コロナ禍の面会制限で、減る体重・悪化する認知症 厚労省が高齢者施設の面会を「勧奨」へ
コロナ禍において、高齢者施設や医療機関で行われてきた面会制限は、全国的に緩和されつつあります。しかしその矢先、施設クラスターが発生し、取り組みに冷や水を浴びせる事例がみられます。厚労省の勧奨に対する現場の見解を書かせていただきます。
減る体重・悪化する認知症
高齢者施設・医療機関における新型コロナ第8波の猛威はすさまじかったことと、インフルエンザが現在流行期にあることから、現在も、面会者の人数・面会時間・濃厚接触者の面会などを厳格に制限している高齢者施設・医療機関がほとんどです。
しかし、日本認知症学会専門医を対象にしたアンケート調査では、面会制限によって認知機能の低下が起こるという回答が多くみられました(1)。
「うつ症状を発症する方が増加した」、「家族面会が中止となり、不安定になった」、「面会制限により不隠となることが多く、社会活動も制限され認知症が悪化している」などの意見もありました。
認知機能の低下によって食事摂取が減り、ひいては低栄養状態や虚弱(フレイル)に陥るリスクが指摘されています(図1)。コロナ禍初期の厳しい面会制限によって、2か月間で入所者全体の67%に体重減少がみられたという報告もあります(2)。
また、面会制限によって、本人以上に家族への影響があることも指摘されています(3)。直接自分の目で確認できないことから、家族の不安は増強します。
面会制限の緩和を勧奨
厚労省は1月31日、「高齢者施設等での面会の再開・推進を図ることは重要」と位置付けた上で、高齢者施設における面会の注意点などをまとめた動画やリーフレットを自治体に向けて通知しました(4)。
実質的に面会制限の緩和を勧奨する形となります。
面会者に感染症状がある場合には面会を控えてもらい、マスク着用や手洗い・手指消毒を心がけていただくことが重要です(図2)。面会時や面会前後には、換気をすることが大事です。気温が低いのでずっと開放していると大変ですから、空気清浄機も有効に活用するとよいでしょう。
避けたい施設クラスター
第8波の福祉施設および医療機関における新型コロナクラスターは、第7波と同水準まで増加しました(図3)。コロナ病棟への入院要請は、ほとんどが高齢者施設クラスター由来でした。新型コロナを積極的に受け入れている医療機関でも、クラスターによって通常医療が制限された施設が目立ちました。
高齢者は自覚症状が乏しく、異常の発見が遅れてしまうことから、いったん感染者が発生すると、施設クラスターにつながりやすくなります。また、感染性の高いオミクロン株が流行してからは、フロア内に感染が広がりやすくなっています。
面会制限を緩和したことがクラスターの引き金となった事例は、そこまで多くないと思いますが、コロナ禍初期のように感染経路を特定できないので、この検証は困難を極めます。
とはいえ、一律に面会制限を撤廃して「コロナ禍前と同じように」というわけにはいきません。施設クラスターのリスクはできるだけ低くする方向に、舵取りする責務があります。
まとめ
今後「5類感染症」になっていく中で、さまざまな制限の緩和と、新型コロナのクラスター発生リスクを天秤にかけながら、施設ごとに引き算していく作業が必要になります。
マスク着用などの日常生活でさえも世論が割れている中、高齢者施設や医療機関の対応は悩ましい局面に入ります。
施設ごとに大きな差が生まれないよう、できるだけ足並みをそろえたいところですね。
(参考)
(1) Niimi Y, et al. Dementia Japan. 2021; 35: 73-85.
(2) Danilovich MK, et al. J Am Med Dir Assoc. 2020; 21(11): 1568-1569.
(3) 杉山智子, 他. 医療看護研究. 2021; 18(1): 32-42.
(4) 高齢者施設における面会の実施に関する取組について(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index_00014.html)
(5) データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-(URL:https://covid19.mhlw.go.jp/)