残念な虫、かわいそうな虫の代表のようなイヌビワコバチのオス
イヌビワコバチのオスは、どこにでもあるイヌビワというイチジクの仲間の雑木の実(に見えるが実際は花嚢)の中の暗闇で孵化し、成長し、同じ実の中で育ったメスと交尾すると、外界に出ることなくそのまま一生を終える。蜂の仲間なのに、日の光を浴びることも、野山を飛び回ることもなく(羽がないので飛べない)、狭い実の中に閉じこもったまま死ぬのだ。あまりにも残念で、かわいそうで、悲しい一生ではないか。
一方メスの方は、交尾を終えた後で外に脱出して飛び回ることができる。あまりにも不公平ではないか。この実のようなものは正確には雄株の花嚢(丸い実のようなものの内側に花が咲く)なので、メスのイヌビワコバチは脱出の際に花粉を運ぶ。その後に雌株の実(これも花嚢、今が食べごろで結構おいしい)の中に入った場合には授粉を助け、実をおいしく熟させる。雄株の若い実に入った場合には、そこで産卵して世代をつなぐ(なぜか雄株の実の中でしか繁殖できない)。つまりメスはかなりいい思いをして、結構活躍する。あまりにも不公平ではないか。
それに比べ、オスは単なる精子提供者で、暗闇での交尾以外に何の役割も楽しみもない。あまりにも、かわいそうではないか。しかし、生物界全般を見渡してみれば、オスの一生はたいてい、こんなものだとも言える。
昆虫のオスの一生は悲しいものが多い。カブト、クワガタのようにオスが威張っている種は、ほんの一部だけだ。
そもそも、繁殖にオスを必要としない無性生殖の虫もいるし、オスは遺伝子の多様性を保つために、時たま出現するだけという虫もいる。
アリやハチの仲間では、オスはほとんど生殖のためだけに存在していて、交尾を終えると死を待つだけというのも多い。
それでも、大方のアリやハチのオスは、外界に飛び出して外の空気を吸って、大空を飛んで、運が良ければそこで交尾する。その後に死ぬなら本望とも言えよう。やはりイヌビワコバチのオスはかわいそうだ。