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プレーオフ決勝へ。ワイルドナイツはサンゴリアスをどう倒す?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
写真右がマッケンジー。ゴールキックを蹴る際に微笑む。(写真:つのだよしお/アフロ)

 国内ラグビーリーグワンのプレーオフ決勝が5月29日、国立競技場である。昨季、前身のトップリーグの決勝でもぶつかった埼玉パナソニックワイルドナイツ(ワイルドナイツ)と東京サントリーサンゴリアス(サンゴリアス)が対戦。本欄では2週にわたり、両軍の特徴と「攻略法」を、取材成果をもとに考察する(ワイルドナイツ編はこちら)。

 サンゴリアスは「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」をモットーとする。採用する攻撃陣形こそその時々で異なるものの、接点から素早く球を裁けて、かつ一度の攻めで複数の選択肢を保てる状況を作るのは長らく変わらない。

「スピードと組織の連動性で生まれるモメンタム(勢い)。それをどう生むかがサンゴリアスの肝です」

 この旨で語るのは、早稲田大学などで指導に携わる後藤翔太さん。5月19日、日本経済新聞社のイベントで、プレーオフ出場チームの特徴について映像を交えて解説している。

 なおサンゴリアスについては、インサイドセンターの中村亮土主将が目の前に迫る防御の動きを見てプレーを選ぶさまにも触れる。「いい選手の条件は、いつでも後出しじゃんけんができる(かどうか)」。圧力を受けるなかでも「重心を足」に据えられる選手が、その条件を満たせるとも。

 実際に、サンゴリアスはかような資質を持ちうる選手の採用に注力しているような。国内外の大物を集める強化方針も、不変の哲学と溶け合うからこそ「トップリーグ優勝5回=最多タイ」の成果につながる。

 ちなみにこのクラブがアグレッシブ・アタッキング・ラグビーと最初に唱えたのは2010年。当時監督になったばかりのエディー・ジョーンズ氏が「私が去ってからも残るスタイルを作ります」と訴求したのだ。

 ジョーンズ氏は日本代表を経てイングランド代表を指揮するようになったいまも、ラグビー・オブ・ディレクターの肩書で定期的にチームへ訪れている。

 今年3月頃も、都内の本拠地でトレーニングを指導したとのこと。ホワイトボードに名前の書かれた若手は、全体練習後にタフさで鳴らす「エディー練」が課されたようだ。

攻略の鍵1 「リサイクル」を絶つ

 サンゴリアスが直近で敗れたのは、東芝ブレイブルーパス東京との第15節だ。

 雨天下、3―27とノートライに抑えられた。鋭い出足の防御を前にミスを犯したが、何より起点の接点で圧をかけられていた。

 リサイクルと呼ばれる接点からの球出しの速さがサンゴリアスの攻めを支えているのだとしたら、その支点に圧をかけるのは勝負の常道になりそうだ。

 ワイルドナイツも直接対決時、リサイクルへのアプローチでピンチを防いでいる。

 20-17とワイルドナイツ3点リードで迎えた前半終了間際。自陣の接点にフランカーのラクラン・ボーシェーらが絡み、その間に青い防御網ができる。飛び出す。それをいなされても、カバー防御と接点への絡みの合わせ技で難を逃れる。改めて、一枚岩のラインを敷く。

 またもタックル、ジャッカルのワンセットでサンゴリアスのリサイクルを制限。最後はやはり、フランカーのベン・ガンターが絡んで攻撃を終わらせた。

 詳細は別項に譲るが、ワイルドナイツは防御が得意だ。相手のアタックのリサイクルを絶つ動きは「相手への対応」と言うより「自分たちのラグビー」の領域の範疇と言える。

 裏を返せばサンゴリアスは、生命線のリサイクルスピードを保つためにはハードワークせねばならない。

 接点への援護役が、ワイルドナイツのジャッカル(接点で球に絡む動き)を防いだり、タックラーの起立を防いだり。かような献身は最終的にスペースを切り裂くための必須項目であり、そのままワイルドナイツ編の「攻略の鍵2」にも昇華される。

攻略の鍵2 タレントを抑える

 沢木敬介。2016年度からの3シーズン、サンゴリアスを率いて2度の優勝を果たした緊張感の人は、今季、横浜キヤノンイーグルスを率いて3月27日に古巣と戦っている。

 向こうのお株を奪うようにスペースを攻略して後半30分過ぎまで27―28と応戦。最後は27―40と敗れながら、プレーオフで再戦する可能性を見越してこのように述べる。

「どうやって(相手の)強みを出さないようにするか、というのは、イメージがあります」

 前半33分だ。サンゴリアスの中村主将は敵陣10メートル線付近右からキックパスを放ち、左端にいたウイングのテビタ・リーに繋げる。リーはタックラーを蹴散らし、約30メートルを駆け抜けた。

 沢木はプレーオフに進んで再戦した場合(結果は12チーム中6位)を想定し、こう話していた。

「システムがああだの、こうだのではなくて、1対1のところで、個人の強さで(点を)取られている。そこは、(次回対戦時は)うまいこと対応できる。彼らの前にいいタックラーを置かなきゃいけないです」

 サンゴリアスは、組織性を保つ上に問答無用の突破役も並べる。

 リー(昨季トップリーグでトライ王)、ナンバーエイトのテビタ・タタフ(日本代表9キャップ)、アウトサイドセンターのサム・ケレビ(オーストラリア代表38キャップ)は、組織防御や戦術論を無慈悲に蹴散らす。

 この3名より小柄なフルバックのダミアン・マッケンジー(ニュージーランド代表40キャップ)もまた、この隊列に収まるだろう。技能と加速力でわずかな隙間をえぐるからだ。

 ワイルドナイツも同じ認識でいよう。フッカーの堀江翔太が取材で述べる。

――サンゴリアスは、ワイルドナイツをどう崩しに来ると予想されますか。

「1対1の場面を作って、個人が抜きに来るということは、してくるだろうなと思っています。そこは何とか、チームで止めたいなと思っています」

 本番直前の練習では、「タタフいるよ! タタフいるよ!」と向こうのキーマンを意識しながら、防御の連携を合わせていた。「組織対組織」の論理が成立しなくなる可能性を、限りなくゼロにしたいところか。堀江は続ける。

「個人でタックルしなければならない部分はある。個人でも責任もって止める場面は絶対にある。ただ、そういう場面をできるだけ少なくしていきたいとは思いますね。周りからのコミュニケーションで、個人のタックルがしやすい環境を作れるようにしています。『あん時の立ち位置は…』『ノミネート(マークする相手の確認)は…』とグラウンド外で喋って、伝え合って、それをグラウンド内でも(瞬時に)できるようにするという感じです」

 ワイルドナイツにとってのかねての矜持の源である組織防御、個々のタックルの質が、そのままサンゴリアス対策と符合しうるのだろうか。

攻略の鍵3 我慢比べ

 サンゴリアスのよさには、我慢強さも挙げられる。

 リコーブラックラムズ東京との第4節では、ウイルス禍とあってかメンバーを十分に揃えられなかったうえに前半35分にタタフがレッドカードで退場。それでもじっくりと球を保持し、守勢に回ってもケレビらが相手に刺さっては起き上がった。複数の選手が「負けていいという空気はなかった」と口を揃えた通り、36―33で勝った。

 4強入りするスピアーズとの第9節でも、マッケンジーをイエローカードで欠いていた後半開始からの10分間で無失点。タックルの後は迅速に起き上がり、接点に入る人数を最小化した。

 終盤に不用意な反則があったこともあり33―29と辛勝したものの、中村主将はこうだ。

「スコア(による印象)より余裕があった」

かたやワイルドナイツもまた、サンゴリアスとは異なる意味で我慢比べに強い。

詳細は別項に譲るが、豪華なリザーブ陣の投入により戦術の再現率を試合終盤まで担保。イーグルスの田村優主将が24—33と逆転で敗れた際、「言ってみれば、パナソニックさんは、何もしていない」と話したのは印象的だった。

サンゴリアスが崩れそうな時もあまり崩れないのに対し、ワイルドナイツはそう崩れそうにない状態を最後の最後まで保つ。

 当日、そんな両軍の資質は現象のそこかしこに滲みそうだ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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