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8強が出揃った皇后杯。スピードの変化で流れを変える、日テレ・ベレーザのFW植木理子に注目

松原渓スポーツジャーナリスト
今シーズンのリーグ戦で、5ゴールを決めた植木(千葉戦、2017年9月17日)(写真:アフロスポーツ)

【試合を決定づける4点目】

 そのスピードに、目を見張った。

 

 11月11日(土)に行われた、第39回皇后杯全日本女子サッカー選手権大会3回戦。

 日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)が、ジェフユナイテッド千葉レディースU-18(以下:千葉U-18)に3-0でリードして迎えた試合終盤に、そのプレーは見られた。

 

 点差が開き、勝敗がほぼ決したことで緩み始めていた会場の空気を一変させたのは、82分から出場した、ベレーザのFW植木理子だった。

 植木はピッチに立った2分後、右サイドのペナルティエリア付近でボールを受けると、一瞬のスピードと切り返しで相手ディフェンダーをかわし、角度のない位置から右足を振り抜いた。地を這うような鋭いシュートが、左のサイドネットを揺らした。

 このシーンは、9月30日に行われたリーグ17節、伊賀フットボールクラブくノ一(以下:伊賀)戦で、終盤に訪れたシーンと酷似していた。

 ベレーザが1-2と負けている状況で70分に投入された植木は、その1分後に右サイドでボールを持つと、一気に加速した。そして、疲労が隠せない相手ディフェンダーを抜き去ると、ペナルティエリア内で倒されPKを獲得。値千金のPKのチャンスをFW田中美南が決めて同点としたベレーザは結局、この試合を3-2で逆転勝ちした。

 

 今シーズン、植木の投入により明らかに流れが変わった試合は、1度や2度ではなく、ベレーザの必勝パターンになりつつある。

 植木の投入がチームに与える影響について、DF有吉佐織は次のように話す。

「理子が入るとチームに勢いがつくし、もう一回(点を獲りに)行けるぞ、と。結果を残してくれるし、厳しい試合状況でも何かしてくれるんじゃないかと期待できる。“飛び道具”じゃないですけど、去年のベレーザにはなかった新しい強みだと思います」(有吉)

 ベレーザを率いる森栄次監督も、18歳のスピードスターの成長に目を細めた。

「相手に流れが傾いている時に彼女を入れることで、その流れを引き戻せるんです。コーナーキックを獲得したり、攻撃をシュートで終わらせてくれる。うちは足下に入るパスが多いので、彼女が入ることでスペースが活きてくるのは大きい。特に、裏のスペースへの飛び出しや1対1の仕掛けには期待しています」(森監督)

 選手同士が近い距離感でサポートし合いながら、多彩なコンビネーションで相手ディフェンスを崩すスタイルのベレーザにおいて、広いスペースを活かせる植木のプレーは、強烈なアクセントになっている。

【意識を変えた、U-19北朝鮮戦の決勝ゴール】

 今年10月に中国で行われたAFC U-19アジア女子選手権は、植木にさらなる成長のきっかけを与えた。

 この大会で、植木は自らのゴールに加え、アシストや起点となるプレーを数多く見せ、日本を大会通算5度目のアジアチャンピオンへと導いた。

 特に、 北朝鮮との決勝戦で決めた鮮やかなゴールは、ストライカーの真骨頂だった。植木はペナルティエリアの左隅で、対峙するディフェンダーをアウトサイドで右に切り返してかわすと、そこから右サイドネットに矢のようなシュートを突き刺した。

 このゴールが決勝点となり、植木は自身が出場した前年度のFIFA U-17女子ワールドカップの決勝戦で北朝鮮に敗れた借りを返すことができた。

「これまで、自分には大事な試合で点を獲る力が足りないと思っていたので、あの決勝の舞台で点が獲れたことはすごく、自信になりました」(植木)

 植木の優れたスピードやゴール感覚は、代表選手が多数、揃うベレーザのハイレベルな環境で磨かれてきた。最大の持ち味であるスピードをさらに伸ばすために取り組んでいることは、相手選手との駆け引きのレベルを上げることだという。お手本にしているのは、リーグで2年連続、得点王に輝いたチームの先輩、FW田中美南だ。

「田中さんは、緩い(スピード)から速い(スピード)に切り替えるのがすごく上手いので、練習中からよく見て、お手本にしています。ただ速いだけではなく、相手を見て、スピードに緩急をつけるプレーを自分の持ち味にしたいです」(植木)

 植木の緩急を活かせるパスの出し手が、ベレーザには揃っている。若きストライカーが秘めた豊かな可能性は、常勝軍団の中で今後、さらに引き出されていきそうだ。

【鬼門突破に向けて】

 リーグ戦では圧倒的な強さを誇ったベレーザだが、皇后杯では直近の2年間、ベスト4で涙をのんでいる。2大会とも、アルビレックス新潟レディース(以下:新潟)に僅差で敗れた。

 今週末の11月18日(土)に行われる皇后杯準々決勝のカードは、鬼門とも言える、その新潟との対戦である。

 ベレーザはセンターバックのDF清水梨紗が11月3日に行われた2回戦で負傷し、新潟戦には出場できない苦しい状況ではあるが、守備面のマイナスを補って余りある攻撃力を、今シーズンのリーグ戦でも証明している。

 そして、長期間に渡るリハビリから復帰した左サイドバックの有吉の存在は、今のベレーザにとって、攻守両面においてとても大きい。有吉はプレシーズンに右膝前十字靭帯を損傷し、手術後、リハビリとコンディション再生に6ヶ月以上を費やしたが、皇后杯で念願の戦列復帰を果たし、千葉U-18戦では今シーズン最長となる45分間、プレーした。

3年ぶりの皇后杯優勝へ、強い思いを寄せる有吉(2016年皇后杯 準決勝 (C)アフロスポーツ
3年ぶりの皇后杯優勝へ、強い思いを寄せる有吉(2016年皇后杯 準決勝 (C)アフロスポーツ

 その試合終盤には、相手を引き付けて逆を取る有吉らしいプレーも見られたが、本人は、

「もう一個、早いタイミングでパスを出せば良かったな、とか、そういう誤差がまだあって、感覚を取り戻している段階です」

 と、自分のプレーにはまったく満足していないようだった。しかし、目立つプレーはなくとも、有吉がピッチに立つことでチーム全体が落ち着く。

 森監督の言葉にも、有吉への期待の大きさが滲んだ。

「アリ(有吉)が帰ってきてくれると、左サイドが活性化して、安定します。ゲームも作れるし、ゴール前まで自分で運べるのは大きいですね。今年のリーグ戦ではなかった形も見られると期待しています」(森監督)

 半年に及ぶ辛いリハビリを頑張る上でのモチベーションになっていた、皇后杯のタイトル奪取への想いは強い。

「今シーズンはずっと、この(皇后杯の)舞台でやりきって終わりたいと思っていたので。次の試合に勝って大阪(準決勝以降の会場)まで行って、(リーグ戦との)2冠を獲りたいですね」(有吉)

 今シーズン、なでしこリーグで優勝したベレーザは、植木と有吉という強力なピースを攻守両面で活かし、2冠目の「皇后杯」に挑む。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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