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アフガン崩壊「米国の完全降伏。タリバンはバイデンを恐れていない」 トランプならどう対応したか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
アラバマ州で行われた集会でバイデン氏のアフガン対応を批判したトランプ氏。(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ氏が、21日、アラバマ州カルマンで支持者集会を行った。大統領選敗北以来、4回目の支持者集会だった。90分にわたる演説の中で、トランプ氏が多くの時間を割いたのは、バイデン政権のアフガン撤退に対する猛批判だ。

史上最大の敗北

 「バイデンは、今、アメリカ史上最大の外交的屈辱を見ている。これまでで最大の屈辱だ。バイデンはぶざまなアフガン撤退により驚くほどの無能ぶりを見せつけた。バイデンの生み出したカタストロフィーに比べたら、ベトナム戦争は戦略上熟練している」

とトランプ氏はベトナム戦争時の方がアメリカはうまく対応していたと指摘しつつ、こう続けた。

「これは、史上最大の米軍の敗北になるだろう。こんなやり方で撤退する必要はなかった。これは撤退ではない。完全なる降伏だ。全く分別がない降伏だ」

「我々は名誉をもって撤退することができただろうし、そうすべきだった。かわりに、それとは正反対のやり方で撤退をした」

とバイデン氏の撤退の方法が間違っていたと主張。

 もっとも、昨年2月、タリバン側と和平合意をして、米軍撤退を推進していたのはトランプ氏である。バイデン氏はそれを引き継ぐ形となったわけだが、トランプ氏はタリバン側と交渉した際に和平合意には条件をつけていたと言い、バイデン氏がそれを台無しにしたと批判した。

「私はアブドゥルと交渉した。彼はタリバンの指導者だ。私は『何か起きたら、恐怖で統治することになる。恐ろしいことになるだろう。米国民に触れるな。我が国に2度と来るな。おまえたちは自分たちで市民戦争をし続けろ』と言った。私は彼らと条件つきの合意をしたのだ。しかし、不正選挙が起きて新しい大統領が登場した。彼は、片膝をついて『おいで、みんな取って行ってくれ』と言った。アメリカ史上最大の恥だ。バイデンは、愚かにも我々の計画をメチャクチャにした」

 さらには、バイデン氏がすべてをタリバンに明け渡し、タリバンがアメリカの洗練された兵器を獲得したことを懸念。

「タリバンが得たものは世界で最も洗練された軍装備品だ。バイデン氏は空軍基地や兵器、大使館を明け渡し、米国民を見捨てた。彼らは今もアフガンにいる。彼らはどうしていいかわからない」

バイデンは怖がられていない

 では、バイデン氏はどうすればよかったのか? 

「彼がすべきだったことは米国民や兵器などのすべてがアフガンから退避するまで米軍をアフガンに駐留させ、そして基地を徹底的に爆撃することだ。我々の基地は5つある。そして“バイバイ”だ」

「軍を1番最初に動かしてはならない。軍は最後に動かすのだ」

 トランプ氏は、米軍は米国民などを退避させた上で基地を爆撃し、最後に撤退すべきだと訴えた。

 また、ホワイトハウスが弱体化したことを指摘し、自身が59基のミサイルでシリアを爆撃して習近平氏を驚かせたことを自慢、自身が大統領だったらタリバンによる制圧は起きなかったと豪語した。

「ホワイトハウスが弱いと、こういうことが起きる。ホワイトハウスが弱くてはだめだ。大統領はリスペクトされなければならない。敵はバイデンを恐れておらず、彼をリスペクトしていない」

「私が大統領の時は、力があった。シリアに59基のミサイルを放ったことを覚えているか。そのことを、マーラーゴ(フロリダ州にあるトランプ氏の別荘)で習近平氏と会食していた時に彼に話したら、彼は『繰り返して下さい』と言った。思っていたより、彼は英語を話した。彼は『ハロー』と言わなかったからね。しかし彼は『繰り返して下さい』とは言った。

 59基のミサイルで信じられないほどのパワーを見せつけた。世界の誰もがアメリカをなめてはならないことを知った。彼らは我々のパワーと、そのパワーを米国民を守るために我々がためらわずに使うことを理解した。タリバンもたぶん同じくらい理解していただろう。私が大統領だったら、こんなことは起きなかっただろう。私は個人的にタリバンのリーダーに言ったのだ。アメリカを裏切ったら終わりだと。そうはっきりと言った」

 トランプ氏は、得意とする“脅しの外交術”で、タリバンと和平合意していたというのである。

トランプなら大規模な空爆を展開

 自身が大統領だったらアフガン崩壊は起きなかったと豪語したトランプ氏だが、専門家はどう見ているのか? 

 シンクタンク「センター・フォー・ナショナル・インタレスト」のハリー・カジアニス氏はUSA Today紙でこう話す。

「トランプがバイデンと同じ決断をしていたとしたら、つまり、今年の同じ時期にアフガン撤退をしようとしていた場合、アフガンの崩壊は同じように起きていたと思う。誰が大統領だったとしても、アフガン崩壊は起きていただろう」

 しかし、同氏は、同時に、トランプ氏は違うアプローチをしていた可能性があるとも指摘する。

「トランプなら、タリバンの進行を食い止めるために大規模な空爆を展開し、国内で政治的ダメージを受けないようにした可能性が高い。トランプは悪い状況から良い世論を生み出すことを重視している。彼は空爆をすることで、(国内世論向けに)重要なことをしているのだと示そうとすると思う。そして、空爆の後に起きることはアフガン政府のせいにするだろう」

 しかし、空爆を展開したところで、結果は同じだとカジアニス氏は言う。

「税金が1兆ドル使われたにもかかわらず、誰が指揮を取っても、アフガンは安定しなかった」

撤退期限を延長せず

 今、アフガンには、まだ退避することができていない米国民やアフガンの難民が大勢いる。それにもかかわらず、バイデン氏は8月31日の米軍の撤退期限を延長しないと発表した。その理由として、同氏は、24日に行われたG7の緊急会合で、カブールの米軍が脅威に晒されていることをあげている。

 イギリスのジョンソン首相やマコーネル上院少数党院内総務をはじめ、民主党や共和党の議員からは撤退期限の延長を求める声があがっていた。

 一方、タリバンは8月31日撤退を求め、撤退しなければその影響を被ることになると警告していた。

 結果的にバイデン氏は、米軍へのリスクが日増しに高まっていることを懸念したのだ。

 しかし同時にバイデン氏は、期限まで撤退を完了できるかはタリバンの動き方次第だとし、撤退期限延長の場合の緊急時対応策をペンタゴンに求めたとも話している。

 バイデン氏は期限まで、米国民やアフガン難民を退避させ、撤退を完了させることができるのか。バイデン氏の外交手腕が問われている。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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