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規格外で捨てられるのは野菜だけじゃない「太っても痩せても処分される」豚の悲哀 3月1日は「豚の日」

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
カツ丼(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

大根の産地として全国的に有名な神奈川県三浦市。ここで、暖冬のために育ち過ぎた大根を、規格外のために4分の1も廃棄せざるを得ない事態になっているという報道があった(テレビ朝日News、2019年2月28日17:44)。

市場の規格は長さ35センチで1kg程度だが、今年は50センチで5kgになるものもあるのだそうだ。

決められた規格から出てしまう、とはいえ、農家の方が丹精込めて育ててきて、美味しく食べられるのに捨てられ、食品ロスになってしまうとは、どうにも理不尽で、せつない。

野菜や果物だけでなく、肉や魚も規格外で毎日廃棄されている

規格外で捨てられるのは大根だけではない。他の野菜や果物も同様だ。規格外、という理由だけでなく、「生産調整」という名の廃棄もある。

ちなみに日本の食品ロス年間646万トンの中に、生産調整で捨てられる農産物は含まれていない。「生産調整」であって「食品ロス」ではない、ということだ。

規格外で捨てられるのは野菜や果物だけではない。肉や魚も同じだ。

ハマグリの粒の大きさが揃わないもの、大き過ぎる魚は出荷されない、あるいはセリで売れ残って処分される。そんな規格外の魚を仕入れているのが東京駅丸の内北口のビル地下一階にある「魚治(うおはる)」(筆者撮影)
ハマグリの粒の大きさが揃わないもの、大き過ぎる魚は出荷されない、あるいはセリで売れ残って処分される。そんな規格外の魚を仕入れているのが東京駅丸の内北口のビル地下一階にある「魚治(うおはる)」(筆者撮影)

太った豚も痩せた豚も市場は受け入れてくれない

豚にも規格外がある、と知ったのは、東京・池尻大橋でレストランを営む荻野伸也さんの「ターブルオギノ」の活動を記事で見たのがきっかけだ。

レストランオギノとターブルオギノを営むシェフ、荻野伸也さん(筆者撮影)
レストランオギノとターブルオギノを営むシェフ、荻野伸也さん(筆者撮影)

取材したとき、荻野さんは次のように語った。

自分で直営として、ターブルオギノというブランドを作って、そこで全国の農家さんから、規格外の物をなるべく集めて、商品化をしていって、それをお客さまに楽しく、おいしく食べてもらおうというのがコンセプトではありまして。

以前から、基本的にその規格とか規格外とかということにあまり拘らず、農家が「ちょっとこれ使ってみて」って言って実験して、実験台のように僕を使ってくださいということで、何か水豚と呼ばれている、例えば暑すぎちゃって、水ばっかり飲んでいて、もう太っちゃった豚とか。

あとは逆に、あんまりご飯を食べなくて痩せ細っちゃって、ハムにできないぐらいの大きさにしか育たなかった豚というのが、やっぱり出てくるらしいんです。

そういった物を、「ちょっと加工してもらえないかな」みたいなことで、お話いただいたりとかして、「じゃあ、分かりました」と言って、別にちっちゃいだけの話なので。僕ら、基本的にはミンチにかけたりとかってするもんですから、それはソーセージとかできるとか。ということに、結構やってはまいりました。もうこれで7年目に入りますかね。

出典:「人間の都合でなく畑の都合。採れた野菜を見て料理を考える」規格外を捨てずに活かすターブルオギノの挑戦

荻野さんは、規格外の豚肉を仕入れ、ハムやソーセージ、テリーヌなどのシャルキュトリー(肉の加工品)にして、お客さんに美味しく食べてもらっている。

荻野さんが作るシャルキュトリー(肉の加工品)(荻野伸也さん提供)
荻野さんが作るシャルキュトリー(肉の加工品)(荻野伸也さん提供)

市場で豚は110キロから120キロの間で出荷される

食品事業者から出された食品をリサイクルしている株式会社日本フードエコロジーセンター。社長の高橋巧一さんは、公式サイトのプロフィールに書いてある通り、獣医学科を卒業された獣医師だ。豚はもちろん、動物の生態に詳しい専門家だ。

高橋さんに伺ったところ、豚は、110キロから120キロの間で出荷されるのだそうだ。

ー豚の基準体重は上限、下限が決まっていて、それを超すと殺処分と聞いたんですけれども、どのぐらいの範囲なんですか?

高橋:基本的には、豚の場合、今の日本のとちく場で出荷されている豚は115キロぐらいが基準なんで、110キロから120キロの間ぐらいで出荷するんです。

ー2018年はすごく暑かったので、豚さんがすごくお水を飲んじゃって、水太りで体重が増えちゃって、それを超えたので処分したと。あるいは痩せ過ぎちゃって処分と聞いているんです。

高橋:これは、どちらかというと農場の目利きの問題なんです。当然、夏場になれば、人間も、豚も食欲が落ちますし、冬場はがんがん食べる。がんがん食べるときであれば、その体重の瞬間に出さないと1日1日どんどん増加していきますので、体重オーバーになってしまうわけです。

夏場は大きく見えても、実は水分をたくさん取っているので、意外と胃の中にいっぱいあったけれども、肉はそんなに少なかったみたいなこともあるわけなので。

ベテランの方はみんな分かっているんですけれども、最近は職人芸的なことはあんまりやらないで機械的にやるので、そうすると、どうしても出荷してみないと分からないという話もあるわけです。

出典:日本フードエコロジーセンター代表取締役、高橋巧一さんへのインタビュー

株式会社日本フードエコロジーセンター高橋巧一社長(筆者撮影)
株式会社日本フードエコロジーセンター高橋巧一社長(筆者撮影)

「豚の食べ物に脂分と塩分はできる限り入れない」

高橋さんのところでは、豚の健康のために、脂と塩分はできるだけ入れないようにしている。

ー他の動物、例えば犬とか、シカとかは、塩分はあまりあげないほうがいいと聞いたんですけれども、豚の場合はどうなんですか。

高橋:豚もそうです。

ー豚も同じ。

高橋:基本的には塩分をあげ過ぎると中毒を起こしますので。

ー人間もですけれども、過剰摂取。

高橋:そうですね。だから、うち(の会社)がある程度、原料を選んでいるというのも、基本的には脂と塩分は極力、入れたくないんです。ただでさえ人間の食べ物というのは脂っこいし、しょっぱいということなんで、なるべく入れないでくださいと。だから、よく「塩分や脂分の多い食品(筆者注:固有名詞は伏せます)はできませんか」と言われるんですけれども、これは塩分が強すぎて全部断っているわけです。

ー砂糖はどうですか?

高橋:砂糖はいいですよ。

ー砂糖はいいですね。デンプンとちょっと似ているというか。

高橋:ただ、人間と一緒なんで、砂糖とか、チョコレートも、嗜好(しこう)性はすごくいいんですよ。甘いものは、豚さんが大好きなんで、がんがん食べるんです。砂糖だけであれば、カロリーですから問題ないんですけれども、どうしても脂っこいものも入ってきますので。

ー生クリームとか。

高橋:そうすると、そういうの(脂分)と結び付いて、豚肉が脂身ばかりの豚肉になっちゃうんで、多少その辺をコントロールしないといけないんです。それは人がケーキを食べ過ぎないようにするのと全く一緒の形。

ー同じなんですね。

高橋:同じなんです。

ー人と同じ考え方なんだ。

高橋:そうです。

出典:高橋巧一さんへのインタビュー

日本フードエコロジーセンターで作られた餌を美味しそうに食べる豚(高橋巧一さん提供)
日本フードエコロジーセンターで作られた餌を美味しそうに食べる豚(高橋巧一さん提供)

「豚の内臓の大きさや機能は基本的に人間と同じ」

日本フードエコロジーセンターで作る飼料は、家畜のうち、豚に特化している。なぜなのかを高橋さんに伺った。

ー豚が対象となったのは、何がきっかけだったんでしたっけ?

高橋:1つは、基本的に豚の内臓というのは、大きさも機能も人間と全く一緒なんです。今、医学の業界はサルよりも、むしろ豚を使う形です。

例えば肝臓移植も、井出さんの肝臓の切片を培養して豚さんに植え付けて、豚さんが生きているときにその肝臓を井出さんのところに付けると、もともと自分の肝臓の培養したものなんで、交換しても、拒絶反応とかが全く出ないんです。

培養装置としては豚が一番いいということで、アメリカは、かなりそういう研究をしているんです。それぐらい内臓の大きさとか、機能とか、そういったものが人間と豚はほぼ一緒なんです。

つまり、豚も、人間も雑食ですよね。だから、多様なものを食べてやると。

牛とか、馬とかは草食動物ですから、人間が食べられても、牛は食べられないもの、というのはたくさんあるんです。

タマネギは、人間と豚でしか食べられない。それ以外の生き物が食べると、中毒を起こすんです。犬、猫を飼われている方は「ハンバーグはあげちゃ駄目よ」と言うのは、あの中にタマネギが入っているからなんです。そういった意味では、豚の餌にするというのが一番リスクが少ない、というのは1つです。

養豚の歴史は、5000年とか、6000年とか言われていて、キリストが生まれるもっとずっと前から養豚というのは行われていて。常に人間のそばに豚さんがいて、人間が余ってしまったものを豚さんが食べて、優良なタンパク質に変えていくと。ニワトリも雑食なんで、人間の余ったものをニワトリが食べて、それを卵に変えていく、という。

豚やニワトリは、どちらかというとずっとかなりの古い歴史があって、人間のそばにいて、人間の余ってしまったものを他のタンパク質に変えていくという変換装置だったわけなんです。

そういった意味では、むしろそれが本来の姿なので、アメリカのトウモロコシを工業製品のようにあげてやるやり方が、ここ何十年の話であって。

ヨーロッパでもアジアでも何百年も前から、いわゆる「残飯養豚」といって、人間の余ってしまったものを豚さんにあげて豚肉を作るというのは、ヨーロッパも、中国も全部そういう形で行われてきたのが歴史なんです。

出典:高橋巧一さんへのインタビュー

日本フードエコロジーセンターで作られた餌を美味しそうに食べる豚たち(高橋巧一さん提供)
日本フードエコロジーセンターで作られた餌を美味しそうに食べる豚たち(高橋巧一さん提供)

日本フードエコロジーセンターの「エコフィード」で育った豚「優とん」を食べてみた

日本フードエコロジーセンターが作っているように、食品残渣で作られた飼料のことをエコフィード(eco-feed)と呼ぶ。今や食料自給率だけでなく、飼料の自給率も低い日本では、このエコフィードが、食品リサイクルと共に、飼料自給率の向上にもつながる。

日本フードエコロジーセンターで作られた餌で育ったは、「優(ゆう)とん」「旨香豚(うまかぶた)」として美味しく食べられている。

この「優とん」を食べられる飲食店の一つ、東京・新宿、小田急百貨店の中にあるそば ご膳 つづらお本店へ行ってみた。

東京・新宿 小田急百貨店 そば ご膳 つづらお本店の正面(筆者撮影)
東京・新宿 小田急百貨店 そば ご膳 つづらお本店の正面(筆者撮影)

ここに、「優とん」を使った「優とんそば」と「優とん つけ汁せいろ」がある。「つけ汁せいろ」を頼んでみた。

つづらお本店「優とんそば」と「優とん つけ汁 せいろ」のメニュー(筆者撮影)
つづらお本店「優とんそば」と「優とん つけ汁 せいろ」のメニュー(筆者撮影)

店内はかなり人が入っていて、最初は外で座って待っていたが、すぐに入ることができた。

注文してからの提供も早かった。

「優とん せいろ つけ汁」(筆者撮影)
「優とん せいろ つけ汁」(筆者撮影)

「優とん」は、通常の豚肉に比べ、健康にいいオレイン酸の含有率が高い。コレステロール値も低い。

やわらかい「優とん」(筆者撮影)
やわらかい「優とん」(筆者撮影)

やわらかくて臭みもなく、美味しい豚肉だった。

小田急百貨店の同じフロアには洋食麦星があり、ここでも優とんを食べることができる。

洋食麦星で食べられる「優とん」(筆者撮影)
洋食麦星で食べられる「優とん」(筆者撮影)

3月1日は「豚の日」

3月1日は「豚の日」だそうだ。1972(昭和47)年、アメリカのエレン・スタンリーとメアリー・リン・レイブの姉妹が、最も利口で役に立つ家畜である豚への感謝をこめて制定した。アメリカでは豚の品評会が開催されるとのこと。

フィリピンでは、新年や結婚など、お祝いの時、豚の丸焼きを作って食べる。なんだか可哀想だが、これが「命をいただく」ということだと思う。だからこそ、食べ物を捨てないで「いただく」という神聖な気持ちになるのだ。

安心して豚肉を美味しく食べよう!食べながら「規格」について考えよう

2019年2月、豚コレラの報道があった。心配する向きもあると思うが、これについては農林水産省が「人に感染することはない。仮に豚コレラにかかった豚肉や内臓を食べても人体に影響はない」と通知を出している。

豚肉は、肉の中でもビタミンB群が豊かで美味しい。安心して食べながら、「規格って、誰のためなのだろう?」と、豚さんの姿を思い浮かべながら、ちょっと思いをめぐらせて頂きたい。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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