一貴の3連覇か、可夢偉の初優勝か? 「ル・マン24時間レース」の見どころ
今年の9月は24時間耐久レースのラッシュだ。コロナ禍で延期されたル・マン24時間レースが現地時間の2020年9月19日(土)〜20日(日)に、フランスのル・マンにあるサルトサーキット(1周13.629km)を使って開催される。
現在、フランスでは新型コロナウィルス感染者数が急激に増加しており、観客を入れての開催は断念し、史上初の無観客レースとして開催される。日本でもJ SPORTSで24時間の生中継が行われる「第88回 ル・マン24時間レース」の見どころをご紹介していこう。
トヨタは3年連続の総合優勝を狙う
総合優勝を狙うのはもはや説明不要のトヨタだ。2018年、2019年と中嶋一貴/セバスチャン・ブエミ/フェルナンド・アロンソ組が優勝し、小林可夢偉/マイク・コンウェイ/ホセ・マリア・ロペス組が2位表彰台を獲得。トヨタは2年連続で1-2フィニッシュを果たしている。
ただ、2018年以降、ポルシェもアウディも撤退し、ハイブリッドシステムで走る自動車メーカーのライバルはいない。同じLMP1クラスのライバルは「レベリオンレーシング」と「バイコレス」が走らせる、プライベーターのノンハイブリッド勢だ。「ジネッタ」が直前で不参加となり、LMP1クラスは今年も僅か5台という寂しいラインナップになってしまっている。
ただ、2018-19シーズンのWEC(世界耐久選手権)ではノンハイブリッド勢が性能調整によって、これまで以上に優遇されている。ここまでの6戦中4戦で「レベリオンレーシング」がポールポジションを獲得し、上海とオースティンでは同チームが優勝。トヨタの敵をあえて挙げるならばレベリオンだ。
しかし、レベリオンはル・マン24時間レースになると序盤で接触したりと、勿体無いアクシデントで早々に勝負権を失うのがいつものパターン。彼らのペースは速いのでちゃんとレースをできれば面白い展開になるだろう。ちなみにレベリオンは今大会をもってレース活動を終了する。
小林可夢偉、悲願の優勝なるか?
今回はトヨタにとっても2012年から培ってきたハイブリッド・プロトタイプカーで挑む最後のル・マン24時間レースになる。
詳細はまだ発表になっていないが、来年からトヨタはLMHハイパーカー規定の新車を投入する予定になっているため、TS050ハイブリッドはル・マンでは見納めだ。ハイパーカー規定のマシンは500kW程度に最高出力が制限されるため、必然的に来年以降は最高峰クラスのラップタイムは落ちるはずだ。
ハイブリッドパワーと強烈なダウンフォースによって驚きのラップタイムを刻むというのはしばらく見納めになる。コースレコードを持つのは小林可夢偉で2017年の予選で3分14秒791をマークした。今年は各クラス上位6台が進出する「ハイパーポール予選」が行われるため、コースレコード更新の最後のチャンスとなる。
ポールポジション獲得を狙う小林可夢偉は7号車で今年もマイク・コンウェイ、ホセ・マリア・ロペスと組む。昨年のル・マンでは終盤までレースをリードしながら、タイヤのトラブルで残り1時間というタイミングで緊急ピットイン。さらに空気圧センサーの配線ミスで変えるべきタイヤを間違え、もう一度ピットインを余儀なくなれる。これで首位を失い、7号車はまたも勝てなかった。
逆に勝った方の8号車、中嶋一貴が「7号車の(勝つ)レースだったと思うので何も言えない」と悔し涙を流すほど、7号車はあまりに切ない首位陥落劇だった。
もう勝つしかない7号車に乗る小林可夢偉、アロンソがチームを去りブレンドン・ハートレーを迎えた8号車に乗る中嶋一貴。序盤は忖度なしのガチンコ勝負を繰り広げるだろう。現在、WECでは7号車が3勝をマークしてチャンピオン争いをリード中。ル・マンで優勝すればチャンピオンに王手をかけられるだけに小林可夢偉は初のワールドチャンピオン獲得に向けて、何としてでも勝ちたいレースだろう。
LMP2では山下健太がル・マン初出場
最高峰クラスLMP1クラスは台数が5台と少ないが、24台出場の大所帯なのがLMP2クラスだ。WECのレギュラーチームに加え、ヨーロピアン・ルマンシリーズのチームも出場する。
LMP2の特徴はエンジンがワンメイク(ギブソン/4.5L/V型8気筒)ながら、シャシーとタイヤが複数からチョイスできることで、24時間のレース中、常に面白いレースが展開される。しかしながら、オールプロドライバーの編成ではなく、ドライバーランクがシルバーかブロンズのドライバーを最低1名は起用しなくてはならない。すなわちジェントルマンドライバーとプロドライバーがマシンをシェアして戦うクラスだ。
そこに今年はSUPER GT/GT500でチャンピオンに輝いた山下健太が「ハイクラス・レーシング」から出場。2019-20シーズンでWECの武者修行を行っている。昨年夏から参戦し、ようやくやってくる初めてのル・マン。LMP2は激戦区であるだけに厳しい戦いが予想されるが、SUPER GTの王者らしい熱い走りに期待したい。
そして、LMP2にはもう一人ベテランの日本人が参戦。日本ではFLYING RATのドライバー名で鈴鹿や富士のレースを走ってきたジェントルマンドライバー、山中信哉が「ユーラシアモータースポーツ」から出場する。
また、日本のスーパーフォーミュラに今季から参戦している女性ドライバーのタチアナ・カルデロンが「リシャールミル レーシングチーム」から参戦。女性3人トリオのチームで走るのも大きな話題だ。
CAR GUYが再び参戦
今季、GTE-Proクラスはフォードの撤退、シボレーの不参加によって、フェラーリ、ポルシェ、アストンマーチンの3社で争われる。最も見応えがあるレースを展開するのは台数が減ってもGTE-Proクラスであろう。このクラスは毎年ウイナーが変わっている。
そんな中で耐久王ポルシェはル・マンでの初優勝から50周年ということで、記念カラーで挑む。エースカーの91号車は1970年優勝のポルシェ917Kの赤と白のカラーリングをモチーフにしたカラーで、ボンネットからルーフに「1970」という文字が大きく描かれている。
そして台数増加が顕著なのが、アマチュアドライバーが中心のGTE-Amクラスで、ここには昨年もル・マンを盛り上げた「カーガイレーシング」のドライバーたちが参戦するが、本来は石川資章が年間参戦していた「MRレーシング」から代役のような形で木村武史、ケイ・コッツォリーノが参戦する。
今年はLMP2が24台、GTE-Amが22台となっており、エントリーの8割近くがジェントルマンドライバーに門戸が開かれたクラスになっている。長い期間ロックダウンも経験したヨーロッパだが、コロナ禍の影響は大きくなさそうなル・マンの盛況ぶりだ。
ジェントルマンドライバーたちはヨーロピアン・ルマンシリーズやロードトゥルマンなどの下位カテゴリーで経験を積んできてはいるが、今年は初出場のドライバーが例年以上に多いことも特徴。そして事前のテスト走行が行われなかった上に、9月下旬に時期がズレたことで今年は夜間走行が長くなる。プロに比べればスキルや体力面で差がある選手が多い今年のル・マンは波乱の展開になりそうな予感がしてならない。