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来年ホルヘ・リナレスと対戦が有力なゴールデンボーイ二世ライアン・ガルシアは800億円の男!?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
デラホーヤ氏とライアン・ガルシア(Tom Hogan/Golden Boy)

ゴールデンボーイも村田争奪戦に参入

 村田諒太vsスティーブン・バトラーにゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)の幹部の一人でマッチメーカーのロベルト・ディアス氏が来日していた。バトラーの後見人という立場だったようだが、突然押しかけてきた印象がしたのでGBPとバトラーの接点はあるのかと調べてみた。

 そこでわかったのは、17年1月にバトラーが喫した初黒星ブランドン・クックとの試合。カナダのライバル対決はクックが7回逆転TKO勝ち。クックは18年9月、サウル“カネロ”アルバレスvsゲンナジー・ゴロフキン2のリングでメキシコのハイメ・ムンギア(WBOスーパーウェルター王者)に挑戦。3回TKOで一蹴されたが、ムンギアのプロモーターがGBP。ムンギアvsクックが締結した段階で、GBPはバトラーとの関係もしっかり構築していたと推測される。

 そのへんのビジネス的な抜け目のなさはさすがと言うほかない。それは今回ディアス氏が明かした、カネロvs村田実現への布石となった。ゴロフキンとの“村田争奪戦”に負けてなるものか――というGBPの熱意が感じられる。

 しっかり“カネロ”の存在をアピールしたディアス氏(48歳)だが、皮肉にも現在カネロ本人とは不仲だといわれる。原因はカネロが保持していた統一ベルトの一つIBF王座をはく奪されたことにあるようだ。「ちゃんとプロテクトしてくれなかった」。それまで公の場でカネロの通訳も務めていたディアス氏だったが、最近2人がいっしょにいる場面を見ることがなくなった。冷え切った関係を改善する意味でも同氏は東京へ出向いたのではないだろうか。

スター性抜群。価値はカネロの倍

 ロサンゼルスを地盤とするGBPの顔は言わずと知れた元6階級制覇王者オスカー・デラホーヤ氏。社名となっている“ゴールデンボーイ”を継承する存在がライト級プロスペクトのライアン・ガルシア(21歳)だ。最新ランキングでWBA、WBCとも同級4位を占める。

 ガルシアもカネロ-ディアス氏の確執とほぼ同時期、御大デラホーヤ氏と待遇問題でもめたが、こちらはスピード解決。米国メディアの報道では並の世界チャンピオンを上回る人気と集客力を誇るガルシアが3月の試合で手にしたファイトマネーは5万ドル(約540万円)。これが不満でガルシアはGBP離脱をチラつかせた。だが、わずか2,3日でGBPから5年契約を勝ち取った。それだけ“キングライ”の異名を持つガルシアの将来性とスター性をデラホーヤ氏が高く買っている証拠だろう。契約を更新した時、同氏は、こうぶち上げたものだ。

 「カネロ・アルバレスはストリーミング配信の巨人DAZNと総額3億6500万ドルの複数試合契約を結んだけど、ライアン・ガルシアなら7億ドルもイケるんじゃないかな。カネロの倍だよ」

 カネロが昨年10月、DAZNと11試合の契約にサインした3億6500万ドルは当時のレートで約408億円に相当。デラホーヤ氏はその倍というから800億円に達する。もちろんガルシアが更新した契約はGBPとのもので、そんな途方もない金額ではない。それでも今後の躍進次第でガルシアが800億円の価値を持つ男に昇華する可能性をデラホーヤ氏は示唆した。

SNSではすでにチャンピオン

 今、ライト級は隆盛期を迎えようとしている。多くの媒体でパウンド・フォー・パウンド・ナンバーワンを占めるワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)が実質的に3冠統一王者(WBA“スーパー”・WBO・WBC“フランチャイズ”)に君臨。もう一つのIBF王者に今月14日、話題のプロスペクト、テオフィモ・ロペス(米=22歳)が鮮烈なKO劇を収めて就いたばかり。そしてロマチェンコの下のWBC“レギュラー”王者は20歳の新鋭デビン・ヘイニー(米)という陣容(注:ヘイニーは肩の負傷のため現在、休暇王者にシフト)。

 ロペス、ヘイニーそしてガルシアは「ライト級三羽烏」という存在に思える。おそらく現状の実力トップはロペスかヘイニーのどちらかだろう。だが人気、特にティーンから20代の女性に熱烈に支持されているのがガルシア。インスタグラムなど彼のソーシャルメディアのフォローアーの数がそれを裏づける。まさに時代の寵児といった趣だ。

最新戦でロメロ・デュノを初回で倒したガルシア(写真:Tom Hogan/Golden Boy)
最新戦でロメロ・デュノを初回で倒したガルシア(写真:Tom Hogan/Golden Boy)

 ガルシアは最新試合でフィリピンのホープで強打者のロメロ・デュノに初回わずか1分38秒TKO勝ち。戦績を19勝16KO無敗とした。この一戦はカネロvsセルゲイ・コバレフのWBOライトヘビー級タイトルマッチのセミファイナルで行われた。この試合からガルシアはカネロ・チームに合体。エディ・レイノソ・トレーナーの指導を受ける。体重差はかなりあるが、カネロとスパーリングまで行っているというから向上心は半端でない。

2月14日アナハイム

 そのガルシアの次戦がホルヘ・リナレス(帝拳=ベネズエラ)を相手に決まりそうだ――と言ったのは前回、前々回登場した筆者の旧友ハビエル・ヒメネス。だがこれは先走りで、ガルシアとリナレスは来年2月14日のバレンタインデーにそれぞれ別の対戦者を迎えて同じリングに立つ見込み。場所は米カリフォルニア州アナハイムのホンダ・センター。大リーグ、大谷翔平選手が所属するロサンゼルス・エンジェルスの本拠地エンジェル・スタジアムとフリーウェイをはさんで反対側に位置する。リナレス、ガルシアともしっかり勝利を収めてその次で対戦というプランが進行している。

 スーパーライト級転向を試みたリナレスは今年1月パブロ・セサール・カノ(メキシコ)と対戦した。ところがまさかの初回TKO負け。ライト級に戻ったリナレス(46勝28KO5敗)は9月、後楽園ホールに12年半ぶりに登場。アル・トヨゴン(フィリピン)に10回3-0判定勝ちを飾り再起を果たした。その時リナレスはターゲットに最後の王座(WBAライト級)を追われたロマチェンコの名前を挙げた。リナレスはロマチェンコに10回TKO負けしたが、6回に最強ボクサーをキャンバスに這わしている。肩口からスッと伸びた右ショートだった。きっとその感触が忘れられないのだろう。

久々の日本のリングで再起を果たしたゴールデンボーイ、リナレス(写真:ボクシング・ビート)
久々の日本のリングで再起を果たしたゴールデンボーイ、リナレス(写真:ボクシング・ビート)

リナレスのパワーを熟知

 実はこれまでガルシアはリナレスともロマチェンコともスパーリングで手合わせした経験がある。そして「リナレスの方がロマチェンコよりハードヒッターだ。ただしボクシングの能力はロマチェンコの方が高い」と明かしている。この発言からガルシアは両者をリスペクトしながらも警戒している様子がうかがわれる。おそらくデラホーヤ氏、冒頭のディアス氏らGBPの首脳陣はカネロの前例からもガルシアに冒険マッチを強要することはまだないとみる。

 それではリナレスvsガルシアの実現はもっと先に延びるのだろうか。来年35歳になるリナレス。カネロがゴロフキンに初めて挑戦した時、カザフスタン人は35歳だった。公式判定はドローだったが、大方はゴロフキンの勝ちに見えた。同じような結末がリナレスvsガルシアでも繰り返される予感もある。だがガルシアがセンセーショナルな勝利を飾れば一気に世界挑戦の道が開けるに違いない。リナレスはそれだけの実績と力量を持ち合わせたビッグネームだ。

ゴールデンボーイ対決

 上昇機運のホープにとってもっともオイシイ相手は名のある元王者やベテラン。とはいえ再起戦から判断する限り元3階級制覇王者リナレスはまだ落ち目ではない。私生活では結婚して子供をもうけ、本拠地ラスベガスで悠々自適の生活を満喫しているように思われるが、ホープの引き立て役を務める気持ちはさらさらない。新旧ゴールデンボーイ対決でよみがえり、世界挑戦に前進することも十分可能だと推測される。

 ガルシアがどれだけ価値のある男かはリナレスによって解明される。2月の前哨戦の内容にもよるが、もし本番でベネズエラ人に厳しい結果が出れば、それはそれで我々は宝物を発見したと悟るべきだろう。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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