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コラボカフェと大量の食べ残し:注文客だけを一概には責められない複雑な事情とは

小新井涼アニメウォッチャー
(写真:イメージマート)

専門施設もできるなど、今や常にどこかで開催されているアニメやゲーム、キャラクターやVTuberといった様々なエンタメコンテンツとの“コラボカフェ”。

つい先週、そんなコラボカフェで起きた“ノベルティ目当ての大量食べ残し”が取り上げられ、広く物議を醸しました。

フードロス問題やSDGsにも注目があつまる現在、食べ物の大量キャンセルや飲食店でのドタキャンといった食品関連の迷惑行為も日々取り沙汰されています。

しかし今回の出来事については、大量に食べ残した客の迷惑行為についてではなく、どちらかというと、店と客どっちもどっちという声や、店側にも問題があるのでは、という指摘が多くみられたのです。

そこには、一概に注文客の行為だけを責めることはできない、コラボカフェというシステムそのものが抱える、複雑な事情が絡んでいました。

  • ※以下の言及には“高額転売目的での大量注文の場合”を含みません

■大量注文を余儀なくされるランダムノベルティ

コラボカフェには、内装やコラボメニューを通じて作品の世界観を体験するという楽しみもありますが、それらに加えて、コラボメニューについてくるノベルティや限定グッズの購入等を売りにしているコラボカフェも多くあります。

今回取り上げられたのも、まさにそのコラボメニュー1点につき1つノベルティがもらえるタイプの施策を行っているコラボカフェでの食べ残しでした。

この手の施策の何が大量注文と食べ残しに繋がるのかというと、コラボメニューについてくるノベルティには数種から十数種ほどの種類があり、それがランダムで配布されるという点。

つまりお目当てのノベルティがあっても、コラボメニューを1つ頼めばもらえるとは限らないため、巡り合わせによっては、それこそガチャのように、お目当てを引き当てるまでコラボメニューを注文し続ける必要があるのです。

しかしコラボフードも軽食からがっつりした食事メニューまで様々で、何度もおかわりしながら食べきるのは難しいですし、ドリンクも一人で飲み切れる数には限りがあります※1。

そのため、大量の食べ残しが生じてしまう今回のような事態が、少なからず生じてしまうのでしょう。

もちろん、それでも好きな作品とコラボしてくれた店に対して進んで迷惑行為をしたいファンは少ないので、友達を誘って食べるのを手伝ってもらったり、どうしても自引きできない場合は交換等で妥協する場合がほとんどです※2。

しかし、決して安くはないコラボメニュー1品に対して何種もノベルティを準備し、あまつさえそれをランダムで配布するというこのシステムには、これまで不満や疑問が募っていた人達も少なくなかったのだと思います。

そのため、自ら大量注文を誘発するシステムを採用しておいて、お金を払いグッズだけを受け取った客ばかりを責めることはできないのではないかという非難の声が、多く挙がったのではないでしょうか。

  1. これもあり、ファンの間ではコラボカフェでの食事がフードファイト/ドリンクファイトと呼ばれることもある
  2. そのため、今回のような出来事は、SNSへの写真投稿を目当てに購入した食品を捨てる行為とも論点が異なると思われる

■ファンも理解はしつつ納得が難しいグッズ化事情

ならばそのランダム配布自体を止めればいいのかというと、そう簡単でもありません。

そこには、ファンもある程度理解している、ランダム配布を完全に悪いとは言い切れない複雑なグッズ化事情も絡んでいます。

あらゆる作品のどのキャラにも遍くしてファンはいますが、ファンの母数には違いがあるため、グッズを生産する際に、他のキャラと同じ数だけ売れる見込みがないならば、遺憾ながらもそのキャラはグッズ化候補から外されてしまうこともあるでしょう。

そうした、ファンの多い少ないに左右されず、全てのキャラに一定の売上が見込めて、かつ普段グッズ化の機会が少ないキャラもラインナップに入ることが出来るのが、どのキャラがお目当ての人も、自分のお目当てが出るまで買ってくれるであろうランダム商法でもあるのです。

そのため今回も、多くのコラボカフェ利用者は“客の行為を一概には責められない”としつつも、だからといって、コラボしてくれた店の売り上げやグッズ化事情を考えると、店側が採用するシステムも完全に否定はしきれないという、複雑な心情があったと思います。

とはいえ、お目当ての人が多いキャラには高い“交換レート”が付いてしまったり、嫌いな訳ではないのにお目当て以外が出た時に“がっかり”してしまうことへの不満もあったりと、ファンにとってはしょうがないと理解はしつつも納得できない方法ではあるのでしょう。

■生まれ始めている解決策

こうした現状を受けて、ランダムだからこそ生じてしまう大量食べ残しの回避と、売り上げやなるべく平等なグッズ化を維持するための対策として、中には「スタッフさんにどうぞ」※1を採用するコラボカフェも出てきているそうです。

これは、ランダムノベルティ目当てに食べきれない数のコラボメニューを注文した際に、注文メニュー分の料金は払いつつも、料理やドリンクの提供だけ不要に(=「スタッフさんにどうぞ」)できるというシステム。

一見、正規の値段を払ってコラボメニューを食べずにグッズだけ手に入れることはコラボカフェに行ったのに本末転倒に思えるかもしれませんが、食べきれる分だけ食べ、お目当てのグッズも手に入れられて、店側に負担もかけなくて済むならば、店と客どちらにとっても悪いところがありません。

  1. 呼称は様々なようですが、今回は参照元の呼称を記載

これまでは“自分が食べないのにわざわざお金を払ってまでノベルティだけ手に入れたい人なんていないだろう”とも考えられていたのかもしれませんが、今回の出来事や、「スタッフさんにどうぞ」が成り立っていることからも分かる通り、そこを惜しまないファンは確かにいます。

コラボカフェが益々頻繁に行われるようになってきている現在、大量の食べ残し問題を伴うシステムの見直しや上記のような解決策の採用が、今後の急務となっていきそうです。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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