ブースターを切り離す都市広域防空兵器「ダビデスリング」
12月15日、イスラエル国防省は防空システム「ダビデスリング(ダビデの投石器)」の試験をアメリカと共に実施して成功したことを発表しました。
これは「アイアンドーム」と同じくカウンターRAMと呼ばれる対迫撃砲弾・ロケット弾迎撃システムです。ダビデスリングはアイアンドームより広い防護範囲を担当し、主目標の迫撃砲弾・ロケット弾だけでなく、短距離弾道ミサイルや巡航ミサイル、無人機なども迎撃可能です。今回は巡航ミサイル迎撃能力を強化した新バージョンが試験されました。
ブースターを切り離す2段式とした理由
ダビデスリングは通常の迎撃ミサイルとしては中サイズの大きさですが、カウンターRAMとしては異例に大きく、広い都市部を迫撃砲弾・ロケット弾から守る役割を担っています。しかし目標が速く小さいので高機動を発揮する必要があり、同時に長い射程も要求された結果が、推進部分を2段式にすることでした。これでブースターで射程を稼いで切り離した後は小型高機動の迎撃ミサイルとなります。弾頭は目標を確実に破壊すべく直撃方式です。
当然、代償として切り離したブースターは都市部の何処かに落ちてきます。それでも炸薬の詰まった敵の大型ロケット弾が着弾するよりはマシであるという現実的な判断をイスラエルは下しました。
これは日本のイージスアショア配備見直しでブースター落下問題が表向きの原因とされたことと対比すると、常に戦時下のイスラエルと平和に慣れた日本との考え方の差になるのでしょう。イスラエルは滅多に飛んで来ない核弾頭付き弾道ミサイルではなく頻繁に飛んで来る通常弾頭ロケット弾を相手にした防空システムでさえ、迎撃ミサイルのブースター落下など大した問題ではないとしたのです。
なおダビデスリングには別名が他に幾つもあり(迎撃ミサイルは「スタンナー」と呼称)、イスラエルではマジックワンド(魔法の杖)のヘブライ語「シャルビットクサミーム」と呼ばれています。
ミサイル発射機とレーダーの遠隔設置
今回の試験ではダビデスリングの発射機を洋上の貨物船に設置し、レーダーは地上に置いたリモート射撃が行われています。
これは別にブースター落下問題を解決する目的ではなく、国土の狭いイスラエルで迎撃試験を行う際に空域の確保が難しいので洋上を活用しようとした結果です。標的ミサイルも射程が長いものは戦闘機に搭載した空中発射方式で、地上の試験場の狭さに対応しています。
それでも実験で可能だったならば、実戦でも同じことが可能だということです。民間船に搭載すると敵の攻撃に脆弱になる問題はありますが、前線ではなく比較的安全な後方に置くならば解決できます。
日本のイージスアショア配備見直しで理由がブースター落下問題だけであるというなら、このように発射機のみ海上か沿岸に設置して遠隔操作による射撃を行えばブースターは海に落として解決する筈でしたが、この方法は配備見直しの検討で早期に放棄されています。イスラエルの迎撃試験の様子を見ていると、日本ではリモート方式が何故駄目だったのかと思えて来ます。
※米大使館アカウントよりダビデスリング迎撃試験の動画
【参考】ダビデスリング迎撃試験に初成功(2012年11月27日)
筆者の外部ブログ記事。ダビデスリングのシーカー構造の推定。