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2018年の欧州を振り返ってーEU(欧州連合)&ヨーロッパ観察者の視点からー2019年への道

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
12月6日、欧州議会選挙で共闘を始めたギリシャとフランスの新政党の初会合にて。

もうすぐ2018年が終わろうとしています。

今年、ヨーロッパと欧州連合(EU)を観察していて目立ったことを、簡単に箇条書きにしたいと思います。

1,EUの軍事の進展。  前年の最後に書いた記事「2017年のニュース・トップ3ー2018年への道」では、PESCOの発足を1位にあげました。この1年で、EU軍事は飛躍的に進展しました。とても全部は書けませんでしたが、今年書いた記事で最も本数が多かったのは、EU軍事に関することでした。

2,極右の台頭。伝統的な中道右派や中道左派の苦戦が相変わらず続いています。中道右派はいっそう右寄りに、中道左派は弱っていくという傾向があります。極右に対抗しうる勢力としては、欧州の南のほうでは極左が、北の方では緑の党が受け皿になっていくのかどうか。

3,英国のブレグジット問題。「合意なき離脱」の可能性が濃厚になってきました。

4,日本とEUの経済連携協定と戦略的パートナーシップ協定に、双方が署名。

TPP11も、まさに12月30日午前0時に発効したばかり。日本のアジアにおける役割への期待が、世界レベルで一層増していくことになるでしょう。アメリカ、中国、欧州、ロシアの動きの中で、日本はどのように日EUの協定やTPPを活用していくのか。さらにオセアニア(オーストラリア・ニュージーランド)との連携も期待されます。

欧州議会選挙に向けて

来年度は欧州議会選挙があります。市民の権利・労働者の権利を守るのに大変熱心で、市民の社会権をいっそう充実させ確立させ、世界にも影響を及ぼしたジャン=クロード・ユンケル氏が続投しないのは、残念です。

極右が伸びるのは間違いないとして、どこまで左派が頑張れるのか。

欧州選挙キャンペーンにおいて、国境を超えた極右政党、極左政党の動きが注目されます。これはEU史上で初めての動きと言えます。特に左派のほうです。

極右のほうはというと、「国境を超えた極右政党の連携」などという摩訶不思議というか奇っ怪なものが、どの程度選挙キャンペーンとして実施されるのかは、実際にはかなり疑問です。こちらは仮に実施されても、人々の投票行動には影響はほとんど与えないかもしれません。

一方で、面白いのは左派のほうです。「欧州ニューディール政策」を共通で掲げた左派政党は、どこまで国境を超えて連帯ができるのか、どこまで市民の選挙行動にインパクトを及ぼすのか。

上の写真を見てください。左はブノワ・アモン。この前のフランス大統領選挙で、社会党候補として出馬した人です。今は、Generation.sという新しい政党を立ち上げています。右はヤニス・バルファキス。ギリシャのSYRIZA政権で、財務大臣をつとめたことのある人物です。DiEM25という新しい政党の党首になっています。「欧州ニューディール政策」は彼がつくったものです。(以前は、英国の労働党&コービン党首も大いに共感を示していたのですがね・・・。ブレグジットでもう欧州議会選挙はイギリスに関係ありません)。来年の欧州議会選挙に向けてパリで行われた、二人が登場した初めての集会の模様は、後日また詳しくレポートしたいと思っています。

このような動向は、EU史上まったく新しい動きとして、注目していきたいと思っています。同時に彼らは移民に対しても融和的なので、こちらの動向や市民の反応も注目したいです。

そして、もし本当に英国が「合意なき離脱」をするのなら、英国の混乱こそが、もしかしたらEUにとって、極右に対する最大の防御になるかもしれません。

極右と一口にいっても違う

ただ、一口に「極右」といっても、内実や主張は、国や政党によって様々に違います。フランスの国民連合(旧・国民戦線)などは、「EU離脱」の公約を既にひっこめています。

極右の台頭は、西欧においては移民問題が最も大きい原因ですが、東欧では「EUという巨大な力の中に入ってしまい、西欧が圧倒的に強いEU内における、アイデンティティの問題」という、西欧とは異なる要素があります。

また、EUがあろうとなかろうと移民が到達する地中海沿岸のイタリアやスペインと、国境を閉じれば移民は入ってこない内陸の国では違います。

ただ「既に自分の国にいる移民」をどうするのか。不景気や失業問題など、たまっている社会のうっくつと移民問題はどのように結びついていくのか。

あまり明るい展望が描けない来年の欧州ですが、とりあえず移民の流入はかなり止まっていますし、イスラム国は終わろうとしています(過激化するであろう残党への警戒は強めなれけばなりませんが)。ヨーロッパ人はタフですから、思いもかけない新しい要素が内外から飛び込んでくるかもしれません。

人権やヒューマニズムは、欧州で生まれました。来年は、人権とヒューマニズムのふるさとである欧州の正念場となるでしょう。

今年1年、私の記事を読んでくださった読者の方々に、厚くお礼を申し上げます。

日本では来年は元号が変わります。新しい時代がやってきます。みなさんにとって、来年が素晴らしい1年になりますように。

良いお年を。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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