Yahoo!ニュース

ブルージェイズの菊池雄星に聞いた。メジャーの現代的なコーチング体制とは?

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ブルージェイズの菊池雄星は8月8日の試合前までに9勝を挙げる活躍で、特に6月20日以降は、3勝1敗、防御率2・64と安定した投球を続けている。

 昨オフに取り組んだフォームの修正と日本とメジャーで積み上げた経験が結果につながっており、その土台の上に、今シーズンから投げ始めたカーブが効果的に使えていることが大きい。カーブを取り入れたきっかけは、チームの首脳陣にすすめられたからだ。

 菊池の話には時々、チームからの提案を意味する言葉が出てくる。昨年の負傷者リスト明けで勝利したときも「ILに入っている間に本当にチームのコーチやスタッフのみなさんがどうやったらよくなるかをすごく一生懸命考えてくれたので、みんなでつかみ取った1勝だと思います」とした。昨オフのフォーム修正についても「ブルペン入ったら動画をくださいと言われたので12月の頭からブルペンに入って逐一動画を送ってみんなと共有しながらはやっていた」と話した。

 投手コーチからの提案を受け入れるかどうかは、最終的に投手自身が判断する。しかし、コーチ陣やデータを分析するスタッフらは、なぜ、そうしたほうがよいかをデータも使いながら、説明し、選手の判断を助けている。

 私が菊池に「そういった話は、スタッフとのカンファレンスの形で行われているのか。データによるプレゼンテーションはどのような感じなのか」と質問すると、次のような話をしてくれた。

 ピッチングコーチは3人いて、それぞれの強みを生かしたコーチングをしているという。ブルージェイズの投手コーチは、ピート・ウォーカー投手コーチ、ジェフ・ウェアアシスタント投手コーチ(ブルペン担当)、デービッド・ハウエルアシスタント投手コーチ(戦略担当)の3人である。

 「ピート(ウォーカー投手コーチ)は目(肉眼)を使うタイプです。デービッド(ハウエルアシスタント投手コーチ)はドライブラインにいたことがあり、数字の知識を持っていて、握りをもう少しこうしたら、こう変化するよ、とか。そのときの自分の状況にあわせて、どのコーチに聞くかを変えています。彼らも自覚しているので、“そのことだったらピートに聞いたほうがいい”とか、“それはデービッドに聞いて”というふうにしてやっている」

 そしてこう続けた。

 「それはこのチームだけではないと思います。僕はこことシアトル(マリナーズ)しか知らないけれど、それぞれのエキスパートが”餅は餅屋“でやっているというのが選手にとってはすごく大きい。この国らしいなと思います。この3人のほかに、ストレングスコーチや、メンタルコーチが(話し合いに)入ることもあります」

 ただし、このように多くのデータや情報が得られる時代だからこそ、選手にも情報をうまく料理していく力が求められているとも言う。

 ブルージェイズの先発右腕ガウスマンにも、投手コーチの役割について聞いてみた。

 「3人の投手コーチにはそれぞれ違った強みがある。ピート(ウォーカー投手コーチ)は、経験が豊富で選手のフォームやちょっとした修正の見極めができる。彼は、ピッチャーの頭のてっぺんから足のつま先までの全てを見ることができる」。

 ア・リーグ東地区首位を走り、藤浪が在籍するオリオールズも、ブルージェイズと同様に投手コーチは3人体制をしいている。オリオールズもデータの活用が得意といわれているが、それだけに頼っているわけではない。ホルト投手コーチは「テクノロジーと通常のスカウティングによって各投手のベストを考える」と話した。

 スポーツ界もデータ全盛時代で、そのデータを適切に分析し、うまく使えるコーチが首脳陣に加わるようになった。しかし、カメラがとらえきれないもの、数値化できない部分も多くあり、見る力、感じる力に優れた従来からのコーチングの価値が低くなったわけではない。

  ウォーカー投手コーチは「我々は、ひとりの投手を分解して見るが、誰か一人の考えだけが欲しいわけではない。誰かが強い意見を持っているかもしれないが、それでも投手にとって最善のことをするために常に協力し合うようにしている。分析的な観点からも、フォームの観点からも、ゲームプレイの観点からも。主に発言するコーチはいるが、協力しあっている。他の球団も似たようなものだと思う」と話した。

 それぞれの専門知識、プロの技を持ったコーチたちが、ときには意見がわかれても、選手のパフォーマンス向上のために協力できる職場環境にあるかもチーム作りのひとつのポイントになっているといえるのではないか。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

谷口輝世子の最近の記事