Fruitvale Station
2009年元旦、オスカー・グラントという22歳の黒人青年が亡くなった。同日の午前2時を少し過ぎた頃、彼はカリフォルニア州オークランドを走る「フルートヴェイル」駅のプラットホームでうつ伏せに寝かされていた。理由は電車内で乱闘騒ぎを起こしたからである。両手首に手錠がはめられ、傍にいた鉄道警官に抗える筈もなかった。それでも警官はグラントに向かって発砲し、若い生命を奪ったのである。
ホームにうつ伏せになる直前、グラントは「(スタンガンを)こっちに向けないでくれよ! 俺には4歳の娘がいるんだ」と叫んだ。しかし、その声は届かなかった。スタンガンどころか、警官は本物の銃の引き金を引いたのである。この警官は白人だった。彼にとってグラントは“虫けら以下のブラック”だったのだ。
グラントには犯罪歴があり、ドラッグの売人という顔もあった。遅刻が原因で勤務していたスーパーマーケットを解雇されたばかりだった。それでも、4歳の娘を守るために、何とか生きていこうと努力していた。
オークランドのタフなエリアで育ったライアン・クーグラー監督(27歳)は、自分と同じ黒い肌を持った若者の死に衝撃を受ける。怒り、哀しみ、そして困惑を1本の映画作品とした。
スタート時は、たった7館でしか上映しなかったが、大ヒットを飛ばし、サンダンス映画祭作品賞、観客賞、第66回カンヌ映画祭フューチャーアワード賞など、幾つもの賞を総ナメにする。日本でも3月21日より公開されることが決まった。
先日、クーグラー監督が来日した。短い時間だったが、非常に会話が弾んだ。かつて私が通っていたボクシングで、今、汗を流しているという。
彼もまた、私が書き続けてきたマイノリティーの世界で生きている。私の作品の英語バージョンを送ってくれ、と言ってくれた。
久しぶりに身体が燃え上がるのを感じた。