若者に託された廃炉という宿題 解決策がいまだ見えない福島第一原発に残された難題に挑む高専生たちの挑戦
東日本大震災から9 年。事故を起こした福島第一原発の廃炉を巡ってはこれから数十年かかかると言われている。現役世代だけではなく、若い世代の人材育成が大きな課題となっている今、地元・福島でロボットづくりに励んできた高専生たちが立ち上がった。「ものづくりを続けてきた僕たちにもできることがあるのではないか?」廃炉という人類にとって大きく難しい壁を乗り越えるのに役立てようと、廃炉に役立つロボットづくりに挑む福島高専の学生たちの挑戦に密着した。
<果てなき廃炉作業>
福島第一原発の事故から間も無く9年の節目を迎えようとしている。依然として原発周辺は汚染水を浄化処理した水の取り扱いや放射性廃棄物の処理を巡り課題が山積している。中でも、使用済燃料プールからの燃料取り出しは喫緊の課題だ。さらに困難なのは、溶け落ちた燃料(燃料デブリ)の取り出し。格納容器の内部は放射線量が高く立ち入ることが困難なため、ロボット技術の導入に注目が集まっている。だが技術開発は追いついておらず、福島第一原発の1〜3号機からはいまだに燃料デブリの取り出しが完了していない。廃炉作業はこれから数十年かかると言われている。
<「廃炉に役立つものづくりを」廃炉ロボコン出場の決意>
これから社会に出る若者に廃炉の技術開発に興味を持ってもらおうと、文科省は2016年より「廃炉創造ロボコン」を主催している。いまだに溶け落ちた燃料(燃料デブリ)の取り出しが進まない福島第一原発の格納容器を想定した巨大セットから、ロボットを遠隔操作して燃料デブリを模した模型を取り出す技術を競い合うコンテストだ。
福島県いわき市に生れ育ち、現在、福島高専3年の猪狩涼さん(18)は2018年にこのコンテストを見学に行き、興味を持った。幼い頃からものづくりとゲームが好きで、高専入学後はロボット技術研究会に所属して、ロボコンコンテストなどに出場してきた。原発事故以降、廃炉の進行にも関心を持ってきた猪狩さんは、「ものづくりを続けてきた自分にも廃炉ミッションに対して何かしたい」と廃炉創造ロボコン出場を決意。ロボット技術研究会の仲間である、鳥羽広葉さん(17)、冨樫優太さん(17)、佐藤匠悟さん(17)とチームを作り出場を決める。
<廃炉ロボットに込めた思い>
出場校は全国から選考をくぐり抜けた強豪全18校。だが、試験や授業で多忙を極める彼らは準備に割く時間が少なく、本番前々日になってもロボットが完成していない状態だった。前日のリハーサルのテストランでもようやくロボットが動くレベルで、燃料デブリの回収どころか、テストランの最中にロボットが制御不能になり、逆に機体を運営スタッフに回収されてしまう事態となった。猪狩さん率いるチームの周りの誰もが諦念を抱えていた。しかし最後まであきらめず、微調整を続けた彼らは見事に追い上げる。翌日の本番ではなんと燃料デブリの取り出しに成功。猪狩さんは自ら設計したロボットの利点を「機動性を重視してコンパクトな設計にした」と語る。遠隔操作のためのコントローラーはドローンに使用するコントローラーを改造し、親機と、子機の2機を同時に操れるようなプログラムを施した。こうした設計は実際の廃炉の現場においても活用できるような遠隔操作のしやすさへの配慮がある。
<技術賞受賞の反響と将来>
燃料デブリの回収後、出発地点へと機体を戻らせている途中でデブリを落としてしまうハプニングはあったが、その高い技術力が評価され、福島高専のチームは見事、技術賞に輝いた。こうした高校生たちの取り組みを、東京電力の社員も注目している。当日、大会を視察に訪れていた社員は「アイディアと勇気をもらった」と嬉しそうに語った。福島高専の出場者たちには受賞直後、取材が殺到。福島高専チームの高いロボット制作技術に関心を持つ人たちで人だかりができていた。その後、アメリカのアイオワ州で開催されている国際シンポジウムにスピーカーとして招かれるなど、猪狩さんたち福島高専チームには世界的な関心が集まっている。こうした状況を経て、リーダーの猪狩さんは「ものづくり好きが高じて出場した廃炉創造ロボコンだったが、大会を終えて、将来の選択肢の一つとして、真剣に廃炉作業に関わっていくことを考えはじめた」と語る。実際の廃炉作業の現場で猪狩さんたちが指揮を執る日も遠くないかもしれない……。
クレジット
ディレクター・撮影・録音・編集・ナレーション:太田信吾
プロデューサー:井手 麻里子
資料映像提供:東京電力ホールディングス株式会社
国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構
協力:第4回廃炉創造ロボコン関係者の皆さま
福島高専の皆さま
マレーシア工科大学の皆さま
国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構
吹の湯旅館
スパリゾートハワイアンズ
酒井清
鈴木 宏侑