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マンチェスター・シティは破竹の13連勝。参謀リージョが語るサッカーの本質。

小宮良之スポーツライター・小説家
リージョとグアルディオラ(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

数字の羅列

「戦術システムについて、クラブやメディアに言われることがしばしばある。例えば『4-2-3-1はバランスが良い』とか。でも、私にとってフォーメーションなど数字の羅列で、何の意味もない。それがいいというなら、そう見せてあげてもいいと思っている」

 ヴィッセル神戸を率いていたファン・マヌエル・リージョ監督は鼻を鳴らしながら、そう洩らしていた。自宅のソファに座って、大画面のサッカー映像を見るリージョは、選手の動きを手早く説明した後、それがフォーメーションによって導き出されたプレーでないことをさらに説明した。

「4バック? 3バック? すぐにそうやってサッカーを捉えたがる人がいる。その単純化は、思考停止にさせる。し試合の中、人やポジションが入れ替わることができなければ、サッカーは話にならないんだ」

 監督の役割は、選手の特性を見抜き、コンビネーションの中で用い、やるべきこととやってはいけないことを明確化し、それをトレーニングの中で鍛えることだと力説した。スカウティングとトレーニングの練度に、仕事のほとんどすべてがある。それ故、リージョは試合中に立ちあがって、わめき散らすことも好まない。仕事ができていない証左だからだ。

 リージョがヘッドコーチを務めるマンチェスター・シティの戦い方が、変幻を深めているのは必然なのだろう。

グアルディオラとリージョの師弟関係

 シティを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督は昨年6月、リージョをヘッドコーチに招聘した。その理由は、ヘッドコーチだったミケル・アルテタが監督に転身し、そのポストが不在だったのはあった。しかし監督自身、4シーズン指揮をとってマンネリ化は避けられず、主力も年を取ったし、変革を必要としていたのだ。

 その“革命”の懐刀として乞われたのが、グアルディオラが師と仰ぐリージョだった。

 そして2020-21シーズン、シティはプレミアリーグ序盤戦こそもたついていたが、チャンピオンズリーグも、グループを無敗で首位突破。12月のサウサンプトン戦からはカップ戦も含めて、破竹の13連勝(リーグは9連勝)を遂げ、無双感が漂う。

 戦い方に幽玄のごとき深みが見えてきた。スタートポジションは、あえて表記すれば4-2-3-1が基本になるだろうが、それ自体に意味はない。それぞれの選手は持ち場で特性を発揮し、優位を得ているのだ。

 例えば、前線はセンターフォワードのガブリエウ・ジェスス、セルヒオ・アグエロのケガで戦いの修正を余儀なくされた。当初は、得点力不足を露呈。ストライカー不在を嘆く論調もあった。

 しかしリージョも、グアルディオラも、そんな固定概念にとらわれる者たちではない。

フェラン・トーレス、ベルナルド・シルバ、ラヒーム・スターリング、フィル・フォデンを前線で起用。いわゆる偽9番で、ストライカーではない選手がストライカーの位置に立って、それぞれ周りの選手と入れ替わって動くことにより、的を絞らせずにプレースピードを高め、相手守備陣を幻惑した。

選手の個性を生かした幽玄なる攻撃

 攻撃は自由度を増し、変幻も増している。

 いわゆるトップ下が多いケビン・デ・ブルイネだが、そんな枠には収まらない。攻撃コンビネーションの要に見える時があれば、一騎単独で駆け抜けてゴールに迫るときもある。調和の中で、そのプレーの利点を存分に生かしているのだ。

 そして左右のサイドバックを担当するジョアン・カンセロも、サイドバックの概念を越えている。プレーメーカーのようにインサイドに入って、幅を作りながら、攻撃の厚みを出す。圧倒的なボールポゼッションを支えたかと思えば、ゴール近くで決定的なパスを出す。クロスは絶品で、攻撃的特性を引き出されてスケールアップした。

 選手のユーティリティ性が評価される一方、リヤド・マフレズのように騎兵隊のような攻撃に特化した位置づけの選手もいる。機動力をもって相手の腹背を突き、(守備からは解放された)独立遊軍のような気配を見せる。右タッチラインに張り付き、そこでボールを受け、電光石火の勝負を挑む。1対1の強さで相手の守備に横やりを入れ、一気に撓ませ、戦局を有利にするのだ。

 例えば、カンセロがインサイドに入り、マフレズが遊軍としてサイドに展開する場合、右センターバックのルベン・ディアスやジョン・ストーンズは、右サイドバックのように外に張り出し、攻守をバックアップする。選手の組み合わせ次第で、陣形は変化。相手を惑わし、押し込み、攻め切って、勝利を得る。すべてのポジションが「偽」であり、「真」だ。

難解なサッカーのカギ

 完璧なものは存在せず、難点もある。

 スタートポジションを重視して守る戦い方はしないだけに、受け身になると呆気なく失点する。その危険は多分に孕んでいる。極めて難解なサッカーに挑んでいると言えるだろう。

 それは数学的、発明的アプローチに近いかもしれないが、面白いのは根底にあるのが、情熱だという点だ。

「日本に来て『しょうがない』という言葉を知った。それはひとつの考え方だろう。しかし少なくとも私は、90分の世界ではそれを受け入れられない」

 リージョはそう言って、こう続けていた。

「プロの選手は『しょうがない』というのがないところまでできるかどうか。たとえばディフェンスの選手なら、シュートに対して最後は顔面を差し出す、という気概が最後は必要になる。ウルグアイ代表の(ディエゴ・)ゴディン、(ディエゴ・)ルガーノはみんなそうだった。そのボールのコースを変えることで、自分たちの運命が変わる。『あ、シュートしたなぁ』と突っ立っていたら、運命を引き寄せられるはずがない。その覚悟、責任を持てるか。結局、サッカーはそこで決まるんだ」

 それが変幻の最後のピースだ。

 2月7日、シティは昨季王者リバプールとの敵地戦で雌雄を決する。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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