『やすらぎの郷』パナマ文書まで登場。世間の話題を詰め込んだ週刊誌のようなドラマ
パナマ文書に名前が載っている人
東京のBテレに契約に行った貝田(藤木孝)が、どうやら石上(津川雅彦)に騙されたらしいと、〈やすらぎの郷La Strada〉が大騒動に。小春(冨士眞奈美)の行方もわからなくなり、彼女もグルではないかと疑惑が立ち込めて……。
週末、10週、第50話という区切りのいい回は、貝田や及川しのぶ(有馬稲子)の裏の顔が明らかになり、話が一気に盛り上がった。
パナマ文書が出てきて、そこにしのぶらしき人物の名前があった。彼女はタックスヘイブンのバージン諸島に株取引の口座をもっていたという、なんだか話がバカでかく、胡散臭くなった。前の夫の遺産ではないか。そのお金を『しのぶの庭』復活のために支払ったのではないか疑惑。いったいいくら払ったのだろう。
「あの事自体(パナマ文書のこと)、おれにはどうも複雑過ぎてよくわからんのだが」という理事長の台詞は、我々庶民の思いそのものだ。
「ジゴロは上品 ヒモは下品」
貝田は、しのぶの忠実なマネージャー兼ソフレ(愛人)なだけかと思ったら、北九州の炭鉱が破綻して、バンドマン(ピアニスト)となり、しのぶのヒモになったという天涯孤独の苦労人だった。
北九州の炭鉱の写真が何枚も挿入され、3週の戦時中の戦前慰問の話につづいて、昭和の歴史の記録にもなっている。3週の慰問の話と比べるとだいぶ短いが。そしてその重い話は、すぐに笑いで散らされる。
松岡(常盤貴子)「ヒモですね」
みどり(草刈民代)「そういう下品な言葉使わないの」……という、やりとりを経て、登場した名言はこれ。
「ジゴロは上品 ヒモは下品」(みどり)
上品に言えばジゴロの貝田は、自殺未遂を起こし、木更津の警察署に保護された。
小春は、秀さん(藤竜也)のところにいた。
2サスみたい
みどりや理事長・名倉修平(名高達郎)が、しのぶのヴィラに行くと、たくさんのドレスが虫干ししてあり、何も知らないしのぶが『しのぶの庭』復活を楽しみにしていることがわかる。なんとも言えない顔の修平。
みどりは、しのぶは石上に騙されたのだと切り出す。
2サス(2時間サスペンス)みたいなBGMがかぶって、しのぶは、ピアノの鍵盤を乱暴に叩き、「やだあ!」と絶叫する。
2サスのような音楽は続き、場面は事務所へ。連れてこられた小春に警察が「お話を聞かせてください」。
口元をショールでおさえ、とぼとぼと出ていく小春。
2サスみたいな展開だが、この退場の仕方がまた、名演技だった。
認知症のしのぶが、あまりそう見えなくなっているのが気になるが、生きがい(番組の復活)を得て、元気になったということなのか。だとしたら、詐欺だとわかった途端、認知症が進んでしまうそうで心配だ。
週刊誌の人気コンテンツがてんこもり
いずれにしても、『やすらぎの郷』50話中、最も、大きな事件が起きて、最も盛り上がった。前半のクライマックスといったところだろうか。詐欺に、色恋に、なつかしの番組、昭和の記憶、高齢化社会問題、パナマ文書……まるで週刊誌の人気コンテンツをめくっているようだ。長年、たくさんの人を釘付けにしてきた巨匠・倉本聰のドラマは、徹底的に世俗を網羅して、ぶ厚い。
その中で、ふたりの女の悲しみが交錯するところが見事(しかも、このふたりの女性が、どちらも男(人肌)に頼っていることも興味深い)。
彼女たちが栄光の若き時代からどうやって年を重ね、このやすらぎの郷にたどりついたのか描き、だが決してこの終着点も桃源郷ではないことを示す。老人たちの悲喜劇はこれからが本番ではないだろうか。
帯ドラマ劇場「やすらぎの郷」(テレビ朝日 月〜金 ひる12時30分 再放送 BS朝日 朝7時40分〜)
第10週 50回 6月9日(金)放送より。
脚本:倉本聰 演出:池添博