がより鮮明になるだろう。特に新入生がいないセンバツは影響が大きいはずだ。今春も、21世紀枠で「定員未満」のチームがある。
地方大会のベンチ入り増につながるか?
甲子園のベンチ入り定員増は、選手のケガや故障防止、夏の酷暑対策が声高に叫ばれる昨今、主催者にとっては待ったなしの問題でもあった。したがって概ね、現場からは歓迎されるはずだが、一部のチームがますます有利になることは間違いない。これが地方大会のベンチ入りを増やす契機ともなれば、チーム間格差は広がる一方で、今回の決定を手放しで喜べない所以はここにある。