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新型コロナ禍での“代役ブーム”が示すもの

中西正男芸能記者
(写真:アフロ)

 「麒麟」の川島明さんが新型コロナに罹患したことを受け、川島さん司会のTBSテレビ「ラヴィット!」ではあらゆる芸人さんが代役を務めています。

 少し前になりますが、1月30日放送のフジテレビ「ワイドナショー」では濃厚接触者と認定された松本人志さんの代役をモノマネ芸人・JPさんが務め、大きな話題になりました。

 もちろん、JPさん、そして東野幸治さんになりきって相手を務めたモノマネ芸人・原口あきまささんの達者さがあってこその高評価。これにほかならないのですが、JPさんの流れに端を発した代役の人に注目が集まるムーブ。ある種の“代役ブーム”にはこれまでの芸能界の代役にはなかった色合いが含まれています。

 オミクロン株になってからの感染爆発。そして、罹患した本人のみならずその周りの人間も動けなくなるというシステム上の足止め。

 感染を広げないことは大切なことだ。それは分かるけど、今の状況にこのシステムは合致しているのか。感染を広げないことにそこまで注力して、逆に失っているもの、パンクしてしまっているもの。そちらの方が問題なのではないか。

 そんな何とも言えないモヤモヤ、不安、逡巡。そこからのあきらめ。そういった声にならない声。形にならない思念。でも、しっかり充満して圧だけはある。

 その領域に完成度の高い笑いというシャープな“弁”を突き刺し、ガスを抜く。ガスが抜けていくサマも含めてエンターテインメントに昇華させる。それがJPさんの快活な代役が果たした役割だったと感じています。

 僕も個人的に1月26日に新型コロナ陽性となり、自宅療養生活を送りました。幸い、無症状だったため身体的なしんどさはほとんどありませんでしたが、自分が迷惑をかけてしまっている仕事関係の方々への申し訳なさ。

 そして、そういった方々への連絡や種々の調整。“症状以外の心苦しさ”がこの病気のややこしさのキモであることも身をもって感じました。

 コロナ禍でもなんでもない平時に松本さんがぎっくり腰になってしまった。代役にJPさんが登場した。この場合、今回のような風は吹いていないと思います。

 もちろん、松本さん、スタッフさんは番組作り、もっと言うならば、世間の風を読むプロです。今だからこそJPさんにオファーをお出しになったのでしょうが、実際、今回の起用が話題になり、JPさんに出演オファーが相次いでいると聞きます。

 準備のしようがない、いきなりの代役。すさまじいプレッシャーがのしかかると同時に、芸能界では大きなチャンスであるという風潮が根強くあります。

 天海祐希さんの代役を務め、さらに評価を高めた宮沢りえさん。市川海老蔵さんの代役を務め、世に名を知らしめた片岡愛之助さんなど枚挙にいとまがありませんが、今回のJPさんをめぐる流れには明らかに“もう一枚”乗っかっている。良いのか悪いのか、コロナ禍の圧という“もう一枚”が。

 幾重にも厄介な閉塞感も伴うコロナ禍。笑って済むことなどほとんどないのかもしれませんが、何も前向きなことがないのではケタクソ悪いことこの上なし。

 力ある人間が新たなスターになる。それくらいポジティブなことでもないとやってられないのも、また事実だと思います。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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