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木村カエラさん「お風呂の湯を冷ましてから流す」は正解 「温排水」の環境への影響を解説

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
入浴時から12時間後、水温は17度になっていた(著者撮影)

下水処理場からの放流水は河川水より温度が高く、河川水温を上げる要因の1つ

 木村カエラさんの「お風呂の残り湯をそのまま捨てると生態系を崩すので、冷めてから捨てるようにしている」(「木村カエラが『お風呂の湯を冷ましてから流す』理由は? SHELLYとSDGsを考える」J-WAVE NEWS)という発言が話題になっている。

 生活排水は「水質」面での環境への影響が語られることが多く、「ラーメンの汁はなるべく流さない」「油で汚れた皿はふきとってから洗う」などが推奨されている。

 では「水温」面での環境への影響はどうだろう。

 生活排水には、風呂やシャワーの水、洗濯の水、トイレの流し水、台所で調理や後片付けに使用する水などがあり、1人が流す量は1日に200リットル程度。

 これらの温度を考えてみよう。水道水をそのまま使用すると、東京都の場合、1月がいちばん冷たく8.4度、8月がいちばん温かく26.9度、年間平均では16.8度になる。(東京都水道局「トピックス3 水道水の水温」

 温めて利用する場合、シャワー、風呂、お湯での洗いものなどで40度くらいになる。シャワーや洗いものの水は、そのままの温度で排水口に入っていく。風呂の場合、入浴後にすぐ流した場合は40度くらいだが、時間とともに温度は下がっていく。「野菜のゆで汁」とか「パスタのゆで汁」などは100度近い。

 こうした水が排水口から下水道へ入っていく。1人が流す量は200リットルでも、都市にはたくさんの人が住む。仮に東京23区に住む966万5798人(令和4年2月)が200リットルの生活排水を流したとすると193万3160トンになる。下水を流れる水の温度に影響を与えるはずだ。

 下水の温度は冬場で約18度、夏は約28度であり、下水処理されても水温はほとんど変わらずに、河川に放流される。(東京工業大学神田研究室 中山有「下水処理場での水温観測に基づく都市下水道の水・熱輸送に関する研究」

 下水道の普及、給湯設備の普及とともに生活排水、下水処理場から放流される水の温度は上がったという調査がある。

 淀川水系の河川を対象とした調査(中室克彦ら(2006)「都市河川水の水温に及ぼす下水処理場放流水の影響」(水環境学会誌)Vol.29,No.3,177-181)では、下水処理水の年間平均温度は1970年には18.8度だったが、2003年には20.3度となったとしている。30年間で約2度上昇。とくに1970年から1990年頃までの上昇が顕著で、それ以降はほぼ一定の水温を維持していた。一方、対象河川の年間平均水温は1972年には18.0度だったが、2001年には19.2度になった。同調査では、河川水温は一般的には気温の影響を受けるが、下水処理場からの放流水は河川水より温度が高く、河川水温を上げる要因の1つと考えられる、とまとめている。

「下水道処理水による河川水質・生物への影響が顕在化」という報告

 では、温かい排水「温排水」は環境にどのような影響を与えるだろうか。

 国土交通省関東地方整備局の報告書によると、以下に示すように、「多摩川中下流部の流水のうち、約6割を下水道処理水が占めている状況」であり、「魚類生息環境に対する水温上昇等の影響、下水道処理水による河川水質・生物への影響が顕在化している」とある(国土交通省関東整備局事業評価委員会(2009年第4回)「多摩川環境整備事業」資料1-③-①)。

国土交通省関東整備局事業評価委員会(2009,第4回)資料 1-③-①
国土交通省関東整備局事業評価委員会(2009,第4回)資料 1-③-①

 1990年から2010年までの20年間にわたる多摩川の水温の変化を調べた研究では、「多摩川中下流部の冬期の水温は、過去 20 年にわたって上昇しており、河川沿いからの下水処理水の放流による影響とみられた」としている(木内豪(2013)「多摩川の水温変化の実態と形成要因に関する研究」)。

 こうした水温上昇によって生態系は影響を受ける。魚類のほか、底生動物や付着藻類等の水生生物への影響も考えられる。

 温排水は生活排水由来のものばかりではない。火力発電所や原子力発電所では冷却水として海水を使用し、その後の水を海に戻す。発電所からの温排水は、取り込んだ海水よりも約7度高い。工場からも温排水は出る。製品がつくられる過程で水、油、原材料、製品、装置などから熱を取り除き、河川などに放流される。

「新しい風呂水を入れるまで残しておく」

 家庭からの温排水を少なくするためには、どうしたらよいか。

 まず、「野菜のゆで汁」とか「パスタのゆで汁」などは流さないこと。熱湯を流すのはそもそも設備に悪い。配管は材質的に高温に弱く、お湯を流すと配管が軟化して傷んでしまう。お湯を流すと「ボコッ」という音が聞こえるが、あれは設備の悲鳴だと思ってよい。そもそも「下水道法」では、下水道に流してもよい排水の温度を45度未満と定められている。

 「お風呂の湯を冷ましてから流す」のは有効だ。一般的な家庭用の風呂には200リットルの水が入るので、入浴後にすぐに流すと約40度の水が大量に流れていくことになる。

 「お風呂の湯を冷ましてから流す」と考えるよりも、「新しい風呂水を入れるまで残しておく」と考えるとよいだろう。翌日になれば水温は下がる。筆者が3月22日に入れた風呂水を12時間後に計測したところ17度になっていた(冒頭の写真)。

 お風呂の湯を1日ためておくメリットは生活用水として使用できることだ(この場合、小さな子どものいる家庭では、フタをきちんとしめる、入口をきちんと閉めるなどの管理が必要だ)。とくに災害時には有効だ。工夫をすれば緊急時の飲み水としても活用できる(橋本淳司(2020)「風呂の残り水を災害時の飲み水にする「パーソナル浄水場」の実力」)。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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