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改善が望まれる親の負担と指導方法のアップデート。学童野球の問題を考える

上原伸一ノンフィクションライター
見るスポーツとして高い人気を誇る野球だが底辺では様々な問題がある(イメージ)(写真:アフロ)

垣根が高くなっている少年野球の「入り口」

好試合続きで白熱した日本シリーズ。盛り上がりを見せた2年ぶり開催の明治神宮大会。現在は名物の応援が復活した都市対抗が、観客上限1万5千人で行われている。

高校、大学、社会人、プロと、度合いに差はあれども、全てのカテゴリーに注目が集まる競技は、野球の他にないだろう。野球はつくづく人気のあるスポーツだと思う。

こうした中、野球の「入り口」であり、野球の底辺を支える少年(学童)野球では、様々な問題があるようだ。

少年野球の問題としてよく聞こえてくるのが親の負担だ。その象徴でもある「お茶当番」についてはたびたび話題にされているが、他にも遠征時の「車出し」(その配車当番も神経を使う仕事だという)や、父親は自動的に「お父さんコーチ」になるシステムなど、親の負担なしで子供は野球ができない傾向にあるのが実情だ。

子供のためと全面的に協力をする親もいるが、様々な事情でなかなかグラウンドに行けない親もいる。こうした負担が少年野球の垣根を高くしているのは間違いない。そんなに大変ならお金で解決と、全て面倒を見てくれる他競技のクラブチームやスクールに入れる親もいる。

親からの敬遠も一因となり、選手不足に悩むチームも多いようだ。最近は少年野球チームの選手募集で「お茶当番はありません」と明記しているところもある。

慣習にとらわれず時代に合った改善を

そもそもなぜ、これほど親の負担が増えたのか?かつては子供の普段の練習に親が出てくることはなかった。筆者は、始まりは「善意」だと考えている。「お茶当番」にしても、暑い中ボランティアで子供を指導してくれている指導者に、感謝の気持ちで冷たい飲み物を出したのが通例化され、広まっていったのでは…と想像する。

他の仕事についても、よかれと思ってやったことが「実績」になり、次の代では継続され、そうやって少しずつ、親の「仕事」が増えていったのではないか。昔は大会で遠方に行く時しかなかった「車出し」にしても、子供に遠征試合をさせてあげたい、という「善意」から始まり、強豪チームでなくても、だんだんとその数が増えていったと推測する。実際、些細なことでも継続されないと「前年まではやってもらえたのに」と言われるという。

ただし、代によっては前年までやっていた親の「仕事」ができないこともある。日本人は「前例」を踏襲することを美徳とする文化もあるが、時代も令和になった。話し合いで、不要なものは廃止し、親の負担ができるだけ少なくなるようにしたらどうだろうか?

もしかしたら、実は指導者は「お茶」を望んでいないのかもしれないし、子供たちは近場のチームとの練習試合でも楽しいのかもしれない。とはいえ、ボランティア組織だからこそ、「慣習」を変えるのは難しい。それでも、勇気を持って声を上げたことで、「お茶当番」が廃止になったチームもある。これまでやってきたからと無条件に続けるのではなく、見直すべきところは見直すことが、健全なチーム運営につながると思う。

指導者と保護者の歩み寄りも必要

少年野球では「監督の指導と親の考えの乖離(かいり)」も大きな問題になっている。ツイッターでは保護者の悲痛な叫びが散見されるが、その根本的な原因は指導が「令和型」にアップデートされていないことにあるようだ。情報が溢れている今は、野球に詳しくなくても、どんな指導が求められているか、ネットなどでその情報を見聞きすることが多い。それだけに指導者を見る目も厳しくなっている。

「何をやっているんだ」ではなく、どうすればこうなると、少年野球指導者も具体的に教える知識を持たなければならない時代だ。野球は年々進化している。たとえその指導者が高校野球経験者であっても、その時の常識が今は非常識になっているかもしれない。

自分の時間を割いて、炎天下の下でもグラウンドに立つボランティア指導者には本当に頭が下がる。もしかしたら、そこまで要求するのは酷かもしれない。しかし、野球の「入り口」にいる以上、責任もある。前向きに進化していってほしいと願う。

指導者と保護者の歩み寄りも必要だと感じる。監督が「指導には口出ししないでください」と言うのはごもっともだが、親としては子供を預けている以上、どんな指導をしているか、やはり気になる。関心が高い今の時代だから、グラウンドが治外法権の場であってはならない。チームの方針、目指している野球、その代の目標など、大枠はしっかりと、伝えたほうがいいだろう。片や保護者も、指導者を理解しようとするスタンスが必要だ。親は疑問に感じても、子供は楽しくやっていることも往々にしてある。

もちろん、問題を抱えているチームばかりではなく、子供たちも指導者も楽しく野球と向き合っているチームもたくさんある。指導にもチームの形にも正解はないが、底辺がより良い方向に向かえば、野球界全体を形作っているピラミッドも強固なものになると信じている。

ノンフィクションライター

Shinichi Uehara/1962年東京生まれ。外資系スポーツメーカーに8年間在籍後、PR代理店を経て、2001年からフリーランスのライターになる。これまで活動のメインとする野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在はベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」、「大学野球」、「高校野球マガジン」などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞「4years.」、「NumberWeb」、「スポーツナビ」、「現代ビジネス」などに寄稿している。

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