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挫折の哲学「うまくいかない人生はなぜうまくいかなのか」あなたの人生を支配するもの

ひとみしょう哲学者・作家・心理コーチ

芥川龍之介は自殺の原因について、ただぼんやりした不安と書いています。なんかわからないけどなんか不安。そういった気持ちが自殺の原因だと――。わたしはなんか寂しいとは何かという問いのもつ真の意味を今でも追究しているので、彼のいうぼんやりした不安にとても興味があります。ぼんやりした不安となんか寂しいには通底するものがあるように思うからです。

ところで、新海誠監督の「秒速5センチメートル」という映画の主人公であるタカキは、高校生活においてぼんやりした不安といいましょうか、なんか寂しいという気分に支配されます。タカキのことを新海さんはそのようにキャラクター設定しています。初恋のアカリとの出来事によって永遠なるものに心を支配されたタカキは、なんか不安でなんか寂しくて、高校生活において恋人ができても心ここにあらず。恋人がコンビニで買い物をしている隙にガラケーに夢日記を書いたり、宇宙にロマンを見いだしたりして「今ここ」に気持ちが向かない。大人になっても仕事が長続きしない。恋人ともうまくやれない。つまり、タカキも芥川も共に、自分の意思を超えた何者かに人生を支配されており、何者かが何者なのかが分からない。期せずして、そういった非常にしんどい人生になった。

伊集院静さんの長編小説に『潮流』があります。弟が亡くなったり、妻が亡くなったり、すなわち運命としか言いようのない理不尽な出来事が次々に人生を襲ってくる。自分の意思でこうしようと決意してもまったくの無駄で、希望とは対極にある死に近い場所でしんどい思いをしつつ生きるしかない。死にたいと思って自暴自棄に生きるほかない。そんな様子が描かれています。

自分の意思とは裏腹に、何者かにしんどい場所に連れていかれ、生きづらい生活を余儀なくされる。しかもそれが1回だけでなく繰り返し起きる。弟の次は妻があの世に行くのか、といったふうにつらいことが繰り返される。そのことをキルケゴールは反復と呼びました。ジャック・ラカンはその反復を数式化しようと頑張った。なんらか論理構造がそこにあると直観したのでしょう。フロイトはそのことを死への欲動といいました。わたしは彼らの主張が直観的(直感的)に理解できます。したがって、その先を考えたいと思っています。すなわち、反復を生じさせているものは何かという問いについてずっと考えています。しかし答えはまだ得られていません。どんなに意思してもしんどい状況が繰り返される。それはいったい何が繰り返しているのか。よかったらあなたも考えてみてください。(ひとみしょう/哲学者)

哲学者・作家・心理コーチ

8歳から「なんか寂しいとは何か」について考えはじめる。独学で哲学することに限界を感じ、42歳で大学の哲学科に入学。キルケゴール哲学に出合い「なんか寂しいとは何か」という問いの答えを発見する。その結果、在学中に哲学エッセイ『自分を愛する方法』『希望を生みだす方法』(ともに玄文社)、小説『鈴虫』が出版された。46歳、特待生&首席で卒業。卒業後、中島義道先生主宰の「哲学塾カント」に入塾。キルケゴールなどの哲学を中島義道先生に、ジャック・ラカンとメルロー=ポンティの思想を福田肇先生に教わる(現在も教わっている)。いくつかの学会に所属。人見アカデミーと人見読解塾を主宰している。

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