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『水曜日のダウンタウン』「脱出企画」で話題の清春の歌い方、本人が取材で語った「正しく歌わない理由」

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:イメージマート)

「なんであんな歌い方しはんの?」

ダウンタウンの浜田雅功は、バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』の企画「清春の新曲、歌詞を全て書き起こせるまで脱出できない生活」(3月13日・20日放送/TBS系)にお笑いコンビ、きしたかのが挑戦しているVTRを見ながらこのように口にした。ちなみに後述するが、20日放送回は前週とほぼ同内容だった。

3月13日、20日の2週にわたって放送された「脱出企画」。その内容は、密室に閉じ込められたきしたかのの岸大将、高野正成が、放送時は発表前だったミュージシャンの清春の曲「霧」を聞いて、全歌詞を書き起こしていくというもの。二人は、清春のグッズを梱包する内職の代金と引き換えにヒントを得て、それを手がかりにしながら61時間かけて脱出に成功した。

2週連続でほぼ同内容を放送、ベッキーのコメントと今回の「脱出企画」の接点

まず触れておかなければならないのが3月20日放送回。同回は「今年度分の予算が底をついた」との理由で13日放送回がほぼ“再放送”された。

20日放送回の番組の最後には、前週放送回とは7か所の違いがあるとアナウンスされた。ただ、2週続けてほぼ同じ放送内容を観せることで、「脱出企画」で清春の曲を61時間も聞いたきしたかのの気分を視聴者にも体験させようという実験性も少なからずあったのではないだろうか。

また、同企画を観終わった出演者のベッキーが「こんなにみんな集中してテレビ観たことないんじゃないですか、全国民が」と感想を口にしていたが、13日放送回と20日の“再放送回”とでは、ベッキーのこのコメントは違った意味をもって聞こえた。たしかに視聴者はみんな「前週となにが違うのか」「なにか仕掛けがあるのではないか」と熱心に“再放送”を鑑賞したはず。ベッキーのコメントはそんな視聴者の心理をおもしろくイジるようなものになっていた。それとともに「清春の歌詞を何度も聞いて考えることで、聞き取り方が変化する」という、今回の企画の本質部分にも触れているように思えた。

清春も歌詞の聞き取りの難しさを自覚「絶対分かんないよね」

それにしてもなぜ清春の歌詞の聞き取りと書き起こしに61時間もかかったのか。それは、その曲の歌詞カードを見なければ清春がなんと歌っているのか分かりづらいからだ。

清春の歌い方は、アクセント、イントネーションなどのクセが強い。歌詞に出てくるワードもストレートに歌われることが少ない。たとえば「霧」に出てくる<景色>(※註1)というワードも“けなしき”に聞こえるなどする。そのため、きしたかのも“聞こえ方”から正規の歌詞を連想して書き起こさなければならなかった。ちなみに同番組ではかつて、清春が所属するバンド、SADS(活動休止中)の人気曲「忘却の空」のサビを一発で聞き取れる人は0人だとする企画も実施。その困難さはすでに明らかにされていた。

※註1:「霧」歌詞より引用(作詞・作曲:清春)

企画の途中では、きしたかのが得たヒントの一つとして清春本人が登場し、歌詞の書き起こしのコツをレクチャー。きしたかのが特に頭を悩ませていたサビの書き起こしについて「そこ難しいよね」「1番のサビのここは結構、絶対分かんないよね」と言い、VTRを見ていたニューヨークの屋敷裕政も「自覚あんねや」と驚きの声をあげた。

清春「黒夢のときからほとんど正確に歌ったことはない気がする」

それにしても浜田雅功が話したように、なぜ清春はそんな歌い方をするのか。

筆者は2019年秋、清春にインタビューをおこなった。同年8月、清春はバラエティ番組『ダウンタウンDX』(読売テレビ・日本テレビ系)に出演した際「歌詞を覚えない」と発言。「歌詞をきっちり歌うという概念がない」と理由を説明していた。以降、ネット検索で「清春」と打ち込むと、続く候補ワードに「歌詞」「覚えない」が出てくるようになった。インタビューではそのエピソードについて尋ねた。

ただ話を訊いたところ、意味合いとしては「歌詞を覚えない」という理由だけではなく、「歌詞を決められた通りちゃんと歌う意識がない」もありそうだ。

清春は筆者のインタビューで「20代前半で(所属していた)黒夢を始めてから今までずっと、ほとんど正確に歌ったことはない気がします。でも、自分で書いた歌詞だったら『それで良いかな』と思っています」とやはり自覚的にそう歌っていると語り、歌詞を覚えている曲でも正確に歌えるのは7割くらいで、覚えていない曲は一文字も頭に浮かばないとし、メロディを聞いたらとっさに歌詞が口から出るのだという。

むしろ清春が大切にしているのは、その場の感情から湧き上がる言葉。「今、なにを表現したいのか、どんなことを言いたいのか」であって、あらかじめ決められた言葉をそのまま歌うことではないと明かしていた。

そのため、たとえ歌詞を覚えていなかったとしても「そのとき自分が感じていることを歌っていいと思うんです。歌詞が分からなくなったら、思いついたことを歌ったり、あえて歌わずに空白を作ったり」という持論のもとでパフォーマンスし、「ファンの人にとっては、思い入れのあるフレーズがあるのにライブでそれを全部飛ばされたら『えっ』となるだろうけど、僕にはそれが決して重要ではない気がするんです」とコメントしてくれた。

そんな清春だからこそ、「なぜそんな歌い方をするのか」というクエスチョンに対するアンサーは、きっと「歌詞を正しく歌うことを重視していないから」であり、もっと踏み込めば「自分の感情によって言葉が変容するから」ではないだろうか。

きっちりしたものであればあるほど「自分本来の歌い方とかけ離れていく」

ちなみに清春は筆者の同インタビューのとき、音源のレコーディングは「もうやらなくてもいいかな」と考えることがあると話していた。その理由は、「ものを作る」という意味とは少し外れてきているから。

レコーディングでは、当たり前の作業として、歌詞を書き、スタジオにこもり、そして長い時間をかけてボーカルや演奏の録音と調整などをおこなっていく。ただ、その“当たり前”の作業に違和感が生じてきたと話していた。そして「この声はもはや素材でしかなく、あとで編集するために録っているんじゃないか」という疑念があり、音源としてきっちりしたものであればあるほど、自分本来の歌や歌い方とかけ離れていく気がすると話していた。

つまり今回の「脱出企画」のお題となった曲「霧」を象徴として、清春はレコーディング音源であっても、できるだけ自分にしかできない歌い方をより重要視するようになったのではないか。出演者の吉村崇(平成ノブシコブシ)が、清春がキャリアを重ねたことで自分の色が以前よりも出るようになったという意味で「煮詰めて味濃くなってる」とコメントしていたが、まさにその通りと言える。

あと、その時々に湧き出る感情が歌い方に乗るため本来の歌詞が変容するということは、聞き手もその曲をどのように受け取っても良いということだろう。その点で『水曜日のダウンタウン』の「脱出企画」は、清春の作る楽曲は、歌う側も、聞く側もいろんな解釈があって然るべきだという“音楽の自由さ”を感じさせるものだった。

※記事初出時に人名表記に誤りがありました、訂正の上お詫び申し上げます。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga. jp、リアルサウンド、SPICE、ぴあ、大阪芸大公式、集英社オンライン、gooランキング、KEPオンライン、みよか、マガジンサミット、TOKYO TREND NEWS、お笑いファンほか多数。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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