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『南くん』『西園寺さん』2024年夏ドラマで目立つ「人名タイトル」、登場人物名をタイトルに付ける効果

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:イメージマート)

2024年夏の連続テレビドラマが続々とスタートしている。

目黒蓮が連ドラ初主演をつとめる『海のはじまり』(フジテレビ系/月曜21時)は、『silent』(フジテレビ系/2022年)の脚本家・生方美久、演出家・風間太樹、プロデューサー・村瀬健が再結集したドラマとあって注目度が高く、二宮和也主演の『ブラックペアン シーズン2』(TBS系/日曜21時)は2018年に高評価を得た作品の待望の続編であるなど、話題作がめじろ押しだ。

そんな2024年夏の連続ドラマで、興味深い傾向・特徴が見られる。それは、登場人物の名前やニックネームが付いたタイトルが多数あることだ。

2024年夏ドラマの「人名タイトル」の作品
・『タカラのびいどろ』(テレビ神奈川系/月曜23時30分)
・『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系/火曜21時) 
・『西園寺さんは家事をしない』(TBS系/火曜22時)
・『さっちゃん、僕は。』(TBS系/火曜23時56分)
・『量産型リコ-最後のプラモ女子の人生組み立て記-』(テレビ東京系/木曜24時30分)
・『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる』(MBS系/木曜24時59分)
・『伝説の頭 翔』(テレビ朝日系/金曜23時15分)
・『マル秘の密子さん』(日本テレビ系/土曜22時)
・『青島くんはいじわる』(テレビ朝日系/土曜23時)
・『サバエとヤッたら終わる』(TOKYO MX系/8月放送予定)
※放送曜日・時間は地域によって異なる場合あり

その数はなんと10本。ちなみに2023年も1年間のトータルでみると『6秒間の軌跡〜花火師・望月星太郎の憂鬱〜』(テレビ朝日系)、『風間公親-教場0-』(フジテレビ系)、『合理的にあり得ない〜探偵・上水流涼子の解明〜』(関西テレビ系)、『月読くんの禁断お夜食』(テレビ朝日系)、『こっち向いてよ向井くん』(日本テレビ系)、『家政婦のミタゾノ(第6シリーズ)』(テレビ朝日系)、『佐原先生と土岐くん』(MBS系)などがあり、ザッとみたところ20本以上は「人名タイトル」のドラマが放送されていた。

2023年も「人名タイトル」は量産傾向にあったが、それでも2024年夏はたった1期で10本を数えているので、その多さがかなり目立つ。

ドラマの「人名タイトル」はなにが効果的なのか

それにしてもなぜ、ドラマなどのタイトルに「人名」が付けられたり、そういったタイトルの原作がドラマ化されたりするのか。メリットとして挙げられるのは、「誰を中心とする物語なのか」「誰がなにをするストーリーなのか」など、作品の世界観がタイトルだけで事前になんとなくつかめる部分である。

良い例は、2024年の春ドラマ『からかい上手の高木さん』(2024年/TBS系)ではないか。登場人物の高木さん(月島琉衣)が隣の席の西片(黒川想矢)をからかうこと、そして西片が高木さんをからかい返すこと。そういった二人の関係性からストーリーが展開していくことがタイトルから想起できる。

そもそもドラマがおもしろいかどうかは、時間を使った上で、実際に観てみないと分からない。それはある意味、視聴者にとって賭けみたいなものである。ただタイパ意識が強まる昨今、事前に内容が分からないものにわざわざ時間を費やすことを「リスク」と考える人は少なくない。廣瀬涼著『タイパの経済学』(2023年/幻冬舎新書)でも指摘されていたが、オチなどを知った上で映画を観に行く方が「効率が良い」とする傾向が強まっているという。

「人名タイトル」のドラマが求められている理由も、それに近いことが言えるのではないか。タイトルで「誰がどんなことをするのか」がなんとなくうかがえることで、ドラマの世界観が把握しやすくなる。タイトルの時点でそそられるものがあれば観るだろうし、興味が持てなければひとまずスルーし、口コミなどで話題になれば見逃し配信で鑑賞すれば良い。

「人名タイトル」の原作がドラマ化されたり、そういうドラマが作られたりする背景には、視聴者らのタイパ意識が関連しているように思える。

ドラマのタイトルが、ネットのニュース記事の「見出し」のような役割に?

そのように考えると、ドラマのタイトルが、ネットメディアのニュース記事で言うところの「見出し」のような役割になっている気もする。

誰もが目にするネットのニュース記事。だが、多くの人は「見出し」で読むかどうかを判断しているのではないか。好奇心をくすぐる言葉や、刺激的な言葉が用いられている「見出し」を見ると、どうしても記事内容を読みたくなる。ちなみに「見出し」で興味を引きつける手法は、「第一印象こそがもっとも重要である」という心理学の考え方「プライマシー効果」に関連している。インパクトが強い情報を最初(つまり「見出し」)に与えることで、記事のURLをクリックさせたり、次の文章を読ませたりするのだ。

さらに、そんなネットニュースの「見出し」を作る上でもっとも重要とされているのが「パワーのあるワード(人名・モノの名前など)を見出しに必ず入れる」「そういうパワーのあるワードをできるだけ見出しの冒頭付近に置く」である。

人名やモノの名前を「見出し」に入れることで、記事を読まなくても「誰の話題なのか」「誰がなにをするのか」がなんとなくイメージできる。「パワーのあるワードを見出しの文頭に置く」は、横書きの文章の場合は左から右の流れで読む場合が多いことから、文頭に印象的な言葉を持ってくると“目立つ”ということだ。

ネットのニュース記事の「見出し」の作り方と、ドラマやその原作の「人名タイトル」はどこか重なるものがある。たしかに、2024年夏ドラマの「人名タイトル」のうち7本が、人名が文頭にきている。そう考えると、ドラマのタイトルが「見出し化」していると言えるのではないか。

『silent』、『VIVANT』などのヒットから考える「観るかどうか」の決め手

とは言っても、最近目立った成績を残しているヒット作は『silent』、『VIVANT』(2023年/TBS系)であり、どちらも英単語をモチーフにしたタイトルだ。ほかにもSNSで話題になった作品は『不適切にもほどがある!』(2024年/TBS系)、『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(2023年/日本テレビ系)、『ブラッシュアップライフ』(2023年/日本テレビ系)あたりで、いずれもタイトルに人名は付いていない。

結局「観るかどうか」の一番の決め手は、今も昔も変わらず、誰が出演者しているのか、どんな脚本家や演出家なのかである。またドラマ自体の予算が潤沢にあれば、宣伝をたくさんして放送前から認知度を広げ、ドラマの世界観をしっかり伝えることができる。

2024年夏のドラマの「人名タイトル」の多くは、深夜帯に放送されるものばかり。21時台、22時台に放送される“メイン枠”のドラマに比べると、どうしても制作費、宣伝費の規模面では劣る。つまり「人名タイトル」のドラマは、メイン枠のドラマより小さい枠組のなかで、それでもなんとか一人でも多くの人に興味を持ってもらうための“策”であるとも言えるのではないか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga. jp、リアルサウンド、SPICE、ぴあ、大阪芸大公式、集英社オンライン、gooランキング、KEPオンライン、みよか、マガジンサミット、TOKYO TREND NEWS、お笑いファンほか多数。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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