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J1デビューが近づく久保建英。代表入りまで待望されるが、バルサでプレーを続けていたら・・・。

小宮良之スポーツライター・小説家
J1デビューが迫る久保建英(写真:アフロスポーツ)

 11月26日、33節のサンフレッチェ広島戦で久保建英(FC東京、16歳)のJ1デビューが濃厚と言われる。FWピーター・ウタカが契約上の問題で出場できず(広島から期限付き移籍)、FWの枠が一つ空く。久保には「フランスの強豪、パリ・サンジェルマンも食指を動かす」という報道が出るなど、大いに関心が集まる。

 はたして、久保は日本サッカー界を牽引するような名選手になれるのか?

もし久保がバルサにいたら・・・2部のハイレベル

 先日、FCバルセロナのセカンドチームであるバルサBを取材する機会があった。久保と同年代の選手もすでに加わっている。未成年の外国人選手移籍の問題で、久保は帰国せざるを得なかったが、もし残っていたら・・・。バルサBで揉まれた可能性もあるだろう(まだユースでプレーしていた可能性のほうが高いが)。

 あのリオネル・メッシやアンドレス・イニエスタも、16,17歳のときにバルサBで試合経験を経て、トップデビューを果たしている。

 バルサBは現在、2部リーグに所属している。リーグとしてのレベルは高く、1部の下位のチームと比べてもなんら遜色ない。1部リーグよりもコンタクトプレーが多く、パスがつながらない場面が多いだけに、「レベルが低い」と誤解を受ける。しかし、非常に高いインテンシティでプレーしているからこそ、ミスも出るのだ。

 どれだけレベルが高いのか。

 例えばモロッコ代表の正GKとしてロシアワールドカップに出場するムニルは、所属するヌマンシアでベンチを温めている。カメルーン代表正GKのオンドアも同じく、セビージャBではサブの状況が続く。各国代表のレギュラー選手であっても、ポジションは確約されていないのだ。

 そこにある競争は熾烈を極める。トップに昇格できる選手は、ほんの一握りしかいない。

交代を命じられ、ベンチで泣くバルサBのFW

 先日、行われていたU―17W杯でスペインの決勝進出に貢献したアベル・ルイス(17歳)というFWがいる。久保と同年代で、すでにバルサBでプレー。ジェラール・ロペス監督のお気に入りで、将来が嘱望される。

 しかし期待のルーキーも、少しの緩みも許されない。

 先日、バルサBはラージョ・バジェカーノと対戦している。アベル・ルイスは、自らのボールロストから敵の逆襲を食い、失点の契機を作ってしまった。結局、この失点でチームは敗れた。

 ミスをした後、アベル・ルイスは交代を余儀なくされている。慰めの言葉などかけられることはない。ユース年代であろうとも、ピッチに立った以上は、プロフェッショナルとしての責任が要求される。勝利に貢献できない選手はふるい落とされ、敗因を作った選手は糾弾される。それが当然の世界だ。

 ベンチに下がったアベル・ルイスは、悔しさから涙を流していた。本人が一番、ショックを受けている。トップに上がるような選手は、自分の立場に満足しないし、己に対する要求も高い。そのおかげで、力をつけていく。そしてしくじったら、容赦なく戦犯として裁かれることを弁えている。自分への怒りの涙だろう。

「厳しすぎる」という声があるかも知れない。

 しかし実力者だけが残るのが、プロの世界だ。

「チャンスをもぎ取るのか?」

「チャンスを与えられるのか?」

 はたして若手にとって、どちらが幸せなのだろう。若手にチャンスが与えられない環境は正しくない。しかし、若さを理由に与えられたチャンスは、のちのち消化不良を起こすことにはならないだろうか。誰かに餌を与えられていた動物は、やがて狩りができなくなる。

プロフェッショナルとして勝利に貢献する、という重要性

 先日、サガン鳥栖対FC東京というゲームで、平川怜がJ1デビューをはたしている。日本人クラブ史上最年少の17歳6ヶ月でのデビューだった。ボランチとして入り、敵味方も一目置くプレーを見せた。

 しかしながら、平川が交代で入る必然性は乏しかった。代わったピーター・ウタカの方が、リードされた局面では得点の可能性が高かっただろう。(交代したとき)チームはリードを許しており、敗れ去ったわけで、勝利よりも若い選手にチャンスを与える、というご褒美に見えてしまった。

「これはご褒美ではない」

 国内リーグでメッシをデビューさせたフランク・ライカールト監督が語った言葉は今も耳に張り付いている。ライカールト監督はチームを勝利させると同時(アウエーでエスパニョールを撃破)に、トレーニングやバルサBで結果を残していたメッシを用いていた。そしてメッシは勝利に貢献している。

「レオ(メッシ)は気を抜かず、プレーし続ける必要がある。競争に勝って、出場するにふさわしいプレーができるとき、またチャンスを与える。チームが勝利するためにね」

 ライカールト監督は淡々と言った。プロは学校ではない。結果が求められるのだ。

 たとえ要求は過酷であっても――。デビューしたとき実力を身につけられている方が、選手にとっては幸せかも知れない。

「ボールを持ったときは違いが出せる」

 久保に対するチーム内の評価はすこぶる高い。U―20W杯に飛び級で出場したポテンシャルは本物なのだろう。しかし、J3でも傑出したプレーでチームを牽引しているわけではない。

 久保はチームが勝つために必要な選手なのか?

 16歳であれ。その問いが突きつけられるべきだろう。さもなければ、せっかくの牙は抜け、爪は折れてしまう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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