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「日本沈没」は始まっている:(2) マントルの流れで九州が分裂

巽好幸ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)
著者原図

日本列島は重いマントルの上に浮いている。だからこの列島全体が沈没することはない。しかし中部地方で本州が2つの島に分かれ始めている。さらに九州の一部でも沈没が始まっているようだ。

日本列島はかつてアジア大陸の一部だった。しかし今から約2500万年前に大陸の断裂が始まり、その後分裂した日本列島はほぼ現在の位置まで移動した。そして列島と大陸の間は沈没して日本海となった。

実は今、このような大変動が九州で起きようとしている。

引き裂かれる九州

九州の地殻変動をGPSで見てみよう(図左)。南九州が北九州に対して顕著に南へと移動していることが分かる。そしてその境には、地盤が溝のように落ち込んだ「地溝帯」が形成されている。別府湾から島原半島まで続く「別府-島原地溝帯」だ。そしてこの地溝帯は、年間1cm程度の速さで広がっている。つまり、九州は真っ二つに引き裂かれているのだ。

このまま九州断裂が進行すると、やがてこの地帯には瀬戸内海と有明海から海が入り込んで沈没し、海峡となるだろう。そして九州島は完全に2つの島に分裂する。

別府-島原地溝帯の西端である島原半島の沖合の海底には、「沖縄トラフ」と呼ばれる海底の凹地がある(図左)。沖縄トラフは琉球列島に沿って大陸側(海溝の反対側)の海底にある断裂帯で、尖閣諸島周辺から北東方向へ約1000kmにわたって延びる。数百万年前に始まった海底の断裂は次第に北へと進展しているようだ。そのうちこの沖縄トラフと別府-島原地溝帯はつながり、さらに九州島の分裂を加速する可能性もある。

図 国土地理院のデータに基づく九州の地殻変動(白矢印)と別府-島原地溝帯、活火山(三角)、マントル上昇流の位置(左)。九州分裂のメカニズム(右)。著者作成。
図 国土地理院のデータに基づく九州の地殻変動(白矢印)と別府-島原地溝帯、活火山(三角)、マントル上昇流の位置(左)。九州分裂のメカニズム(右)。著者作成。

九州分裂のメカニズム

なぜ九州は南北に分断されようとしているのか?その謎を解く鍵は、九州北西部で約800万年前から始まった火山活動にあるようだ。

九州は、火山大国日本でも最も火山が密集する場所だ(図左)。ほとんどの活火山はいわゆる成層火山であり、フィリピン海プレートの沈み込みによって造られた。一方で九州北西部には、約800万年前から広大な溶岩台地を形成するような大規模な火山活動が起きていた。この火山活動は、地球の深部おそらく600km程度の深さに起源を持つマントル上昇流が引き起こした(図)。五島列島の活火山である福江火山群も、この上昇流に関連して形成されたものであろう。

このマントル上昇流は地殻の底まで達すると周囲へと広がっていく。やがてこのマントルの流れは、沈み込むフィリピン海プレートによって冷やされてできた「剛体コーナー」を押すようになる(図右)。この力によって上盤プレートは引き延ばされて九州で断裂が生じたと考えられる。

この九州分裂のシナリオは、日本列島がアジア大陸から分離・移動し日本海が誕生したのとよく似ている。

分裂帯は地震の巣

九州が2つの島に分裂するのはおそらく100万年くらい先のことだろう。だからと言って安心してはいけない。これだけの地殻変動が今も起きているのだから、活断層が密集し地震が頻発するのは当然のことといえよう。2016年の熊本地震では、M3.0以上地震の多くが別府-島原地溝帯の中で起きた。

あらためて、私たちは世界一の変動帯そして地震大国に暮らしていることをしっかりと心得ておく必要がある。地震から逃れることはできないが、この試練を甘んじて受け入れるのではなく、被害を最小限に抑えていち早く日常を取り戻すことができるように、国や地域、そして個人ができる備えをしておきたいものだ。

ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)

1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学海洋底探査センター教授などを経て2021年4月から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。

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