シティはハーランドを適応させられるのか?グアルディオラの思惑とゼロトップの先の戦術。
大きな挑戦が、待ち受けている。
今季、注目されるチームのひとつが、マンチェスター・シティだ。昨季、プレミアリーグを制したシティだが、チャンピオンズリーグではレアル・マドリーに敗れて準決勝敗退に終わった。
そして、この夏、シティは大型ストライカーの獲得に動いた。契約解除金6000万ユーロ(約84億円)を支払い、ボルシア・ドルトムントからアーリング・ハーランドを獲得した。
■シティのゼロトップ
近年、ペップ・グアルディオラ監督はファルソ・ヌエベ(偽背番号9/ゼロトップ)で戦うスタイルを追求してきた。
ベルナルド・シウバ、フィル・フォーデン、ケヴィン・デ・ブライネといった選手を最前線に配置。ストライカータイプの選手を起用せず、ゴールを生み出して勝つ方法を模索していた。
昨年夏には、セルヒオ・アグエロが退団した。“9番”の選手がガブリエウ・ジェズスのみとなり、グアルディオラ監督の策は固められていった。
2012年夏にバルセロナを去って以降、グアルディオラ監督が戦術の練度を至高の高みまで引き上げられたことはない。
順を追って話そう。少し時を遡る。グアルディオラ監督がファルソ・ヌエベを発明、あるいは発見したのは、2008−09シーズンのバルセロナだ。
その時、バルセロナにはリオネル・メッシというポテンシャルに満ちたヤングプレーヤーがいた。バルセロナがアルゼンチンから見つけてきた才能で、早い段階からカンテラに引き抜かれ、育てられていた。
だがメッシはグアルディオラ監督に会うまで、才能を開花させられていなかった。燻っていたわけではない。しかしながら当時のメッシは左利きで右ウィングに置かれる逆足のアタッカーで、ドリブルを得意とする選手だった。
そのメッシに、得点力があると見抜いたのは、グアルディオラ監督であった。【4−3−3】の頂点にメッシを据え、守備をある程度免除しながら、フリーロールのタスクを与え、フィニッシュワークに専念させた。シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタのサポートを得ながら、メッシは「ここぞ」という時に現れ、試合を決める選手へと変貌していった。
一方、バルセロナでは、ズラタン・イブラヒモビッチ、サミュエル・エトーといった選手が戦術の”犠牲”になった。
「グアルディオラはある時から僕と全く話さなくなった」とイブラヒモビッチが“断絶”を明かしており、エトーについては「フィーリングが合わない」という理由で放出されている。
■ストライカーの扱い
また、バイエルン・ミュンヘン時代、マリオ・マンジュキッチとそりが合わなかった過去がある。
フランク・リベリ、トーマス・ミュラー、マリオ・ゲッツェらがバイエルンで、ゼロトップで試された。だが、元々、バイエルンはストライカー型の選手を重宝するチームだった。ロイ・マカーイ、ルカ・トニ、マリオ・ゴメス…。多くの選手が、バイエルンのためにゴールを量産して、タイトル獲得に貢献した。
2014年夏にマンジュキッチを放出したバイエルンだが、ドルトムントとの契約が満了してフリーになったロベルト・レヴァンドフスキの確保に動いた。その一件で、グアルディオラ監督はバイエルンと契約延長しない意向を固めたというエピソードがあるほどに、グアルディオラ監督の拘りは強かった。
アグエロはシティで、グアルディオラ監督の下、183試合に出場して124得点をマークした。G・ジェズスは、205試合に出場して85得点を記録している。
だが今夏、シティはG・ジェズスを移籍金5200万ユーロ(約73億円)でアーセナルに移籍した。代わりに、ハーランドが到着した。
「ハーランドが自身の感じるフットボールを体現している限り、どれくらいゴールを決めるかは問題ではない」とはグアルディオラ監督の言葉だ。
「彼がゴールを決めることを私は疑っていない。我々はチャンスを作り、彼はフィニッシャーだ。彼は我々のプレースタイルに適応しなければいけない。そして、我々はファイナルサードで彼に合わせられるようにする必要がある」
ハーランドを嵌めるため、グアルディオラの実験は続く。