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【体操】アフロ亀山が牽引!長谷川、萱も! 最も地味な「あん馬」で繰り広げられる最高に熱い戦い

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
日本のあん馬界をリードする2013年世界選手権種目別金メダリストの亀山耕平

リオデジャネイロ五輪を来夏に控え、代表争いが白熱している体操ニッポン。今秋の世界選手権の最終選考会を兼ねる6月20、21日の全日本種目別選手権(東京・代々木第一体育館)で、にわかに“ホットスポット化”している注目種目が「あん馬」だ。

長谷川智将のあん馬の演技。左は演技を真剣に見つめる白井健三
長谷川智将のあん馬の演技。左は演技を真剣に見つめる白井健三

あん馬と言えば、手足の長い欧米人と比べて見劣りしがちということで、かつては日本人にとって最も苦手な種目とされてきた。

その常識を覆したのが、2年前の世界選手権種目別で金メダルに輝いた亀山耕平(徳洲会)だ。長い手足で高難度技を美しくさばき、欧米選手を凌駕。03年の鹿島丈博以来、日本人としては10年ぶり2人目という快挙だった。

■美しいつま先で勝負する亀山

表情を引き締める亀山耕平
表情を引き締める亀山耕平

亀山は、自他ともに認める「美しいつま先」の持ち主。身体の柔らかい選手がそろう体操界でも群を抜く柔軟性で、審判や観衆の目を惹きつける。あん馬のつま先はもちろんのこと、つり輪の力技を演技している最中でさえも、つま先に見入ってしまうほどだ。

昨年の世界選手権では予選で失敗して決勝に進めなかったが、団体総合決勝では高得点をマークし、チームの銀メダルに貢献した。ミスがなければ世界トップに返り咲くのに十分な演技構成を持っている。

種目の第一人者としての意識も高い。「つま先と体線の美しさは負けない」と胸を張る亀山だが、「あん馬は地味なので、少しでも注目してもらえたら」との願いを込めて今年はアフロヘアに変身し、耳目を集めている。

勝負種目はあくまであん馬。「去年はほかの種目も幅を広げようとしたけど、広がらなかった。もう迷うことはない。あん馬一本で世界チャンピオンを目指す。それしかない」ときっぱりと言う。

■ダイナミックな旋回が武器の長谷川

日体大4年の長谷川智将
日体大4年の長谷川智将

亀山に続く存在と言えるのが長谷川智将(日体大)だ。魅力はダイナミックな旋回。「僕の場合、開脚して演技する部分も多いので、旋回の大きさでも負けたくない」と言葉に力を込める。技を詳しく知らないという人でも、純粋にカッコイイと思える演技を見せてくれる。

性格はムードメーカー的で、明るさ満点。寿司職人をイメージした髪型と寿司を握るコミカルなポーズでもおなじみだ。日体大の合宿所ではゆかのスペシャリストである1年生の白井健三と同部屋。「練習への取り組み方や集中の仕方などを参考にしている」と謙虚に言う。

■腰の高さと安定感の萱

順大1年の萱和磨
順大1年の萱和磨

大学1年になった今年、めきめき頭角を現してきたのが萱和磨(順大)だ。特長は腰の高い旋回。「そこは僕の取り柄。自分の良いところを生かした演技をしている。若さと勢いで突き進みたい」と力強い。安定性が高く、ミスが少ないのも魅力。少々のバランスの崩れでも立て直す巧さは内村航平に通じるものでもある。

亀山があん馬のスペシャリストであるのに対し、長谷川と萱は個人総合でも上位を狙えるオールラウンダー。個人総合で争うNHK杯では長谷川が7位、萱が8位になっており、世界選手権代表の代表選考条件で好位置にいる。今回の全日本種目別選手権でも、長谷川は鉄棒、萱は平行棒と鉄棒にもエントリーされている。

■カギを握る「ブスナリ」の出来映え

ブスナリはダイナミックな技
ブスナリはダイナミックな技

熱い戦いを演じる3選手が共通して構成に組み込んでいる大技がある。最高G難度の「ブスナリ」だ。逆立ちで開脚しながら馬を移動する大技で、近年世界のトップが続々と取り入れている流行技だ。3人とも「ブスナリを見て欲しい」と言うように、演技の見せ場となる。

亀山はこのブスナリを世界で勝負するためには必須の技と考えている。「ブスナリは流行の技。世界の傾向を見ると、流行の技を入れないと種目別のチャンピオンにはなれないと思う。流行を取り入れて、なおかつ美しさや、迫力がないと勝てない」

長谷川は「日本で最初にブスナリをやったのは僕」という自負がある。「だからこの技の安定感だけは負けないようにしている。日本人でブスナリと言えば長谷川と言われるようにしたい」と意気込む。

最も若い萱は、練習では高校2年生ごろから成功するようになったといい、すでに安定感は高い。「僕の場合は個人総合の試合でもブスナリを入れた構成で演技できることが取り柄だと思う」とアピールする。

亀山と萱は4、5月の全日本個人総合選手権やNHK杯で、昨年の世界選手権種目別の決勝進出ラインとなった15・333を超える得点を出している。長谷川も6種目で争う個人総合の戦いの中で15・200を出しており、単種目で争う種目別選手権ではさらに構成を上げて挑んでくるはずだ。

6枠ある世界選手権の代表には、すでに内村、田中佑典、加藤凌平の3人が決まっている。残り3枠は全日本種目別選手権決勝の得点だけではなく、NHK杯での成績も加味しながらの選考となる。あん馬だけの戦いではなく、ゆかと跳馬の白井、つり輪などの山室光史、昨年の世界選手権代表の野々村笙吾らも残り3枠の争いに加わる。

亀山、長谷川、萱の目標は五輪舞台。体操競技の中で最も地味と言われる種目で繰り広げられる、最も熱い戦いに注目だ。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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