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「人口減少」を食い止めるヒントとは。その多様な要因を分析。大阪公立大学の研究

石田雅彦科学ジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 少子化と人口減少は日本にとって重大な問題だ。なぜ人口減少が起きるのか、それを食い止める方法はあるのか。日本の人口減少には多元的な要因があると指摘し、解決へのヒントを探る研究が大阪公立大学から出された。

なぜ人口減少が起きるのか

 消費が上向かない理由にはいろいろあるが、少子高齢化と人口減少が深刻化し、将来への不安が払拭できず、消費より貯蓄などへ向かう傾向があるというのもその一つだ。特に、地方から東京などの大都市圏などへ人口が集中することで人口減少に拍車がかかり、地方でも人口の奪い合いが起きている状況だ。

 2014年から第2次安倍政権がいわゆる地方創生を掲げ、岸田政権ではデジタル田園都市国家構想に名を変え、地方自治体の人口減少に歯止めをかける政策に予算を投じてきた。先日、10年間の成果報告があったが、東京一極集中は解消されず、地方自治体への予算がどう効果を上げたのか、その総括はない。

 生産労働人口が減少する中、働き手を外国人に頼らざるを得ない状況に陥っている。だが、封建時代ではないのだから、特定の地域に労働者を縛り付けておくことはできない。このまま外国人労働者を受け入れたとしても、日本の産業構造などが変わらなければ彼らも大都市圏へ集中し、同じことが起きるだろう。

 では、いったいなぜ大都市圏へ人口が集中し、その結果として全国的な人口減少が起きているのだろうか。

 よく言われているのが、若い世代を中心にした女性人口の地方からの転出増加だ。総務省が2024年7月に発表した住民基本台帳による人口の推移では、人口減少数が最も多いのが北海道(4万5930人)、次いで兵庫県(3万3004人)、3位が静岡県(2万7304人)、4位が新潟県(2万6236人)、5位が福島県(2万3362人)となっている。

 女性人口が転出する理由には、地元にはやりたい仕事がない、賃金が安い、公共交通機関の不備、結婚・出産・子育てへの不安などがあげられている。若い世代の女性が進学などで地方外へ転出し、そのまま大都市圏で就職して戻らないことも大きい。

 これは山間部や農村部に限った話ではなく、県庁所在地などのある地方自治体の地方都市でも共通した現象になっている。人口が減少して基本的なインフラの維持が難しくなった都市を縮小都市(Shrinking City)などというが(※1)、この傾向は日本以外でも世界中で広がっているという(※2)。

縮小都市とは何か

 つまり、世界的に都市部での人口増加がみられるのと対照的に一部の中小都市では逆に人口減少が起き、この傾向は2000年代に入ってから顕著になっているというわけだ。急速な都市化と縮小都市の増加という相反する現象が一種のパラドックスになっており、その原因の解明が主要な研究課題の一つになっている。

 このパラドックスの背景にあるとはっきりしているのがグローバル化だ。大店舗規制が取り払われ、既存の商業地から大規模な郊外店へ市場が移動し、地場産業が労働力の安い途上国へ流出し、地域の産業の多様性が失われ、地方自治体が財政的な危機に瀕するなどした結果、生まれ育った地域に勤め先がなくなり、交通や教育などのインフラなどが脆弱化し、若い世代が地域に魅力を感じられずに都市部へ流出するという状況に陥っている。

 世界的に進む縮小都市だが、日本では地方自治体の約75%が人口減少し、それぞれの地域に特色のある人口減少対策が求められている。だが、人口減少の理由には単純な相関や複数の要因が複雑に絡み合うため、これまでどんなことが人口減少に大きな影響をおよぼすのか、よくわかっていなかった。

 大阪公立大学大学院生活科学研究科、都市科学研究室の加登遼講師は、この疑問に答えるため、都市の規模(3分類、政令指定都市・中核都市、人口5万人以上の都市、町村)に応じて人口の変化率と相関する複数の要因を相互に影響をおよぼす値(非線形多次元的要因、人口変化率、人口規模、その他の269指標) として使い、機械学習手法の一つであるXGBoostアルゴリズムで分析した結果を国際的な都市計画雑誌に発表した(※3)。

 また、その他の指標として、0歳から14歳の人口変化率、金融・保険業の事業所数、学術研究および専門技術サービスの事業所数、戸建て住宅に居住する世帯数、交通事故数、麻疹または風疹のワクチン接種者数、中学卒業後、高校に進学した生徒数、税収などとした。

 本論文の結果としては、日本には全体の74.6%を占める1304の縮小都市があり、この割合はヨーロッパよりも多いことがわかった。また、日本の縮小都市のほとんどは中小規模の都市だった。

0歳から14歳の人口変化率が重要

 政令指定都市・中核都市、その他の都市、町村のいずれでも0歳から14歳の人口変化率の重要度が高かった。それ以外の指標では、政令指定都市・中核都市で2005年の人口変化率、金融・保険業の事業所数、学術研究および専門技術サービスの事業所数などの値の重要度が高く、人口5万人以上のその他の都市で2005年の人口変化率、自然人口変化率、65歳以上の人口数、財政力指数、町村では過疎地域の指定、65歳以上の人口変化率、15歳から64歳の人口変化率などの重要度がそれぞれ高かった。

 加登講師は、地方自治体ごとの人口変化率と強く関わる要因として、政令指定都市・中核都市では金融・保険業や学術研究・専門技術サービスなどのクリエイティブ産業の事業所数などが、人口5万人以上のその他都市では財政力指数などが、そして町村では過疎地指定などがあるのではないかと述べている。

 そして、都市の規模に応じた政策を検討する必要性を強調し、人口減少対策としては、政令指定都市・中核都市ではクリエイティブ産業の育成が重要であり、人口5万人以上の都市では子育て施策などを推進することが人口の自然増加や財政力の改善に期待でき、町村規模の地域では過疎地域に指定することの検討などが必要なのではないかとしている。

 加登講師は、過疎地域の持続的な発展を支援するための特別措置法に基づき、総務省によって指定され、過疎地域は財政支援を受けるが、指定を受けることで過疎地域の人口減少をさらに加速させるリスクがあるかもしれないと指摘している。

 過疎地域としてのレッテル貼りにより、若い世代がネガティブなイメージを抱くこともあるだろう。また、政府から支援されることで地域による自助努力が失われ、公共事業などへの依存も強まり、逆に過疎化が進む遠因になるという危惧だ。

 これまでの研究によれば、産業の多様性が高いほど縮小都市の人口減少を低く抑えるのに役立ち、その都市の経済構造を強化し、外部からの影響に対応することが必要とされる。都市も生態系の一つと考えれば、多様性は生態系の回復させるための重要な要素だ。

 加登講師の研究では、その都市の規模に応じた対策が重要とのことだ。都市計画よりも子育て支援のほうが優先度が高く重要な年もあるだろう。これらは人口減少を食い止めるためのヒントになるかもしれない。

※1:Cristina Martinez-Fernandez, et al., "Shrinking City: Urban Challenges of Globalization" International Journal of Urban and Regional Research, Vol.36, Issue2, 213-225, March, 2012
※2:Jian Wang, et al., "Driving factors of urban shrinkage: Examining the role of local industrial diversity" Cities, Vol.99, doi.org/10.1016/j.cities.2020.102646, April, 2020
※3:Haruka Kato, "Multidimensional factors correlated with population changes according to city size in Japan" Environment and Planning B: Urban Analytics and City Science, doi.org/10.1177/2399808324127438, 19, August, 2024

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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