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実力者・大橋貴洸六段(29)王座戦ベスト8進出! 藤井聡太竜王(19)に4連勝で六冠目を阻止!

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月6日。大阪・関西将棋会館において第70期王座戦本戦トーナメント1回戦▲大橋貴洸六段(29歳)-△藤井聡太竜王(19歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は21時49分に終局。結果は129手で大橋六段の勝ちとなりました。

 大橋六段はこれでベスト8に進出。5月9日におこなわれる佐藤康光九段-千田翔太七段戦の勝者と2回戦で対局します。

大橋「次もしっかり指せたらなと思います」

 藤井竜王は本棋戦、昨年は1回戦で深浦康市九段に敗れています。

藤井「王座戦は2年連続で初戦敗退という結果になってしまったので、非常に残念に思っています。また他の対局もあるので、内容に関してはしっかり修正していけるように、やっていければと思います」

 藤井竜王は保持するすべてのタイトルを防衛して、王座、棋王を奪取すれば、今年度六冠、七冠にまで達する可能性がありました。しかし本局に敗れたため、王座挑戦の可能性はなくなりました。

 藤井竜王と大橋六段の対戦成績は、藤井2連勝のあと、大橋4連勝です。

 藤井竜王が2番負け越している棋士は、大橋六段と深浦九段の2人だけです。

大橋六段、熱戦を制す

 大橋六段先手で、オープニングは矢倉模様。藤井竜王は矢倉には組まず、4三銀型から中住居に構える最新の布陣です。

大橋「難しい将棋で、ちょっと、よくわからなかったですね」

藤井「玉が薄い形で戦いが起こってしまって。自信のない局面が多い将棋だったのかな、と思います」

 61手目。大橋六段は歩を突き捨てます。持ち時間5時間のうち、残りは大橋1時間37分、藤井56分。藤井竜王は33分を使って、△2四同角と応じました。

藤井「なんか苦しいと思ったので、どうすれば粘れるかな、というふうに考えていました」

 局面が大きく動き、藤井竜王リードで迎えた79手目。大橋六段は当たりになっている馬を逃げず、すっと銀を引きました。

 1図から△6八同金▲同角△8三金と進むと藤井竜王が大きく駒得をします。しかし貴重な手番をにぎって▲3三銀と反撃。△4七飛成▲3二銀不成と進んで難解な終盤戦に入りました。

 86手目。藤井竜王は残り5分を使って、1手60秒未満で指す一分将棋に。対して大橋六段は1時間6分を残しています。最終的には、この持ち時間の差が本局の明暗を分けることになったようです。局後、このあたりは詳細に検討されていましたが、容易に結論は出ませんでした。

藤井「本譜はなんか、まずいことをしたんですね」

 藤井竜王は金取りに歩を打って大橋玉を寄せにいきます。

大橋「歩はもう筋かなと。だいぶ狭くなるんで」

藤井「ああ、まあ時間がないから打ったんで」(苦笑)

 藤井竜王の迫力ある攻めに、大橋六段は正確に対応し続けます。

大橋「一応耐えていたんですか」

 大橋玉はきわどいながらもつかまらず、逆に藤井玉は受けが難しい形。ついに形勢は、大橋六段がはっきり優位に立ちました。とはいえ、藤井玉への寄せが読み切れていたわけではなかったようです。

大橋「詰めろが続くかなというなんとなくの感触があったんで、飛車成ったんですけど。ちょっとまだ読み切れてなかったんで」

 103手目。大橋六段は自陣の受けにも利いている飛車を、相手陣に飛び込んで寄せにいきます。コンピュータ将棋が示す評価値はそこで急変し、藤井よしに変わります。しかし藤井竜王は形勢を悲観していたようでした。

 2図は107手目。大橋六段が銀を引き成った局面です。

 後手玉は▲2二飛△6二金合▲同飛成△同玉▲3二龍以下の詰めろ。受けはあるのかどうか。

 本譜、藤井竜王は(A)△6二金と打ちました。大橋六段は▲2二飛と追撃。以下、藤井玉への詰めろが続き、一手一手の寄せとなりました。

 2図では代わりに(B)△7一金と受けるのがよかったようです。局後、村山慈明七段からその手を聞かされた藤井竜王は、驚きの声をあげていました。

藤井「それ、難しいってことがあるんです? ・・・あ、そっか。(自陣一段目を指で示しながら早口で)取って取って金埋めて。ああ、そっかそっか。落ちて。落ちてがんばるんですか。落ちて同金で取って受けれるんですか。知らなかったですね」(苦笑)

 盤上では先まで示されませんでしたが、△7一金以下は▲4二飛△8一玉▲6二金△同金▲同飛成△7一金で受かっている、ということなのでしょう。

大橋「あれ、寄せ方ダサかった?」(苦笑)

 大橋六段は2図に至るまでの寄せの手順にどこか問題があったか、△7一金ならば藤井玉は寄らない形でした。

大橋「そこ(8一の地点)に入ったらけっこう堅いですね」

藤井「いける可能性もあるのか、むしろ。ああ、確かに飛車を渡せない(先手は飛車を渡すと自玉が寄ってしまう制約がある)からいける可能性あるんですね、確かに。ああ、そうか、なるほど。これはけっこう(後手玉は自陣の駒の)配置をいかせるんですね」

 最後に優位に立ったのは大橋六段。そこからは間違えずに藤井玉を寄せ切り、勝ちへとたどりつきました。

 本局は藤井竜王の六冠につながる戦いであり、大きく注目されました。結果として藤井竜王は敗退。番勝負ではこれまで負けなしの藤井竜王であっても、1局でも負ければ終わりのトーナメントでは、勝ち上がるのが大変なようです。

 それにしても大橋六段は強かった。五冠相手に難解な終盤で競り勝って4連勝目をあげたわけで、強いというよりありません。現在の「六段」という肩書は、その実力に追いついていないものと思われます。大橋六段が今期、一気に王座にまで駆け上がったところで、なんら不思議はないでしょう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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