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赤ちゃんを売る! そこに葛藤はあったのか? 映画『ベイビー・ブローカー』(ネタバレ)

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
家族っていいなぁ?スペインでは「いつもの是枝節」という好評が目立った

※この評にはネタバレがありますので、見てから読むことをおススメします。

今年もサン・セバスティアン映画祭が9月16日から24日まで開かれた。そこで見た日本人監督作品の3作を面白かった順に並べると、『宮松と山下』『百花』『ベイビー・ブローカー』となる。見た後で、是枝裕和監督によるものだと知って、さらに残念になった。

■善意で赤ん坊を売る、とはどういうこと?

この作品の最大の難関は、題名の「赤ん坊を売る」という行為を善意と解釈できるか否かにある。

「善意」と言える人はその先に進む、首を傾げた人は引っかかって物語を楽しめない。

「最高の養父母を探します」なんて殊勝なことを言い、改心の兆しがあるとしても、今まで金儲けのために赤ん坊を盗んできた連中である。

養父母の探し方もロードムービーらしく行き当たりばったりに見える。

そんなやり方で本当に「最高」が見つかるのか?

↑予告編の「それぞれの正義が揺らぎ始める」は良い言葉だ。が、だからこそ何が正義なのか、に力が欲しかった

望まない妊娠をめぐる3つの物語。『朝が来る』『ベイビー』『ネバー、レアリー……』でも書いた通り、特別養子縁組には複雑な手間と長い時間がかかる。

子供が幸せになるように念には念を入れる。

育ての親には条件があり、6カ月以上の監護期間(縁組成立前に一緒に暮らしてみる)でチェックされ、最終的には家庭裁判所の判断が必要になる。子供への告知義務もあるし、手離す産みの親へのサポートもある。

すべては子供の幸せのためである。

■あの母親の心が読めない……

第二の難関は、赤ちゃんの母親に感情移入できるかどうか。

できる人は前へ進む、できない人はここでストップ。

赤ちゃんを手離すのには理由がある。それはいい。だが、翌日すぐに取り戻そうとする方はどうか? で、取り戻すのを止めて売ろうとする方はどうか? 金目当の連中に半分金目当てで簡単に説得される方はどうか?

悩みに悩むとか、葛藤する様子はこの母親からは覗えない。

犯罪に手を染めるほど追いつめられているようには見えない
犯罪に手を染めるほど追いつめられているようには見えない

唯一、理解できるのは、売ろうとしているうちに情が移っていく過程である。ここはきちんと時間をかけて描かれている。

だが、同じくらい大事な「産む決断をする」中絶という選択もあったろう)→「捨てる決断をする」→「取り戻す決断をする」→「売る決断をする」というプロセスは、あっという間に過ぎていき、こっちは置いてけぼり。

彼女はノリで軽く気ままに決めているように見える。いや、それでもいいのだが、葛藤しない人物には感情移入ができず、一緒に感動できない。

■登場人物の葛藤を強引にまとめたら……

考えてみれば、この作品の登場人物は葛藤だらけである。

「育てられないことを知って産んだ女」には暗い事情が、「産みたいが子供ができない(多分)女」には複雑な思いが、「捨てられて施設で育った男と子供」には産みの親への愛憎が、「赤ん坊を売ってまで金が欲しい男」にも責められない(?)金の使い道がある。「金で赤ん坊を買おうとする夫婦」も、「愛人の子を実の子として育てようとする女」も出てくる。

加えて、それぞれの人物には他の人物の行為を責める理由があるため、侃々諤々の大議論、大騒動になってもおかしくない。

そもそも、お話のスタートが賛否のある「赤ちゃんポスト」なのだ。

こういう探し方では「最高の養父母」は見つからない
こういう探し方では「最高の養父母」は見つからない

だが、こういう葛藤やぶつかり合い、意見の相違をすべて承知の上で、それらを消化して合意事項を形成しつつ、少なくとも複数の主人公たちを納得させる最後を作品は提示できただろうか?

見終わって、大半の鑑賞者がああ良かったと思えただろうか?

いろいろ詰め込み過ぎた。だから、最大公約数である結論が予測可能で、ありきたりなものになってしまった。

※写真提供はサン・セバスティアン映画祭

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在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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