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アイスランド女性たちのストライキ成功の背景に徹底した情報周知と連帯の呼びかけ

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
ジェンダー平等指数1位の国で、首相もこの日は仕事を休んだ(提供:ロイター/アフロ)

「女性の休日」(Kvennafrí、英語で the Women’s Day Off)という平等賃金を求める女性たちのストライキが最初に決行されたのは1975年10月24日だ。世界的な注目を集めたイベントは1985年、2005年、2010年、2016年、2018年にも繰り返された。

世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数ランキングではアイスランドは14年連続で1位を記録している。同調査では完全な平等を達成した国はないが、アイスランドは男女格差の90%以上を解消した唯一の国だ。

2018年以降、アイスランドでは従業員25人以上の企業に、同一賃金を支払っていることを示す法的義務が課せられた。ほかにも25%以上雇用されている親には、男女ともに同じ育児休暇を取得する権利があり、それぞれ6か月間、給与の80%が支給される。

法制度による「男女平等賃金法」は世界的にも有名な事例だが、2023年10月24日、アイスランドで7度目となる「女性の休日」ストライキが起きた。

カトリン・ヤコブスドッティル首相も参加したことで、日本を始め世界中で大きく報道された。

主催者側によると全国19か所でストライキが開催され、首都レイキャビクの集会には10万人が参加した。人口38万人の国では奇跡的な参加者数だ。

「握りしめた拳」が運動のマーク
「握りしめた拳」が運動のマーク提供:ロイター/アフロ

「制度化された賃金差別はいまだに女性に影響を及ぼしている。少なくとも40%の女性が、生涯のうちにジェンダーに基づく暴力や性的暴力を経験している。ジェンダーに基づく暴力は根絶しなければならないパンデミックだ。私たちはもう行動を待つことはできません」と、主催者側が呼びかけた。

お弁当の準備、子どもの歯医者の予約。全ての労働を禁止

このストライキ参加の連帯を呼びかけられたのは、企業で働き給料をもらう女性だけではない。男女の概念に自分が当てはまらないというノンバイナリーの人々、移民女性の人々にも呼びかけが行われた。フェミニズム運動は、過去、意識的でいないと「白人女性という特権」を持つ女性の運動だけになりがちだった。

移民女性の貢献は計り知れない

「アイスランドの労働市場における女性の約22%は移民女性。彼女たちのアイスランド社会への貢献は計り知れませんが、悲しいことに、その重要性が認められることも、彼女たちの受け取る賃金に反映されることもほとんどありません」と、移民女性への連帯も大々的に表明。アイスランド語がわからない移民の女性にも届くように英語やポーランド語での情報周知も徹底された。

「この日、女性は出勤しません。例えば、朝食やお弁当の準備、親戚の誕生日を覚えていること、義母へのプレゼント購入、子どもの歯医者の予約など。この日は夫、父親、兄弟、叔父たちに家族や家に関連する責任を担ってもらいましょう」

この内容に筆者は拍手を送りたい。女性たちが担ってきた労働に、「やることリストを覚えておくこと」「家族や親せきへの気遣い」「家族の食事」など、見過ごされがちな女性の無償労働も「しなくていいのだ」と強調されている。

集会に参加できない場合は、ハッシュタグ #kvennaverkfallで連帯表明も呼び掛けられた。

「労働せずに参加しても大丈夫なの?」と企業からの反応を心配する市民に対しても、「歴史的に雇用主はこの日に女性をサポートし、少なくとも参加を妨げたりはしません。ストライキ参加を妨げる雇用主がいたら、こちらまで匿名で報告してください」など、不安が解消されるように・「不安をひとりで抱え込まないように」丁寧な情報周知がされた。

男性にはストライキ参加をするよりも、女性やノンバイナリーの同僚たちがストライキ参加できるように、仕事やシフトを引き受けるなど、職場や家庭で女性たちが背負っていた責任を代わりにすることで、連帯を示すことが期待された。

「どうして自分の子どもの世話をこの日にしてはだめなの?」という質問に対しては、「もちろん、あなたが望むことをしてください。私たちはただ、社会に立ち止まり、女性の社会貢献に気づいてほしいのです。家事の大半を担っているのは誰か。仕事を整理・覚え・分配するという精神的負担を担っているのは誰か。女性は、男性よりもはるかに多くの無報酬の仕事をしています」と「よくある質問」でさまざまな問いに答えている。

ノルウェーに住む筆者がこの日にFacebookを開くと、アイスランドで女性たちのストライキ写真が何枚も掲載されていた。これまで取材してきた女性や女性政治家たちが積極的に投稿しており、「アイスランドで何かが起きている」ことを遠くの国でもひしひしと感じた。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在16年目。ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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