【新型コロナウイルス、外国人労働者の課題浮き彫りに】労組が多言語相談ホットライン設置、草の根の連帯も
新型コロナウイルスによる肺炎が世界的に流行する中、日本に暮らす外国人労働者にも影響が出ている。外国人といっても様々な背景を持つ人がいるのの、以前から不安定な仕事に就いている人も少なくなく、新型コロナウイルスの影響を受け、その課題が浮き彫りになっているのだ。そんな中、三重県で活動する三重一般労働組合「ユニオンみえ」は3月13日、14日、多言語対応の労働相談ホットラインを実施した。
ユニオンみえの神部紅(じんぶ・あかい)さんが3月16日、筆者の電話取材で語ったところによると、多言語対応の労働相談ホットライン実施に至ったのは、3月に入り、新型コロナウイルス関連の相談が相次いだため。
13日、14日の労働相談ホットラインでは日本語、英語、ポルトガル語、スペイン語の4言語で相談を受けつけた。ユニオンみえは従来から日系人やフィリピン人をはじめ外国にルーツを持つ人からの相談を受けてきた蓄積があり、今回も各言語で対応できるスタッフが相談を受けたという。
◇雇止めや就労条件の切り下げ
外国人労働者からの相談は深刻なものが少なくない。ユニオンみえが以前から相談を受けている外国人労働者の大半は、男女問わず短期の派遣や請負の雇用形態で働く非正規の労働者だ。業種は電子部品、自動車、食品など様々だが、大半が不安定な就労条件で働いている。中には、シングルマザーとして子どもを抱えながら働く外国人女性もいる。
今回のホットラインには、外国人労働者から雇止めや就労条件の引き下げに関する相談が入ってきた。
ある外国人労働者からは、「夜勤契約で就労していたのにかかわらず、日勤にシフトが変わり、収入が減ったという相談があった」(神部さん)。
外国人労働者の中には夜勤を希望する人がいる。日勤の仕事では賃金が低く食べていけないため、体への負担があることを承知で、あえて夜勤を選ぶのだ。日勤の仕事をフルタイムで行っても十分な賃金を得られないこと自体が問題だが、夜勤は賃金が通常より高くなるメリットがある。しかし新型コロナウイルスの影響で、企業が経営を見直し、夜勤から日勤に労働者のシフトを変えることで賃金支出を抑えようという動きが出ている。
また、派遣で働く外国人男性からは「会社から突然、3月末での契約終了を通知されたとの相談があった」(同)。この男性は以前から3カ月の契約を更新する形で就労していた。一方、会社側は最近、男性に対し、新型コロナウイルスの影響を受けた生産縮小のために契約を更新しないと伝えたという。
ただし、この男性は少し前、パートナーの出産に伴う育児休業の取得申請をしていた。そうした中、男性は、「契約終了は育児休業を申請したからではないかと考えている」(同)という。
神部さんは「会社が生産縮小を理由に契約終了を通知したことは事実です。でも、実際には、この男性は育児休業の申請をしたことから、会社がそれをよく思わず、新型コロナウイルスを理由に雇止めにしたのではないかとみています。ほかの相談でも、企業が今後の景気悪化を前に経営見直しを行う中、新型コロナウイルスを口実に、企業にとって都合のよくない労働者の整理を進めようとしているのではないかと考えられる事例があります」と語る。
◇休校の影響も
外国人労働者からの相談には学校の休校の影響もうかがえる。
ある外国人労働者は、小学校が休校となる中、小さな子どもだけで家にいることはできないと、勤務先に休日を取得したいと申し出た。しかし「企業からは、仕事に出てこないと解雇すると言われた」(同)という。
さらに、新型コロナウイルスの影響が広がる中、休校措置がいつまで継続するのかという不安も出ているようだ。
そんな中、子どもを抱える外国人労働者の中には、外国人コミュニティーの中でベビーシッターを探し、子どもを預ける動きも出ている。
神部さんは「以前から外国人労働者の間では、働き盛りの世代の人の子どもを若年世代の人が預かるといった助け合いがあります。ただ、この場合、親は低額とはいえ、一定の謝礼を払います。コミュニティーの中で助け合うことでなんとか回っている形ですが、負担がないとは言えません」と説明する。
他方、休校の影響が未知数の子どもたちもいる。もともと保護者の方針で外国人コミュニティーが立ち上げた学校に子どもを通わせるケースがある上、日本の学校で差別を受けるなどして不登校になっている子どもたちがいるからだ。
神部さんはこう語る。
「外国人の子どもたちの未就学の問題は以前からあります。学校で見た目や名前がからかいの対象になったり、いじめにあったりし、不登校になるケースもあります。中には、引きこもりになっている子どもたちもいます。そうした子どもたちについては、今回の休校措置の影響は限定的かもしれません。でも、実際にはとても深刻な状況にありますし、新型コロナウイルスの影響で外出が難しくなり、発散できる場を失う可能性もあります。ユニオンみえに子どもの相談をする外国人は以前から存在します。私たちは労働問題だけではなく、生活面の問題にも対処しなければいけないと考えています」
◇幼稚園が休園、子どもの預け先なく困惑する元技能実習生の母親
新型コロナウイルスの影響で困っている外国人がいるのは、三重県に限らない。
佐賀県で日本語教室「国際コミュニケーションネットワーク かけはし」を主催する越田舞子さんのもとにも、外国人からの相談が相次いでいる。
佐賀県では、新型コロナウイルスの影響で幼稚園が休園するケースも出ている。これを受け、ある元外国人技能実習生の女性が越田さんのもとに駆け込んできた。
この女性は技能実習生として来日。その後、結婚をした。現在は、幼稚園に通う小さな子どもを育てつつ、地元で仕事をしている。他方、頼れる人は周りにおらず、女性がほぼ1人で育児をしてきたという。そんな中、新型コロナウイルスの影響で幼稚園が休園となり、子どもの預け先を失い、困り果ててしまったのだ。
そこで、越田さんがこの女性の子どもを預かることに決めた。
越田さんは「幼稚園が休園となり、子どもの預け先がないというので、預かることにしました。まだとても小さい子なので、預かるといっても、安全面の責任があります。でも、ほかに頼れる人がいないのです」と語る。
公的なサポートが欠けている中、草の根のつながりがかろうじて外国人を支えているのだ。
ほかにも新型コロナウイルスに関する情報を日本語で理解することが難しい外国人の中に、不安を抱える人もいる。中には、SNSを通じて、越田さんに相談をする外国人労働者もいるという。(了)