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「190億ドルは安い」とFBのザッカーバーグCEO 度肝を抜くメッセージアプリの巨額買収について説明

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は24日、スペインのバルセロナで開催されているモバイル関連の国際イベント「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)2014」に登壇し、先頃買収を発表したメッセージアプリ企業「ワッツアップ(WhatsApp)」について説明した。

質疑応答の時間で同氏は、「ワッツアップには我々が合意に至った金額以上の価値がある」と述べ、メディアが伝えていた割高な買収との指摘を一蹴した。

東芝やソニーの時価総額を上回る買収額

フェイスブックによるワッツアップの買収は、40億ドルの現金と120億ドル相当のフェイスブック株で行う。またこれとは別に、買収完了後4年にわたりワッツアップの創業者や社員に30億ドル相当のフェイスブック株を付与する。

これらを合わせた買収金額は190億ドル(約1兆9500億円)。これは、東芝やソニー、任天堂の時価総額を上回る金額だ。またフェイスブックが2012年に買収した写真共有アプリ「インスタグラム(Instagram)」の約20倍に当たり、同社創業以来最大の買収となる。

200億ドル近くという金額は誰もが仰天する数字。米ヒューレット・パッカード(HP)が2001年に米コンパックを250億ドルで買収して以来の最大級の買収で、従業員数わずか55人の企業に対する買収金額とは信じがたいと言われている。

ワッツアップのサービスでは、広告を一切表示しない。また利用者のデータはサーバーに保存しない。「メッセージサービスでは、広告で利用者の通信を邪魔したり、データを収集してプライバシーを侵害してはならない」というのが創業者の信条だからだ。

では同社はいったい何で収入を得ているのか?

それは、利用者がサービスを使い始めてから2年目以降に有料になる年間99セントのアプリ販売価格だ。その売上高について正確なことは分かっていないが、米ウォールストリート・ジャーナルは年間売上高は2000万ドル程度と伝えている。

つまり年商2000万ドルの企業の買収金額が190億ドルとはあまりにもかけ離れていると指摘されているのだ。

売り上げは気にせず、10億人獲得に専念

一方でワッツアップは毎日100万人以上の新規登録があり、利用者は急増している。同社の共同創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるヤン・コーム氏はザッカーバーグ氏と同様、24日のイベントで講演を行っているが、その報告によると現在の月間利用者数は4億6500万人。

また「ワッツアップの利用者数は10億人に向かって順調に伸びている」とザッカーバーグ氏は述べており、楽観的だ。

米ニューヨーク・タイムズによると、ザッカーバーグ氏は次のようにも述べたという。「もしフェイスブックが買収しなければ、ワッツアップは売り上げを伸ばす必要に迫られる。フェイスブックが買収することで、ワッツアップは利用者の拡大に専念できる」。

これらの報道によると、ワッツアップは当面10億人の利用者獲得を目指す意向だ。そのために同社はサービスを拡充していく。米ブルームバーグによると、同日ワッツアップのコームCEOは、今年6月末までに無料の音声通話サービスを始めると発表した。

ワッツアップのアプリはテキストのほか、写真や動画、音声ノートをユーザー間で送受信できるが、音声通話の機能はない。今後はサービスを拡充することで、規模の拡大を目指すという。

「1人からわずか数ドル」で成り立つビジネスモデル

なお前述のウォールストリート・ジャーナルの記事は、10億人という規模について考察している。それによると、もしワッツアップが1人当たり年間2.84ドルを得られるのであれば、米国最大手の通信事業者と同程度の価値になるという。

ワッツアップには、通信事業者のように基地局や店舗がなく、設備投資は少なくてすむ。従業員はわずか50人程度で人件費もかからない。またマーケティングやロビー活動の費用も不要で、唯一大きな支出は米アップルや米グーグルに支払うアプリ販売の手数料30%。

これらのことを考えると、利用者が10億人を超える、あまり前例のないサービスでは、従来とは異なるビジネスモデルが成り立つのではないかと同紙は指摘している。

フェイスブックのザッカーバーグCEOには、このほかにも狙いがあったと同紙は伝えている。例えばワッツアップの利用者をフェイスブックに取り込むという狙い。グーグルやマイクロソフトに買収される前に買収してしまうという戦略。さらに大半を株式で支払うこの買収は、フェイスブック株が高水準で推移している今、タイミングが良いと同紙は伝えている。

JBpress:2014年2月26日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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