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J1に先立ち27日に再開。レノファ山口から見るJ2の楽しみ方(霜田正浩監督特別インタビュー)

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

新型コロナウイルス禍による長い中断期間を終えて6月27日、J1に先立ちJ3開幕と共に再開するJ2。俗に「J2沼」とも呼ばれるコアなJ2のファンやJ2クラブのサポーターのみならず、日頃はもっぱらJ1を現場や映像で楽しんでいるサッカーファンも、この日はJ2に注目するはず。

J2の面白さ、注目ポイントを探るべくレノファ山口の霜田正浩監督に特別インタビューをお願いしました。国内外のクラブで指導を経験し、JFAの技術委員長としてハビエル・アギーレやヴァイッド・ハリルホジッチを支えた霜田監督が就任3年目を迎えるレノファ山口。幕末の英傑である吉田松陰の言葉にちなんだ「GO CRAZY 昇格へ狂いたまえ」というスローガンを掲げいます。

開幕戦では昇格のライバルとなる強豪の京都サンガにホームで幸先よく勝利しましたが、新型コロナウイルスの影響によりJリーグが中断。全国一斉の緊急事態宣言により活動休止を強いられましたが、練習参加していた現役大学生の梅木翼(福岡大)、橋本健人(慶應義塾大)の加入が内定し、特別指定としてチームに迎え入れました。さらにアカデミーから7人の選手を二種登録、新加入の選手にチーム戦術をさらに理解させるなど、プレーオフがなくなり2枠しか無くなった昇格争いに向け、精力的に準備を進めているようです。

霜田監督の言葉を通してレノファ山口のコンセプトを探り、気鋭の有馬賢二監督が率いるファジアーノ岡山との再開初戦を含めた今シーズンの戦いを展望しながらJ2の見どころを探りました。

中断期間にみんながやるべきサッカーを整理した

ーーJ2がJ1より先に再開することで、普段J1をメインに観ているサッカーファンや現場でもっぱら応援クラブの試合を観ているファンサポーターだけじゃなくて、おそらく多くのファンがいろんな試合を観るだろうなということで、レノファ山口を参考にJ2の楽しみ方を探りたいと思います。開幕戦で1試合はやって、感触だったりいろいろあっての中断期間で、そこからどういう風に再開に向けて持っていますか?

開幕戦の前にプレシーズンでタイキャンプに行ったり、山口で練習していたり、開幕に向けてやろうとしたことが、京都戦ではできたこともあるし、できなかった、まだまだ志半ばだなというところもありました。開幕戦で勝ち点3を取れたことは非常に良かったけれども、僕らが求めているところの半分ぐらいしかできなかったなと。この中断期間で良かったのはみんなが一度整理するというのと、再開したらどういうサッカーをやるのか具体的なイメージを持たせながら過ごしてきたので、今はだいぶピッチの中でも表せるようになってきたかなという感じはしています。

ーープレーオフがなくなることで開幕前からレノファが掲げていた「昇格へ狂いたまえ」というスローガンのハードルが上がったというか。もともと自動昇格を狙っていたと思いますけど、リスタートから勝負がよりシビアになって行くと予想しています。もともと霜田監督の中ではプレーオフを意識していなかったかもしれないですけど、ただ、あらためて二つの昇格枠に入るために必要なことをどう捉えていますか?

去年と一昨年の2シーズンを戦って、昇格できたチーム、できなかったチームを色々と分析すると、やっぱり波はどこのチームにもあるんだけど、今年は1年かけて波を作るチームが半年で全部やらないといけないとなったので、波を少なくできるチームが上に行くんだろうなと見ています。それは選手層やクラブ力、ベテランの力など、いろんな総合力が問われるシーズンだとは皆さんも思っているだろうけど、予想以上に波ができちゃうチームが多くなると思っています。順当に見れば予算の差がそのまま表れるとか、J2はそういうところがあるので、僕らの付け入る隙はそこかな、と。

ーーなるほど。

15位、16位ぐらいの予算規模の僕らがトップ2に入ろうと思ったら、やっぱり何か特別なことをやらないと難しいと思っています。僕らが特別なことをやって上に行くのと、特別なシーズンなので、本当は強いところが少し躓いてくれるとか。ちょっとコンディションを崩すとか、波に乗れないとか、勝ったり負けたりが多く出てくるシーズンだと思います。普段のリーグとは違った状況で、それで走っちゃうチームもあるかもしれないし、本来なら走れるチームが走れないとかも出てくると思うので、逆に僕らは虎視淡々というか、プレーオフ5位、6位に何とか入りたいね、入ったことないクラブだからまずはそこに行きたいねと思っていた部分もあるかもしれないけど、それが無くなったことではっきりするシーズンになると思うんですよね。上に行くか行かないか。そういう意味では本当に目の前の勝負で勝ち点3を取るか、0を1にするかという積み重ねができるチームが最後は上に行くと思います。僕らがすごく良い試合がたくさんできるだけではなくて、他がそんなにたくさん良い試合ができないという可能性もあるイレギュラーなシーズンなので、ちゃんとその隙を付けるかが、僕らが狙っているところです。

レギュラー11人を決めない

ーーそのためには準備が大事で、僕も中断期間に若手のスペシャルトレーニングみたいな練習を観せてもらいましたけど、いざシーズンが始まった時にアクシデントや主力の不調も含めて、どういうケアをしながら戦っていくという見通しは?

僕らの選手編成を見ると、スーパーな子はいないんですよね。でも僕は2チーム分を作るというのを考えていて、開幕戦が終わって中断期間になった時からこういう過密日程、過密スケジュールは予想できたので、ダブルスタンバイしておく。その中で競争させたり、組み合わせを考えたり。そうすると誰かが怪我した、誰かが累積だとか、いちいち気にしなくて済む。そうなった時には自動的にこの選手がパッと入るとか、その選手がレギュラーとやったことないということなく、この選手とやるんだというのをずっと積み重ねてきているので、開幕して中断して、いつ再開できるかわからないってなった時に準備しないといけないなと思ったのは「レギュラー11人を決めない」ということでした。

ーー戦術的な設計がレノファ の場合は明確なので、そこに向けて複数のポジションができる選手はトレーニングからどういう関わりかた、配分で意識させながらバランスをとっていますか?

もう練習のメニューが、ほぼ試合で起こる場面を取り出したものが多いので。例えばボールがこの位置の場合の練習をするぞとなった時に、このポジションをやる可能性があるという選手みんなにやらせてます。うちは3トップだけど、右と左の両方をやれる選手が多いしね。中盤の三角形がどっちになってもやるぞとか。ボランチの一人がセンターバックの間に下りて3バック作るぞとか、そういう状況もきっと出てくるので。戦術上、ある程度は選手たちに任せるところとチームの約束事として決めていることがあるので、チームの約束事をやる場合はこのポジションでもやるぞというのは普段の練習の中から言っています。

ーーちょっと前にFC東京の長谷川健太さんのインタビューがあった時に、基本的に今は3トップを継続して、やれていること、まだやれてないことを確認しながらやっていて、でもシーズンを考えるとやっぱりオプションも必要なので、どういう形か分からないけど、バリエーションも入れて行きたいと言っていました。霜田監督のレノファも3トップをベースにやってますけど、引き出しは色々あると思うので、オプションの入れ具合をどのあたりまでイメージしていますか?

正直いうと自分の4ー3ー3へのこだわりはずっとあって、でも1年目の途中から3バックにしたり、去年もなかなか勝ち星に恵まれないなという時に何か変えなきゃなと思って、基本的にやりたいこと、戦術設計は変えないまま選手の立ち位置として4ー3ー3から3ー4ー3にしたりとかいうのは去年もやりました。ある程度、自分の中ではいくつかのシステムに立ち位置を変えてもやりたいことはやれるようにはなってきたかなと思っているので、それに関してはポジティブで、新たなシステムに挑戦するという感じではないです。

勝負の鍵を握る3つの優位性とは

ーー日本代表の森保一監督にも聞いたことがあるんですけど、いわゆるフォーメーションをはっきり変えるような立ち位置とは別に、ヨーロッパでもポジショナルプレーというか、アーセナルとマンチェスター・シティの試合を観ていても、絶え間なくポジションの奪い合いみたいなことをしています。4ー3ー3の中で相手の動き、ポジションに応じて変えられる部分を作る。レノファ のやっていることは明確だと思いますけど、明確な中にも相手から優位性を取るためのポジショニングは3年目になってどのぐらい進んでいますか?

この中断期間の練習でそこばっかり強調しています。相手が4ー4ー2の時、3ー4ー3の時、4ー3ー3だった時などで、相手のシステムが変わっても、僕らのやり方は変えないで、どうやってギャップを作って、フリーになって受ける、どこで数的優位を作る、誰が1対1で勝負するという基本的な3つの優位性をJ2のどんなチームを相手にも保とうというサッカーをやりたいと思っています。最終的には1対1を剥がせるかどうかはその選手のクオリティにかかってきますけど、少なくともチームとしてそこまで持っていくというやり方をずっとやってきているので、ちょっとずつ選手が理解してきてくれている手応えはあります。

ーーそこに関連して、ヨーロッパの主要リーグだと「ラップトップ監督」みたいに言われる指導者も増えていて、例えば試合に向けた戦術設計をして臨みます、でも相手が試合中に変えてきた、立ち位置で優位に立たれたという時に、15分ごとのデータやヒートマップが来て、じゃあ選手にこう指示しようとかを同時進行でやったりもしているようです。霜田監督の中では試合前の設計、試合中の指示、選手の判断という3つのバランスをどう置いてますか?

まず戦術の制度設計をして試合に臨んで、開始3分ぐらいで相手チームのシステムがわかる。準備の段階からきっとこうやってくるだろうなという予測があって、でも実際に試合にならないと分からないので、試合が始まった時に、やっぱり練習してきた通りだなとか、予測した通りだなとなった時にはまず自分たちから仕掛けて行く意識はしています。それで僕らがAを出すと向こうはBを出してくるので、僕らがAを出し、向こうがBを出した時点で、こっちはCを出すぞと。どっちかというとAとCをセットに考えていて、Cを出すところまでは選手たちにも前もって準備させておきます。だけど、うちがAを出した時に向こうがBじゃなくてとんでもないものを出してくることがある。そういう時はもう試合の終盤とかなら選手が判断しちゃっていいぞという話をしているので、僕らの予想通りに進めば選手に指示を与え続けないといけないと思っているけど、その通りに行かないとか、スクランブルが起きちゃう、ごちゃごちゃになったら僕よりも選手の判断を優先した方がいいなという時は遠慮なく、自分たちでシステムを変えてもいいぞって話はしてます。京都戦も最後の10分、15分は守り切れるってみんなで決めていたみたいなので、それはそれで良かったかなと思います。

ーー5人交代できるようになったことで選択肢が広がったというのはどうでしょう。ただ、プレミアリーグだとベンチ入りメンバーも7人から9人に増えている一方で、Jリーグは7人のままということで、怪我のリスクとかバランスも考えてベンチメンバーを考える上で、毎試合5枚使い切るというのも逆に難しいかもしれないですが、去年の試合でもハーフタイムに二枚替えをして、ビハインドから勝ち点を取った試合も見られたので、霜田監督も思い切ってできるかなと。

僕はどっちかというと交代が早い方なので。前半で替えちゃうことも、ハーフタイムで替えちゃうこともあるし、試合の終了間際まで1枠余らせておくことがほとんどなかったので。もちろん最後の最後で、怪我人がでてシティとアーセナルみたいに10対10になっちゃうとかね、そういう状況もあるので慎重にやらないといけないですけど、その慎重枠は最後の1枚でいいかなと。それができる分だけ、今まで以上に思い切ってやりたいと思います。

ーーその辺のバリエーションを考えても、チームの総合力が問われますよね。

逆に選手も試合に出るチャンスが今まで以上に増えるので、最初から出る選手は試合を作る、途中から出る選手は試合を決めろ、とずっと言っています。途中からでた選手が5人いれば、5人の中で2人でも3人でも試合を決める選手になってくれればいいなと思っています。

岡山は手本にしないといけないクラブ

ーー再開試合はファジアーノ岡山になりますけど、自分も昇格の有力候補として注目している1つです。有馬賢二監督が掲げているコンセプトが霜田監督とも共通するところがあって、例えば攻守のコレクティブとか、選手の競争を重視しているようです。昨シーズンはいいところまで行きながら最後の最後でプレーオフを逃して、今シーズンにかける意気込みもコメントなどから感じます。開幕戦を1−0で勝ったことも共通していて、次の試合で勢いづいて行くかはファジアーノも昇格候補の一角だと思うので、J2全体の中でもすごく注目しています。

岡山というクラブ自体がやはり山口よりも1つ前に進んでいて、予算も規模も観客数も、歴史も結果も全て今のところ山口より先に行っているクラブだと思います。やっぱり僕らが手本にしないといけないクラブの1つだと思っています。やっぱりみんなハードワークするし、スタッフも選手もみんな真面目な人が多い。それがクラブのカラーだと思うし、今年にかける思いは現場からも伝わってくるので、僕らが目指すべきお手本のクラブではあるけど、僕らのやり方で彼らを抜いていかないといけないなと。一昨年は勝ったけれど去年はなかなか勝てなかったので、今年は結果も内容も上回りたいな、そうやって少しでも岡山というクラブに近付いて行きたいと思うし、そういう意味では再開初戦の相手としては開幕戦の京都と同じぐらいウェイトが高いと思っています。

ーーそれこそトレーニングマッチでも何度もやっているような、よく知っている近隣のクラブからやって行く難しさと面白さはどう感じていますか?

新戦力も加わっているし、あんま大きくメンバーが替わっていなくて、監督も替わってないので、去年の強みをそのまま維持しながら、新しい戦力が入っていると思います。なのでそんなに簡単には勝てないと思います。逆にうちの方がメンバーは替わっているし、やり方はそんなに変わってないですけどれども、うちに対して向こうがどう出てくるかというのは色々と研究している最中です。

ーーさっき言っていた立ち位置の部分でも個人的に楽しみなカードで、J1が無いので、集中して楽しみたいなと。

ただ単にガンバレガンバレとかお互い走りあって、肉弾戦でというゲームじゃなくてね。向こうも素晴らしい選手が揃っているし、個人のクオリティも高いので、そうでは無いところで僕らは勝負したいなと思っています。

ーー昨シーズンのJ1・J2入れ替え戦まで勝ち上がった徳島ヴォルティスのリカルド・ロドリゲス監督もそうですけど、東京ヴェルディからセレッソ大阪に行ったロティーナ監督にしても、そういう立ち位置をしっかり決めて相手を見てサッカーできるチームがJ1より先に出てきていました。今はJ1王者であるアンジェ・ポステコグルー監督の横浜F・マリノスも相手を見ながら立ち位置を変えられるチームですけど、そういうムーブメントは興味深いなと。

実際に試合を観ると、本当にそういうことをやろうとしているかどうかはすぐわかるので、まだまだ少ないのは少ないです。選手の質、今までの慣習、セオリーにある意味依存をして、そこで差を付けようと思っているチームの方が多いですね。リカ(リカルド・ロドリゲス監督)もそうだし、ロティーナもそうだし、アンジェもそうですけど、やっぱり外国人監督のところの方がそういうのが見て取れるので、日本人監督がもっと頑張らないといけないなと思います。

レノファ山口から見るJ2の楽しみ方

・シーズンの波を見る(今年は特に期間が短く崩れるチームが増えるかもしれない)

・3つの優位性(フリーになって受ける、どこで数的優位を作る、誰が1対1で勝負する)を観る

・4ー3ー3から変更があるかどうか

・スタメン=試合を作る選手、交代出場=試合を決める選手'''

※インタビュー全文はタグマ「KAWAJIうぉっち」に掲載

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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